**************
私感註釈
※七律 送瘟神 其一：疫病神（やくびょうがみ）（＝住血吸虫）を送り出す。この詩の前書きに「讀六月三十日人民日報，餘江縣消滅了血吸蟲。浮想聯翩，夜不能寐。微風拂煦，旭日臨窗。遙望南天，欣然命筆。」（六月三十日の人民日報で、余江県では住血吸虫を消滅させたということを読んだ。あれやこれやの思いが次から次に頭に浮かんで、夜に遂に寝ることができなかった。そよ風が暖かく吹いて、朝日が窓辺を照らした。遥かに南の空を望んで、喜んで筆を執った。）とある。『七律
送瘟神 其二』「春風楊柳萬千條，六億神州盡舜堯。紅雨隨心翻作浪，青山着意化爲橋。天連五嶺銀鋤落，地動三河鐵臂搖。借問瘟君欲何往，紙船明燭照天燒。」 はこちら。 ・送：送り出す。見送る。ここでは、「（疫病神を）追い出す」意で使われている。 ・瘟神：〔をんしん；wen1shen2○○〕疫病神（やくびょうがみ）。伝染病（の神）。ここでは住血吸虫のこと。住血吸虫とは、哺乳類などの血管に寄生する寄生虫の総称。住血吸虫症とは、中間宿主の貝から水中に出た幼虫が、皮膚から侵入し、侵入した幼虫は静脈に寄生し、肝硬変・脾腫・腹水を起こすというもの。
※緑水青山枉自多：（旧中国の）青々とした川と青々とした山（＝自然）は、いたずらに自慢する（ものの）。 ・緑水青山：青々とした川と青々とした山。「青山緑水」のこと。「緑水青山」という互文表現。「青々とした川と青々とした山」の状態の形容。「青山緑水」≒「緑水青山」。なお、「緑水青山」という「A1+N1，A2+N2」の互文のいいまわしに対して、「青緑山水」は、事実を述べている。方向詞、対義語、反義語から構成された主語＋述語構造のとき、その形容する表現として、この互文表現が見受けられる。北宋・黄庭堅の『和李才甫先輩快閣』に「山寒江冷丹楓落，爭渡行人簇晩沙。菰葉蘋花飛白鳥，一張紅錦夕陽斜。」とあり、現代・毛澤東の『人民解放軍占領南京』に「鍾山風雨起蒼黄，百萬雄師過大江。虎踞龍盤今勝昔，天翻地覆慨而慷。宜將剩勇追窮寇，不可沽名學覇王。天若有情天亦老，人間正道是滄桑。」とある。「緑水青山」は青々とした山河の状態の形容。この表現は、辛棄疾の『念奴嬌』「我來弔古」にも見られる。また、成語の「青山緑水」を「緑水青山」と表現したのは、平仄の関係。「青山緑水」は（○○●●）で、句中「○○●●」とすべきところで使い、「緑水青山」は（●●○○）で、句中「●●○○」とすべきところで使う。この句「緑水青山枉自多」は、「●●○○●●○」とすべきところ。似た用例では、同・毛沢東の『送瘟神』「春風楊柳萬千條，六億神州盡舜堯。紅雨隨心翻作浪，靑山着意化爲橋。天連五嶺銀鋤落，地動三河鐵臂搖。借問瘟君欲何往，紙船明燭照天燒。」での「舜堯」がある。熟語の「堯舜」を「舜堯」としたのは、押韻と平仄のため。（「堯舜」は（○●）で、「舜堯」は（●○）。）また、同・毛沢東の『七絶 屈原』「屈子當年賦楚騷，手中握有殺人刀。艾蕭太盛椒蘭少，一躍衝向萬里濤。」も同様、平仄のため。（「蕭艾」は（○●）で、「艾蕭」は（●○） ・枉：〔わう；wang3●〕まげて。むりにも。ことさら。むだに。むざむざ。いたずらに。むなしく。清末・秋瑾の『菊』に「鐵骨霜姿有傲衷，不逢彭澤志徒雄。夭桃枉自多含嫉，爭奈黄花耐晩風。」とあり、盛唐・李白の『清平調』三首之二に「一枝紅艷露凝香，雲雨巫山枉斷腸。借問漢宮誰得似，可憐飛燕倚新粧。」とあり、明・袁宏道の『荅君御諸作』に「溪鳥溪花盡寄聲：花源無路只空行。陶潛老被漁翁悞，枉把靑山累後生。」とある。 ・自多：自慢する。自分をひけらかす。前出・秋瑾の『菊』に「夭桃枉自多含嫉，爭奈黄花耐晩風。」とある。
