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五月十九日大雨
                                                  
                        明・劉基

風驅急雨灑高城,
雲壓輕雷殷地聲。
雨過不知龍去處,
一池草色萬蛙鳴。




    **********************


            五月十九日 大雨(たい う )

風は 急雨(きふ う )()りて  高城(かうじゃう)(そそ)ぎ,
雲は 輕雷(けいらい)(あっ)して  ()(いん)たるの聲。
()ぎ  龍の去りたる處を 知らざれども,
一池(いつ ち )草色(さうしょく)  萬蛙(ばん あ ) 鳴く。





◎ 私感訳註:

※劉基:(元末)明の詩人。1311年(元・至大四年)〜1375年(明・洪武八年)。字は伯温。(現・浙江省)青田の人。元代の進士。

※五月十九日大雨:(旧暦)五月十九日に大雨が降った。 *詩の前半は激しい情景を描き、後半は大きく変わって、長閑(のどか)な光景を描いている。人生の寓意があるのかもしれない。 ・五月十九日:旧暦で、季節は夏。夏至を少し過ぎた頃か。(日本の季候でいえば梅雨だが、劉基の時代、彼がいたところではどうなるのか。) ・大雨:おおあめ。大雨がふる。

※風駆急雨灑高城:風が俄(にわか)雨を追いたてて、山地にある都市に俄(にわか)雨をそそいだ。 *この「風駆急雨灑高城」の句は、連動文的な表現が採られた「風
急雨高城」という構成。 ・駆:追う。駆る。 ・急雨:にわか雨。 ・風駆急雨:風がにわか雨を追いたてて、の意。慌ただしさのこもった表現。 ・灑:〔さい;sa3●〕(水を)まく。注ぐ。 ・高城:山地にある都市。

※雲圧軽雷殷地声:雲は、かすかな雷鳴の地を震わす音を押さえつけている。 ・圧:押さえつける。上から圧力を加える。圧する。中唐・李賀の『雁門太守行』に「K雲
城城欲摧,甲光向日金鱗開。角聲滿天秋色裏,塞上燕支凝夜紫。半卷紅旗臨易水,霜重鼓寒聲不起。報君黄金臺上意,提攜玉龍爲君死。」とある。 ・軽雷:かすかな雷鳴。 ・殷:〔いん;yin3●〕ふるわす。音声の響くさま。雷の音の形容。殷々(いんいん)と。「殷殷其雷」ごろごろと雷が鳴る。殷々と雷が轟(とどろ)く。清・黄中堅の『蚊』に「斗室何來豹脚蚊,如雷鼓聚如雲。無多一點英雄血,閑到衰年忍付君。」とある。 ・殷地声:地を震わす音、の意。

※雨過不知竜去処:雨が通り過ぎて(龍も通り過ぎたことだろうが)、龍の去っていった所がわからないが。 ・雨過:雨が通り過ぎる。後出・「龍去…」に対応する表現。「
…+…」。 ・不知:(…か)わからない。…かもしれない。知らず。 ・竜:龍。鱗介類の長。平素は淵に潜(ひそ)み、時が至れば雲を呼んで雨を降らせて天に昇る水神。降雨を司る。 ・竜去処:龍が去っていった場所の意。「雨過⇔竜去(処)」。 ・去:去(さ)る。行く。

※一池草色万蛙鳴:(ただ、)一つの池全てが青みがかった緑色になり、非常に多くのカエルが(やかましく)鳴いている。 *この句「一池草色万蛙鳴」は、句中の対で、「
一池草色万蛙」といった構成である。 ・一池:一つの池全て、の意。一つの池ことごとく、の意。池の全て、の意。 ・草色:青みがかった緑色。もえぎ色。草葉色。また、草の色。ここは、前者の意。 ・万蛙:非常に多くのカエル。





◎ 構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「城聲鳴」で、平水韻下平八庚。次の平仄はこの作品のもの。

○○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●◎●○○●●,
●○●●●○○。(韻)
2015.8.12
     8.13
                               
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