題畫犬 | |
明・高啓 |
猧兒初長尾茸茸,
行響金鈴細草中。
莫向瑤階吠人影,
羊車半夜出深宮。
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畫 の犬に題す
猧兒 初めて長 じ尾 茸茸 として,
行 きて金鈴 を響かす細草 の中。
瑤階 の人影に向かひて 吠ゆる莫 れ,
羊車 半夜に深宮 を出 づ。
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◎ 私感註釈
※高啓:明初の詩人。1336年〜1374年。明代最高の詩人とされる。字は季迪。江蘇省長州(現・蘇州)の人。元末に呉淞の青丘に隠棲する。詩風は唐宋の格調を保つ。『元史』の編纂に従事する。戸部右侍郎に任ぜられたが、固辞して郷里の青丘に隠棲する。しかし、洪武七年(1374年)、魏観の謀叛の罪に連座して腰斬の刑に処せられた。時に三十九歳。
※題画犬:宮女の絵を見て詩を作る。 *この詩と『題宮女圖』「女奴扶醉踏蒼苔,明月西園侍宴回。小犬隔花空吠影,夜深宮禁有誰來。」とが直接の原因(皇帝の好色な私生活を描いた)とされて、高啓は死罪となったと云われる。
※猧兒初長尾茸茸:狆(ちん)は、たった今大きくなったばかりで、尻尾はふさふさとしており。 ・猧:〔わ;wo1○〕ちん。日本原産の小型の愛翫犬。蛇足になるが、「倭」も〔わ;wo1○〕。 ・-兒:〔名詞+兒〕で、接尾字。小さいものや愛らしいものという感じや、軽く見るという感じを添える。特に日本語に置き換える言葉がない。 ・初:たった今。今し方。はじめて。中唐・白居易の『長恨歌』に「漢皇重色思傾國,御宇多年求不得。楊家有女初長成,養在深閨人未識。天生麗質難自棄,一朝選在君王側。回眸一笑百媚生,六宮粉黛無顏色。春寒賜浴華C池,温泉水滑洗凝脂。侍兒扶起嬌無力,始是新承恩澤時。」とある。 ・長:〔ちゃう;zhang3●〕成長する。育つ。 ・茸茸:〔じょうじょう;rong2rong2○○〕(草や毛が)密で柔らかく短いさま。生いしげるさま。
※行響金鈴細草中:こまかな草の中に行って、金の鈴を鳴らしている。 ・行響金鈴:構成上、犬のさまを詠うはずだが、おでましのさきばらいの鈴の音を聯想させる。
※莫向瑤階吠人影:玉(ぎょく)でできた階(きざはし)の人の影に吠(ほ)えてはいけないよ。 ・莫向…動詞…:…で…をするな。…に…するな。…に向かって…をするな。一文中に介詞(前置詞)と動詞がある場合、否定の副詞は動詞の前には附かないで、介詞の前に附く。例えば「向京都去」を打ち消す場合は、普通「莫向京都去」であって「向京都莫去」とはしない。(なお、動詞(吠)の前に「禁止・否定」の副詞(莫)を置き「向瑤階莫吠人影」とすれば、節奏上不都合であり、意味の変化を伴う。)中唐・孟郊の『古別離』に「欲別牽カ衣,カ今到何處。不恨歸來遲,莫向臨邛去。」とあり、北宋・晏幾道に『鷓鴣天』「醉拍春衫惜舊香,天將離恨惱疏狂。年年陌上生秋草,日日樓中到夕陽。雲渺渺,水茫茫。征人歸路許多長。相思本是無憑語,莫向花箋費涙行。」があり、 南宋〜元・趙孟頫の『岳鄂王墓』に「鄂王墓上草離離,秋日荒涼石獸危。南渡君臣輕社稷,中原父老望旌旗。英雄已死嗟何及,天下中分遂不支。莫向西湖歌此曲,水光山色不勝悲。」とある。 ・瑤階:〔えうかい;yao2jie1○○〕玉(ぎょく)でできた美しいきざはし。 ・吠:〔はい;fei4●〕(犬が)ほえる。 ・人影。ここでは皇帝の姿を暗に謂う。
※羊車半夜出深宮:(帝の乗った)羊に引かせた車が、夜半に、奥深い宮殿からお出ましになっている(のだから)。 ・羊車:宮中で用いる小さな車。羊に引かせる車。蛇足になるが、後宮の女性は天子の乗った羊車を自分のところで停めるために、羊の好物であった塩を門口に盛って、天子の羊車の羊の足を止めさせる工夫をしたという。それが現代の日本では、料理屋の門口に盛り塩をし、客足を停めるための縁起物となったと云う。 ・半夜:夜半。 ・深宮:奥深い宮殿。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「茸中宮」で、平水韻上平二冬(茸)、上平一東(中宮)。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○●○●,
○○●●●○○。(韻)
2012.3.23 3.24 |
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