八幡公 | ||
頼山陽 | ||
結髮從軍弓箭雄, 八州草木識威風。 白旗不動兵營靜, 立馬邊城看亂鴻。 |
結髮 軍に從ふ弓箭 の雄 ,
八州 の草木 威風 を識 る。
白旗 動かず 兵營 靜かに,
馬を立て 邊城に亂鴻 を看る。
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◎ 私感註釈:
※頼山陽:安永九年(1780年)〜天保三年(1832年)。江戸時代後期の儒者、詩人、歴史家。詩集に『日本樂府』、『山陽詩鈔』(このページの写真)などがある。
※八幡公:通称八幡太郎といった源義家、八幡太郎義家のこと。平安時代後期の武将。長暦三年(1039年)〜嘉承元年(1106年)。源頼義の長男。幼名を源太、八幡太郎。前九年の役の武功により出羽守に任ぜられ、永保三年(1083年)、陸奥守兼鎮守府将軍となり、後三年の役を鎮定した。後三年の役の鎮定後の帰途、勿来の関にさしかかり、「吹く風を
『山陽詩鈔』壹
卷之二 第三葉
頼久太郎著
後藤松陰評註勿来 の關 と 思へども 道もせに散る 山櫻かな」(『千載集』)と詠じたことでも有名。この詩は絵を見ての作(『山陽詩鈔』(頼久太郎著 後藤松陰評註)壹卷之二 第三葉に「以下十三首盡係題畫」(写真:右)とある。同時代でやや後れての藤森弘庵は『八幡公勿來關圖』で「誓掃胡塵不顧家,懸軍萬里向邊沙。馬上殘日東風惡,吹落關山幾樹花。」と詠う。
※結髪従軍弓箭雄:成人の髪型に結って以来(=成人になって以降)、軍に付き従った武士のかしら(で)。 ・結髪:髪を結う。成人の風。転じて、成人として結婚する。前漢・蘇子卿(蘇武)『詩』四首其三に「結髮爲夫妻,恩愛兩不疑。歡娯在今夕,嬿婉及良時。征夫懷往路,起視夜何其。參辰皆已沒,去去從此辭。行役在戰場,相見未有期。握手一長歎,涙爲生別滋。努力愛春華,莫忘歡樂時。生當復來歸,死當長相思。」とある。 ・弓箭:〔きゅうせん;gong1jian4○●〕弓矢の意で、 弓矢をとる身。武士のこと。 ・雄:かしら(長)。おさ。まさる。ひいでる。
※八州草木識威風:関八州の草木は、(彼の)武威の風を知っていて(靡(なび)いている)(=従っている)。 ・八州:関八州のこと。江戸時代、関東八州(関東八ヶ国)の総称。相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・上野・下野。 ・識:知る。
※白旗不動兵営静:白旗の軍勢(=源氏の軍)は動ずることなく、静かであり。 *『孫子・軍爭篇』に「故兵以詐立,以利動,以分合爲變者也。故其疾如風,其徐如林,侵掠如火,不動如山,難知如陰,動如雷震。掠ク分衆,廓地分利,懸權而動。先知迂直之計者勝此軍爭之法也。」とある。 ・白旗:源氏の旗。
※立馬辺城看乱鴻:辺疆の城塞に馬を停めて雁の乱れ飛ぶさまを見ている。 *この句は『山陽詩鈔』壹(卷之二 第三葉 頼久太郎著 後藤松陰評註 右写真)では「立レ馬辺城看乱鴻」としている。その場合の読み下しは「馬を立て邊城に亂鴻を看る。」となる。金・ 完顏亮の『呉山』に「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」と同様な読み下しをすれば「立二馬辺城一看乱鴻」となる。 ・立馬:馬を止める。現・秋田県横手市金沢に源義家が馬を停めた「立馬郊」(「平安の風わたる公園」地図:下掲)がある。中唐・白居易の『勤政樓西老柳』に「半朽臨風樹,多情立馬人。開元一株柳,長慶二年春。」とあり、中唐・楊巨源の『折楊柳』に「水邊楊柳麹塵絲,立馬煩君折一枝。惟有春風最相惜,殷勤更向手中吹。」とあり、現代では毛沢東の六言詩『給彭コ懷同志』に「山高路遠坑深,大軍縱馳奔。誰敢刀立馬?惟我彭大將軍!」とあり、金・ 完顏亮の『呉山』に「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」とある。。 ・辺城:辺疆の城塞。国境の城塞。 ・乱鴻:(整然と列をなして飛ぶ)雁が乱れ飛ぶさまのこと。雁行の乱れ。後三年の役で、源義家軍が家衡・武衡軍の籠もる金沢柵への行軍中、西沼の付近を通りかかると雁行の乱れがあり、八幡太郎・源義家が清原軍の待ち伏せを見破った故事を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「雄風鴻」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
●●○○◎●○。(韻)
平成23.10.30 10.31 |
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