奉母遊天保山 | ||
藤井竹外 |
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倚舷洗盞水生紋, 喜見慈顏漸帶醺。 一樣彩舟銜尾去, 無人不解載紅裙。 |
舷 に倚 り盞 を洗へば水 紋を生じ,
喜び見る慈顏 漸 く醺 を帶ぶを。
一樣なる彩舟 尾を銜 みて去れば,
人の紅裙 を載 すと 解せざる無し。
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◎ 私感註釈
※藤井竹外:江戸末期の漢詩人。高槻藩の家臣。名は啓。字は士開。摂津国(大阪府)の人。文化四年(1807年)〜慶応二年(1866年)。頼山陽に学ぶ。
※奉母遊天保山:母を連れて、淀川の支流が大阪湾に注ぎ込むところにある天保山(てんぽうざん)で遊んだ。 ・奉:仕える。つとめる。上にいただく。たすける。たてまつる。動作のうやうやしさを表す言葉。 ・天保山:大阪の港にある土を積み上げて造られた山。淀川分流の安治川を浚渫した土砂で以て河口に築山を築き、灯台を設けて河口の標識としたところ。標高4.53メートルの築山で、日本一(/日本第二?)の低い山。目印山。
※倚舷洗盞水生紋:ふなべりに寄って、さかずきを洗えば、水面に波紋が出来て。 ・倚:よる。 ・舷:〔げん;xian2○〕ふなばた。ふなべり。舟の側面。 ・盞:〔さん;zhan3●〕さかずき。小さな酒杯。 ・水生紋:水面に波紋が出来る、意。
※喜見慈顔漸帯醺:慈(いつく)しみ深い(母の)顔が、ようやく酒の臭いを帯びてきた。 ・慈顔:慈(いつく)しみ深い顔。年長者の顔の美称。 ・漸:ようやく。 ・帯:おびる。 ・醺:〔くん;xun1○〕(酒に)酔う。酒臭い。におう。染まる。
※一様彩舟銜尾去:同じような美しいいろどりの舟が、前後に連なるようにして行ったが。 ・一様:同じである。違いがない。 ・彩舟:美しいいろどりの舟。 ・銜尾:(前を行く動物の)尾を咥(くわ)える。縦隊になって行くさま。 ・去:行く。去る。
※無人不解載紅裙:妓女を載せていると思わない人は無い。だれもが妓女を載せていると思う。 ・無人不解:…と思わない人は無い。だれもが…と思う。 ・無…不…:…しないものは無い。すべてが…(そうで)ある。(結果として)二重否定。中唐・劉禹錫の『元和十一年自朗州召至京戲贈看花ゥ君子』に「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」とあり、唐・韓翃の『寒食』に「春城無處不飛花,寒食東風御柳斜。日暮漢宮傳蝋燭,輕煙散入五侯家。」とあり、唐・荊叔の『題慈恩塔』に「漢國山河在,秦陵草樹深。暮雲千里色,無處不傷心。」とある。 ・解:…と理解する。さとる。 ・載:乗せる。 ・紅裙:赤いもすそ。(美しくて若い)女性の衣裳。妓女を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「紋醺裙」で、平水韻上平十二文。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
平成30.1. 9 1.10 |
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