※華佗無奈小虫何：（名医の）華佗でも、小さな虫（＝住血吸虫）をどうすることもできなかった。 ・華佗：〔かだ；Hua4Tuo2●◎〕後漢末・魏初の医師で、外科手術の名手。麻酔薬である麻沸散を飲ませて外科手術を行ない、寄生虫の駆除等に新しい手法を確立した。字は元化。沛の譙（現・安徽省）の人。 ・無奈…何：（…を）どうすることもできない。（…を）いかんせん。唐・韋莊の『長安春』に「長安二月多香塵，六街車馬聲轔轔。家家樓上如花人，千枝萬枝紅豔新。簾間笑語自相問：何人占得長安春？長安春色本無主，古來盡屬紅樓女。如今無奈杏園人，駿馬輕車擁將去。」とあり、 南唐後主・李煜の『搗練子』に「深院靜，小庭空，斷續寒砧斷續風。無奈夜長人不寐，數聲和月到簾櫳。」とあり、北宋・晏殊の『浣溪沙』に「一曲新詞酒一杯，去年天氣舊亭臺。夕陽西下幾時回？ 無可奈何花落去，似曾相識燕歸來。小園香徑獨徘徊。」とある。 ・小虫：小さな虫。ここでは、住血吸虫を指す。
※千村薜茘人遺矢：多くの村々は、（荒れ果てて）蔓草に覆われて、人々は（住血吸虫症のために）下痢をして（いた）。 ・千村：多くの村々の意。 ・薜茘：〔へいれい；bi4li4●●〕マキカズラ。蔓草の一種。また、オオイタビ。暖地の山地に生ずるクワ科の匍匐性常緑低木。 ・遺矢：〔ゐし；yi2shi3○●〕大便をする。＝遺屎：〔ゐし；yi2shi3○●〕。「矢」と「屎」とは同音〔し；shi3●〕。廉頗〔れんぱ；Lian2Po1○○〕将軍の故事に、秦が趙を攻めようとしたとき、趙王は廉頗を再び起用しようと思い、使者を遣って、廉頗がまだ戦えるかどうか確かめさせた。廉頗は王の使者を前にして、米一斗と肉十斤を食べた上に、鎧を身につけて、馬にまたがった、という故事を踏まえている。『史記卷八十一・廉頗藺相如列傳伝・第二十一』（二四四八頁 中華書局版６２０ページ） に「廉將軍雖老，尚善飯。（廉頗居梁久之，魏不能信用。）…趙以數困於秦兵，趙王思復得廉頗，廉頗亦思復用於趙。趙王使使者視廉頗尚可用否。廉頗之仇郭開多與使者金，令毀之。趙使者既見廉頗，廉頗爲之一飯斗米，肉十斤，被甲上馬，以示尚可用。」とあることに依る。趙使還報王曰：『廉將軍雖老，尚善飯，…」 老いたりと雖も尚も敵を駆逐する力の根元の食欲があることをいう。しかし、趙王は、結局、廉頗を用いなかった。その理由とは、「…然與臣坐，頃之三遺矢矣。』趙王以爲老，遂不召。」とある。
※万戸蕭疏鬼唱歌：多くの家々は荒涼として、亡霊が歌を唱っている。 *中唐・李賀の『秋來』に「桐風驚心壯士苦，衰燈絡緯啼寒素。誰看靑簡一編書，不遣花蟲粉空蠹。思牽今夜腸應直，雨冷香魂弔書客。秋墳鬼唱鮑家詩，恨血千年土中碧。」とある。 ・万戸：多くの家々の意。 ・蕭疏：〔せうそ；xiao1shu1○○〕荒涼としている。寂しい。まばらである。 ・鬼：亡霊。幽鬼。 ・唱歌：歌を唱う。
