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觀岳飛書
副島種臣

我今獲見岳飛書,
雄筆昂昂慷慨餘。
有宋朝廷公死後,
赤心報國一人無。





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岳飛(がく ひ )の書を()

(われ) (いま) 見るを()たり  岳飛(がく ひ )(しょ)
雄筆(ゆうひつ) 昂昂(かうかう)として  慷慨(かうがい) (あま)す。
(そう)の朝廷 有れども  公の死せし(のち)に,
赤心(せきしん) 國に(むく)ゆるは  一人(いちにん)も無し。

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◎ 私感註釈

※副島種臣:(そへじま たねおみ)明治の政治家。文政十一年(1828年)〜明治三十八年(1905年)通称は二郎。号して蒼海、一々学人。佐賀(肥前?)藩出身。国学者の父・兄の感化を受けて尊皇攘夷運動に投じ、後、長崎で英語を学んだ。明治維新後参与となり、政体書を起草、次いで参議・外務卿となる。征韓論分裂により、西郷隆盛、板垣退助らと下野、板垣らと民選議院設立建白書に名を連ねたが、自由民権運動には参加せず、侍講・枢密顧問官などを歴任。明治二十五年(1892年)には第1次松方内閣において品川弥二郎のあとを受けて内務大臣となり、選挙干渉後の処理をしようとしたが、事成らずして辞職。再び枢密顧問官となった。(『角川 日本史辞典』より)

※観岳飛書:岳飛の書をながめみる。 ・観:〔くゎん;guan1○〕物をながめみる。そばから物を見物する。 ・岳飛:〔がくひ;Yue4Fei1●○〕南宋の武将。抗金の漢民族の英雄。相州の湯陰(現・河南省に属す)の人。主戦派。そのため、講和派の秦檜の讒言により、罪を得て謀殺される。漢民族の英雄とされる。字は鵬挙。北宋末に義勇軍に入り、軍功をあげ、湖北の地で軍閥の巨頭となった。金軍との戦争を主張し、和議派の宰相秦檜(しんかい)に罪を着せられて獄死。後世、その功績を称えて後に鄂王(がくおう)に封じられ、民族的英雄として岳王廟にまつられた。書家としてもすぐれていた。北宋・崇寧二年(1103年)〜南宋・紹興十二年(1142年)。

※我今獲見岳飛書:わたしは、今、岳飛の書をながめ見る機会を得た(が)。 ・獲見:見る機会を得る。清末・秋瑾の『日本鈴木學士寶刀歌』に「 鈴木學士東方傑,磊落襟懷肝膽裂。一寸常縈愛國心,雙臂能將萬人敵。平生意氣凌雲霄,文驚坐客翻波濤。睥睨一世何慷慨?不握纖毫握寶刀。寶刀如雪光如電,精鐵鎔成經百煉。出匣鏗然怒欲飛,夜深疑共蛟龍戰。入手風雷繞腕生,眩睛射面色營營。山中猛虎聞應遯,海上長鯨見亦驚。君言出自安綱冶,于載成川造成者。~物流傳七百年,於今直等連城價。昔聞我國名昆吾,叱咤軍前建壯圖。摩挲肘後有呂氏,佩之須作王肱股。古人之物余未見,未免今生有遺憾。何幸
獲見此寶刀,頓使庸庸起壯胆。萬里乘風事壯遊,如君奇節誰與儔?更欲爲君進祝語:他年執此取封侯。」とある。

※雄筆昂昂慷慨餘:力強く堂々とした筆勢で、意気さかんであり、憤(いきどお)り余している。 ・雄筆:力強く勢いのよい筆づかい。力強く堂々とした筆勢。 ・昂昂:〔かうかう;ang2ang2○○〕 意気さかんなさま。高くぬきんでているさま。志や行ないがすぐれて高いさま。『楚辭。卜居』に「
昂昂若千里之駒乎 將氾氾若水中之鳧乎,與波上下,偸以全吾躯乎。」とある。(ここでの意は「駿馬が元気よく走るさま」) ・慷慨:〔かうがい;kang1kai3◎●〕憤(いきどお)り嘆く。悲しみ嘆く。また、意気が盛んなこと。南宋・岳飛の『滿江紅』に「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,壯懷激烈。三十功名塵與土,八千里路雲和月。莫等閨A白了少年頭,空悲切。   康耻,猶未雪。臣子憾,何時滅。駕長車踏破,賀蘭山缺。壯志饑餐胡虜肉,笑談渇飮匈奴血。待從頭、收拾舊山河,朝天闕。」とある。 ・餘:あます。

※有宋朝廷公死後:(南)宋の朝廷は、岳飛公が死んだ後もあり続けた(が)。 ・有:(…が)ある。但し、「宋の朝廷がある」意としては、「有宋朝廷…」とは普通はしない。この文型だと「有[宋朝廷公死後,赤心報国一人無]」と考えたくなるが、それでは意味をなさない。なお、「南宋の朝廷は、岳飛公が死んだ後もあり続け…」の意だと、「公死後存宋朝廷,(赤心報国無一人)」のような感じになる。 ・宋朝廷:南宋の朝廷。(北)宋が滅ぶきっかけとなった靖康の変の後、臨安(現・杭州)に新たな都をかまえ、江南半壁に南宋をうち立てた。 ・公:ここでは、岳飛のことになる。

※赤心報国一人無:まごころで以て国家の恩に報いた者は、ひとりもいない。 ・赤心:まごころ。嘘いつわりのない、ありのままの心。=赤誠、丹心。 ・報国:国家の恩に報いる。 ・一人無:ひとりもいない。「無一人」とするところだが、「無」を韻脚としたいため、こうした。国を思う人がいないさまを詠った詩に宋・林升の『題臨安邸』「山外山樓外樓,西湖歌舞幾時休。暖風薫得遊人醉,直把杭州作汴州。」や宋・范成大の『州橋』「州橋南北是天街,父老年年等駕迴。忍涙失聲詢使者,幾時眞有六軍來。」などがある。なお、古くは『楚辭』にそれがある。屈原の『楚辭・離騷』に「已矣哉!國無人莫我知兮,又何懷乎故キ?既莫足與爲美政兮,吾將從彭咸之所居!」とある。

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◎ 構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「書餘無」で、平水韻上平六魚(書餘)、上平七虞(無)。この作品の平仄は、次の通り。

○○●●●○○,(韻)
○●○○○●○。(韻)
●●○○○●●,
●○●●●○○。(韻)

平成23.3.6完
平成24.3.4補



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