題義士實録末 | ||
良寛 |
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捨生取義古猶少, 況又四十有七人。 一片忠心不可轉, 令人永思元禄春。 |
生を捨て 義を取る古 も猶 ほ少し,
況 や又た 四十 有七人。
一片の忠心轉 ず可 からず,
人をして 永く 元禄の春を思は令 む。
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◎ 私感註釈
※良寛:江戸後期の禅僧。寶暦八年(1758年)〜天保二年(1831年)。漢詩人。歌人。越後国(現・新潟県)出雲崎の人。俗姓は山本。名は栄蔵、後、文孝と改める。号は大愚。諸国を行脚、漂泊し、文化元年、故郷の国上山(くがみやま)の国上寺(こくじょうじ)に近い五合庵に身を落ち着けた。晩年、三島(さんとう)郡島崎に移った。高潔な人格が人々から愛され、子供達も慕ったが、人格の奇特さを表す逸話も伝わっている。ただ、遺されている漢詩は陰々滅々としたものがある。
※題義士実録末:『(赤穂)義士の実録』の本を読み、(感想として)巻末に詩を作って(書く)。 ・題-:…を(詩)題にして詩を作る。 ・義士実録:吉良邸への討ち入った赤穂浪士の義挙をありのままに記録した読み物。 ・末:巻末。
※捨生取義古猶少:大義の立場に立って、生命を抛(なげう)つことは、昔でも、なお少なかった(のに)。 ・捨生取義:大義の立場に立って、生命を抛(なげう)つこと。=「取義捨生」。 ・取義:大義の立場に立つ。大義を取り立てる。 ・捨生:生命を投げ出す。江戸・安積東海の『失題』に「捨生取義是男兒,四海紛紛何所期。好向京城埋侠骨,待他天定勝人時。」にあり、近藤勇の『辭世』に「靡他今日復何言,取義捨生吾所尊。快受電光三尺劍,只將一死報君恩。」とある。 ・猶:まるで…のようである。なお…ごとし。なお。…すら。なおまだ。
※況又四十有七人:ましてや、四十七人もいたとは。 ・況又:「いはんやまた」。「況又」の外に「いはんやまた」と読むものには、「況復」もある。「況復」:〔きゃうふく;kuang4fu4●●〕その上。それに加えて。ましてや…であつたとしても。いはんやまた。唐・劉希夷(劉廷芝)の『公子行』に「天津橋下陽春水,天津橋上繁華子。馬聲迴合青雲外,人影動搖鵠g裏。鵠g蕩漾玉爲砂,青雲離披錦作霞。可憐楊柳傷心樹,可憐桃李斷腸花。此日遨遊邀美女,此時歌舞入娼家。娼家美女鬱金香,飛去飛來公子傍。的的珠簾白日映,娥娥玉顏紅粉妝。花際裴回雙蝶,池邊顧歩兩鴛鴦。傾國傾城漢武帝,爲雲爲雨楚襄王。古來容光人所羨,況復今日遙相見。願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。百年同謝西山日,千秋萬古北塵。」とあり、杜甫の『兵車行』に「車,馬蕭蕭,行人弓箭各在腰。耶孃妻子走相送,塵埃不見咸陽橋。牽衣頓足闌道哭,哭聲直上干雲霄。道旁過者問行人,行人但云點行頻。或從十五北防河,便至四十西營田。去時里正與裹頭,歸來頭白還戍邊。邊庭流血成海水,武皇開邊意未已。君不聞漢家山東二百州,千邨萬落生荊杞。縱有健婦把鋤犁,禾生隴畝無東西。況復秦兵耐苦戰,被驅不異犬與鷄。長者雖有問,役夫敢申恨。且如今年冬,未休關西卒。縣官急索租,租税從何出。信知生男惡,反是生女好。生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」とあり、盛唐・岑參の『玉關寄長安李主簿』に「東去長安萬里餘,故人何惜一行書。玉關西望堪腸斷,況復明朝是歳除。」とある。 ・四十有七人:赤穂浪士の四十七名の武士を指す。元禄十五年(1703年)十二月十四日に、主君の浅野長矩の仇討ちとして、吉良義央の屋敷に討ち入った大石良雄以下四十七名のこと。
※一片忠心不可転:まことの忠誠心は、揺るがすことができない。 ・一片:(心、誠意、熱心などをいう際の)量詞(助数詞)。…の(心)。まことの。まったくの。盛唐・王昌齡の『芙蓉樓送辛漸』に「寒雨連江夜入呉,平明送客楚山孤。洛陽親友如相問,一片冰心在玉壺。」とある。 ・不可転:動かせない。揺るがせない。ころがせない。『詩經・國風・邶風』に「我心匪石,不可轉也。我心匪席,不可卷也。威儀棣棣,不可選也。憂心悄悄,慍於群小。覯閔既多,受侮不少。」とある。
※令人永思元禄春:人々に、長く元禄の(義挙を起こした人々の最期の)春を思い起こさせる。 ・令人:人に…させる。人をして…しむ。 ・元禄:江戸時代の元号の一つで、貞享の後・宝永の前。1688年から1704年までの期間を指す。ここでは元禄十四年(1702年)〜元禄十五年(1703年)の元禄赤穂事件を指す(浅野長矩の松之廊下での刃傷事件(:春)〜吉良義央の屋敷への討ち入り(:冬)〜義士の切腹(:春))。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「人春」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○●,
●●●●●●○。(韻)
●●○○●●●,
●○●○○●○。(韻)
平成30.11.2 11.3 |
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