※坐地日行八万里：（宇宙の中での自転する地球では、）座っていても、一日に行く（距離は）八万里（４０,０００キロメートル）で。/動かないでいても地球は自転しているので、一日に移動する距離は四万キロメートルで地球一周（＝１回転分）。
*（この聯は他より飛躍しているが、わたしの手許の中国出版の毛沢東詩詞の解説に合わせておく。）晩唐・李商隱の『瑤池』に「瑤池阿母綺窗開，黄竹歌聲動地哀。八駿日行三萬里，穆王何事不重來。」とある。 ・坐地：地べたに座る。座る。座っている。 ・日行：一日に行く（距離は…）の意。 ・八万里：４０,０００キロメートル。地球一周の数値。周・漢：１里＝約４００m。清：１里＝５７６m。現在（中国）：１里＝５００m。
※巡天遥看一千河：天をめぐる（地球から、宇宙空間に広がる）多くの銀河を見る。 ・巡天：宇宙を巡遊する。大空をめぐる。ここでは、地球も大空をめぐる一つとしての「巡天」。 ・一千河：（大空、宇宙空間に見られる多くの）銀河を謂う。天(あま)の川を謂う。
※牛郎欲問瘟神事：（牽牛星となった）牽牛が、疫病神（＝住血吸虫症）の状況を尋ねたら。 ・牛郎：七夕（しちせき/たなばた）の故事での牽牛を指す。また、牛飼い。また、牽牛星。彦星。わし座のアルファ星アルタイルの漢名。 ・欲問：尋ねたい。聞きたい。
※一様悲歓逐逝波：悲しみ（も喜び）も同様になって、過ぎゆく川の流れ（＝時間の流れ）のままに過ぎ去っていった。 ・一様：同じ。同様である。 ・悲歓：悲しみ（と喜び）。ここでは「悲しみ」のみを謂う。偏義複詞。 ・逐：追う。 ・逝波：過ぎゆく川の流れで、時間の流れ、歴史の経過等で一度去って再び帰らないものの譬えとして使われる。「子在川上曰：逝者如斯夫！不舎晝夜。」（『論語・子罕』）。欧陽炯の『江城子』に「晩日金陵岸草平，落霞明，水無情。六代繁華，暗逐逝波聲，空有姑蘇臺上月，如西子鏡，照江城。」とある。
*****************
◎ 構成について：
韻式は、「ＡＡＡＡＡ」。韻脚は「多何歌河波」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○，（韻）
○○○●●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）
●●●○●●●，
○○○◎●○○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○●●○。（韻）
 次の詩へ
前の詩へ
毛主席詩詞メニューへ
************
《天安門詩抄》写真集
 詩詞概説
唐詩格律 之一
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
唐詩格律 之一
詩韻
詩詞用語解説
詩詞引用原文解説
詩詞民族呼称集
 天安門革命詩抄
秋瑾詩詞
碧血の詩編
李煜詞
辛棄疾詞
李清照詞
花間集
碇豐長自作詩詞
漢訳和歌
 参考文献（毛沢東詩詞）
参考文献（毛主席と文化大革命）
参考文献（文革期以降の文芸）
参考文献（詩詞格律）
参考文献（宋詞）
本ホームページの構成・他
|
わたしのおもい
|
