江月 | ||
龜田鵬齋 | ||
滿江明月滿天秋, 一色江天萬里流。 半夜酒醒人不見, 霜風蕭瑟荻蘆洲。 |
滿江の明月 滿天の秋,
一色の江天 萬里 流る。
半夜 酒 醒めて 人 見えず,
霜風 蕭瑟たり 荻蘆洲。
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◎ 私感註釈
※龜田鵬齋:江戸後期の儒学者。宝暦二年(1752年)〜文政九年(1826年)。名は翼。後に長興。江戸の人。寛政異学の禁では異端の頭とされた。
※江月:川の上にかかった月。 *似た雰囲気の詩に、盛唐末・杜甫の『登高』「風急天高猿嘯哀,渚C沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。」や中唐・白居易の『琵琶行』「潯陽江頭夜送客,楓葉荻花秋瑟瑟。主人下馬客在船,舉酒欲飮無管絃。醉不成歡慘將別,別時茫茫江浸月。」などがあり、南宋・戴復古の『琵琶亭』「潯陽江頭秋月明,黄蘆葉底秋風聲。銀龍行酒送歸客,丈夫不爲兒女情。隔船琵琶自愁思,何預江州司馬事。爲渠感激作歌行,一寫六百六十字。白樂天,白樂天。平生多爲達者語,到此胡爲不釋然。弗堪謫宦便歸去,廬山政接柴桑路。不尋黄菊伴淵明,忍泣衫對商婦。」などがある。また似た詩題に初唐・張若虚の『春江花月夜』「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜鞨K夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」がある。
※滿江明月滿天秋:川一面に澄みわたった月の光で、空いっぱいの秋になって。 ・滿江:川いっぱいの。 ・明月:澄みわたった月。
※一色江天萬里流:一色になった川と空が、遥かに流れていく。 ・江天:川の上空。また、川とその上空。ここは、後者の意で使われている。 ・一色江天:川と空が一色になって連なっているさまを謂う。夜の帷(とばり)に覆われて、天地が一体になっているさまを謂う。前出・張若虚『春江花月夜』の「江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。」に拠る。 ・萬里:長大な距離の形容。唐・張祜の『胡渭州』に「亭亭孤月照行舟,寂寂長江萬里流。ク國不知何處是,雲山漫漫使人愁。」とあり、前出・杜甫の『登高』に「無邊落木蕭蕭下,不盡長江滾滾來。萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。」とある。
※半夜酒醒人不見:夜半、酒から醒(さ)めると、人の姿は見えなくなっており。 ・半夜:夜半。 ・醒:さめる。 ・不見:見えなくなった。見失った。
※霜風蕭瑟荻蘆洲:寒い風が、オギとアシのしげった州(す)に、音をたてて寂しく吹いていた。 ・霜風:〔さうふう;shuang1feng1○○〕霜の降る寒い季節の風。 ・蕭瑟:〔せうしつ;xiao1se4○●〕秋風が音をたてて寂しく吹くさま。荒れ果てているさま。物寂しい。宋・劉克莊の『賀新カ』「北望~州路,試平章 這場公事,怎生分付? 記得太行山百萬,曾入宗爺駕馭。今把作握蛇騎虎。加去京東豪傑喜,想投戈、下拜真吾父。談笑裡,定齊魯。兩河蕭瑟惟狐兔,問當年 祖生去後,有人來否? 多少新亭揮泪客,誰夢中原塊土?算事業須由人做。」とある。 荻蘆洲:オギとアシのしげった州(す)。 ・荻蘆:〔てきろ;di2lu2●○〕オギとアシ。オギヨシとアシ。本来「蘆荻」〔ろてきlu2di2○●〕とすべき語を平仄の関係でその語の前後を入れ替えた。ここは「○○●●●○○」とすべき句なので、「蘆荻」のまま使うと「○○●●○●○」となる。そのため、前後を入れ替えた。 ・洲:しま。州(す)。川の中州。≒州。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「秋流洲」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
平成22.3.21完 平成23.7. 7補 |
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