長夜此靜坐, 終日無一言。 問君何所爲, 無事心自閑。 細雨漁舟歸, 兒童喧樹間。 北風忽南來, 落日在遠山。 願此有好懷, 酌酒遂陶然。 池中鴎飛去, 兩兩復來還。 |
夏日 閑居
長夜 此 く靜坐して,
終日 一言 も無し。
君に問ふ 何の爲 す所ぞと,
事 無くして 心自 づから閑なり。
細雨 に漁舟 歸り,
兒童樹間 に喧 し。
北風 忽 ち南より來 り,
落日 遠山 に在 り。
願 はくは此 に好懷 有りて,
酒を酌 み遂 に陶然 たらん。
池中 鴎 飛び去りて,
兩兩 復 た來 り還 る。
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◎ 私感訳註:
※高攀龍:明代の文学家・政治家。嘉靖四十一年(1562年)〜天啓六年(1626年)。字は存之、雲從。号して景逸。無錫(現・江蘇省)の人。万暦十七年の進士。後に、光禄寺少卿となるが、外戚を弾劾したことにより籍を削られた。やがて宦官の魏忠賢に迫害されて、最後は東林党人として捕らえられようとするが、自ら水に身を投げて死んだ。崇禎初年に、汚名は雪(そそ)がれた。
※夏日閑居:夏の日、世間との交わりを熄(や)め、煩(わずら)わされることなく、心静かに住むこと。 ・夏日:夏の日。夏。 ・閑居:世間との交わりを熄(や)め、煩(わずら)わされることなく、心静かに住むこと。中唐・白居易に『晩秋闍』「地僻門深少送迎,披衣闕ソ養幽情。秋庭不掃攜藤杖,蹋梧桐黄葉行。」がある。
※長夜此静坐:静かなのんびりした夜に、このように心をしずめてすわり。 ・長夜:静かなのんびりした夜。また、秋や冬の長い夜。ここは、前者の意。 ・静坐:心をしずめてすわる。精神を統一して端座する。
※終日無一言:まる一日、ひとつのことばも発しなかった。 ・終日:朝から晩まで。まる一日。ひねもす。 ・一言:ひとつのことば。
※問君何所為:あなたに尋ねるが、何事をなそうとするのか。 ・問君:あなたに尋ねる(が)。東晉・陶潛の『飮酒二十首』其五に「結廬在人境,而無車馬喧。問君何能爾,心遠地自偏。采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕佳,飛鳥相與還。此中有眞意,欲辨已忘言。」とあるのと同じ自問自答の形式。なお、盛唐・王維の『送別』に「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」とあるのは、自問自答ではない。 ・何所為:何事をなそうとするのか。 ・所為:〔suo3wei2●○〕なすところ。 ・所:場所。また、動詞の前に附いて動詞を名詞化する。魏・阮籍の『詠懷詩』其十に「昔年十四五,志尚好書詩。被褐懷珠玉,顏閔相與期。開軒臨四野,登高望所思。丘墓蔽山岡,萬代同一時。千秋萬歳後,榮名安所之。乃悟羨門子,今自嗤。」とあり、東晋・陶淵明の『雜詩十二首』其七に「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」とある。
※無事心自閑:平穏であって、心が自然とさわやかで静かである。 ・無事:とりたてて事のないこと。平穏であること。 ・自閑:自然と落ち着いている。自然とさわやかで静かである。王維の『答張五弟』に「終南有茅屋,前對終南山。終年無客常閉關,終日無心長自。不妨飮酒復垂釣,君但能來相往還。」とあり、盛唐・李白の『山中問答』に「問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。桃花流水杳然去,別有天地非人間。」とある。
※細雨漁舟帰:こぬか雨に、漁(いさ)り舟(ぶね)は帰ってきて。 ・細雨:小雨(こさめ)。こぬか雨。 ・漁舟:漁猟をする小さな舟。漁(いさ)り舟(ぶね)。
※児童喧樹間:子供は木立(こだち)の間で、騒がしくしている。 ・喧:〔けん;xuan1○〕(しゃべり声で)やかましい。騒がしい。かしましい。かまびすしい。
※北風忽南来:北風が知らぬ間に南から吹いて来て。 ・忽:知らない間に。知らぬ間に。また、たちまち。にわかに。突然。ここは、前者の意。 ・南来:南から来る。
※落日在遠山:沈みゆく陽が、遠い山(の向こう)にある。 ・落日:夕陽。沈もうとする太陽。衰勢を秘めた表現でもある。 ・在:…に(ある)。
※願此有好懐:願わくは、好意でもって。 ・願:ねがわくは。漢・烏孫公主・劉細君の『悲愁歌』に「吾家嫁我兮天一方,遠託異國兮烏孫王。穹盧爲室兮氈爲牆,以肉爲食兮酪爲漿。居常土思兮心内傷,願爲黄鵠兮歸故ク。」とある。劉希夷(劉廷芝)の『公子行』では「願作輕羅著細腰,願爲明鏡分嬌面。與君相向轉相親,與君雙棲共一身。願作貞松千歳古,誰論芳槿一朝新。」 とあり、『古詩爲焦仲卿妻作(孔雀東南飛)』では「君當作磐石,妾當作蒲葦,蒲葦紉如絲,磐石無轉移。」とある。 ・好懐:好意。好感を持つ。東晉・陶潛の『飮酒二十首』其九に「C晨聞叩門,倒裳往自開。問子爲誰歟,田父有好懷。壺漿遠見候,疑我與時乖。襤縷茅簷下,未足爲高栖。一世皆尚同,願君汨其泥。深感父老言,稟氣寡所諧。紆轡誠可學,違己詎非迷。 且共歡此飮,吾駕不可回。」とある。
※酌酒遂陶然:酒を酌(く)んで、うっとりと酔うことを追いたいものだ。 ・酌酒:酒を酌(く)む。 ・遂:追う。 ・陶然:〔たうぜん;tao2ran2○○〕酒に酔ってうっとりしているさま。うっとりと酔う。酔い心地のよいさま。東晉・陶潛の『己酉歳九月九日』に「靡靡秋已夕,淒淒風露交。蔓草不復榮,園木空自凋。清氣澄餘滓,杳然天界高。哀蝉無留響,叢雁鳴雲霄。萬化相尋繹,人生豈不勞。從古皆有沒,念之中心焦。何以稱我情,濁酒且自陶。千載非所知,聊以永今朝。」とある。
※池中鴎飛去:池の畔のカモメが飛び去って。 ・池中:池の中。通常は、(南宋・文天の『江月』和友驛中言別「乾坤能大,算蛟龍、元不是池中物。風雨牢愁無著處,那更寒蟲四壁。槊題詩,登樓作賦,萬事空中雪。江流如此,方來還有英傑。 堪笑一葉漂零,重來淮水,正涼風新發。鏡裏朱顏都變盡,只有丹心難滅。去去龍沙,江山回首,一綫青如髮。故人應念,杜鵑枝上殘月。」のように)「池中物」の龍のように水中に沈んでいる表現であるが、ここは「池邊」の意で使われる。
※両両復来還:二羽と二羽とになって、ふたたび還(かえ)ってきた。 ・両両:二つずつ。二つと二つずつ。(二羽と二羽で、四羽)。 ・復:また。またふたたび。陶淵明と陶淵明の時代の詩人が好んだ、語調を整えるための辞(字)でもある。 ・来還:もどってきた。
◎ 構成について
2013.7.28 7.29 7.30 |