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庚子薦饑 | |
南宋・戴復古 |
餓走抛家舍,
縱橫死路岐。
有天不雨粟,
無地可埋屍。
劫數慘如此,
吾曹忍見之。
官司行賑䘏,
不過是文移。
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庚子 薦 りに饑 う
餓 えたるものは走 れて家舍 を抛 ち,
縱橫 路岐 に死す。
天 有れども 粟を雨 らさず,
地の屍 を埋 む可 き 無し。
劫數 慘 たること此 の如 く,
吾 が曹 之 を見るに忍 ばんや。
官司 賑䘏 を行 へども,
是 れ文移 なるに 過ぎず。
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◎ 私感註釈
※戴復古:南宋の詩詞人。1167年~(没年不詳)。字は式之。号は、故郷の南塘の石屏山に隠棲したことに因み、石屏と称する。天台黄岩(現・浙江省)の出身。江湖派の詩人として有名。江湖派とは、南宋中期、後期の詩歌流派の一で、江湖を流離った人々、つまり、進士試験の落第生や野にある知識人で、時の中央の詩壇に対して、下層社会(江湖)の中に出来あがった、社会の下層知識人の詩壇であると謂える。名の由来は、陳起が江湖(世間)の作品を集めて『江湖集』をはじめとして、『江湖×集』『江湖○集』という具合に、出版を続けたことによる。詩人は、本サイトに出てくる人物では、劉過、姜
、劉克荘
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、そしてこのページの戴復古などである。作風は、その社会的立場を反映して、中央政権や社会の中の矛盾には批判的な面を持ったものを、或いは、社会の第一線から身を引いて隠棲し、斜に構えた態度でのものが多い。
庚子薦饑:嘉煕四年(1240年)は、しばしば穀物が実らなかった。 ・庚子:〔かうし;geng1zi3○●〕かのえね。干支の三十七番目。ここでは、嘉煕四年(1240年)のこと。「庚子」は、干支で表した年。干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、「甲乙丙丁戊己庚辛壬癸」のことをいい、十二支とは「子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥」のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順に、次のように組み合わせていく: 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目以降は)丙子、丁丑…となって、合計は(
ページの)60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である
。それ故、庚子年は嘉煕四年(1240年)だけに限らず、±60年(の倍数年)も庚子年となる。(例えば:1300年、1360年、1420年…と。また、1180年、1120年…と
)。 ・薦:しばしば。たびたび。しきりに。 ・饑:〔き;ji1○微韻〕穀物が実らないこと。うえ。なお、「飢」〔き;ji1○支韻〕は:(穀物が無くて)ひもじい。 *『庚子薦饑』は、全てで「餓走抛家舍,縱橫死路岐。有天不雨粟,無地可埋屍。劫數慘如此,吾曹忍見之。官司行賑䘏,不過是文移。去歳未爲歉,今年始是凶。穀高三倍價,人到十分窮。險淅矛頭菜,愁聞飯後鐘。 新來慰心處,隴麥早芃芃。杵臼成虚設,蛛絲網釜鬵。啼飢食草木,嘯聚斫山林。人語無生意,鳥啼空好音。休言穀價貴,菜亦貴如金。」からなる。
※餓走抛家舍:(穀物が無くて)ひもじさの(あまり)家屋を擲(なげう)って逃げ出し。 ・餓:(穀物が無くてはなはだ)ひもじい(者)。飢えた(者)。 ・走:逃げる。はしる。 ・抛:なげうつ。 ・家舍:家屋。
※縱橫死路岐:道筋の別れるところで、方々に死んでいる。 ・縱橫:〔じゅうわう;zong4heng2●○〕思うまま。勝手気ままに。 ・路岐:道筋の別れるところ。おいわけ。
※有天不雨粟:天があっても、(『淮南子』に云うように)粟を降らすということはく。 ・雨:〔う;yu4●〕あめふる。動詞。雨が降る。ここでは:ふる・ふらす。『淮南子集釋』本經訓(中華書局版571ページ5~6行目)に「昔者,倉頡作書而天雨粟,鬼夜哭; (註:)「蒼頡始視鳥跡之文造書契則詐僞萌生,詐偽萌生則去本趨末,棄耕作之業而務錐刀之利,天知其將餓,故爲雨粟;鬼恐爲書文所劾,故夜哭也。」とある。 ・粟:あわ。ぞく。
※無地可埋屍:屍(しかばね)を埋(うずめる)めてもかまわないという場所が無い。 ・無地:(…をする)地が無い。 ・可:…てもかまわない。 ・埋屍:屍(しかばね)を埋(うずめる)める。
※劫数慘如此:(仏教で謂う)厄運(やくうん)のまわりあわせは、かくばかりに惨(みじ)めであり。 ・劫数:〔ごふすう;jie2shu4●●〕(仏教で謂う)避けられない災難。厄運(やくうん)。災厄(さいやく)。厄運(やくうん)のまわりあわせ。 ・如此:(災厄の)こういう(まわりあわせ)。
※吾曹忍見之:われわれは、これ(=災厄)を見るのをこらえられようか。 ・吾曹:〔ごさう;wu2cao2○○〕われわれ。わがともがら。わがさう。=吾属。吾輩。 ・忍:忍ぶ。耐える。がまんする。こらえる。
※官司行賑䘏:役所では、施し恵むことを行ってはいるが。 ・官司:役所。また、訴訟。ここは、前者の意。 ・賑䘏:〔しんじゅつ;zhen4xu4●●〕施し恵む。貧しい者や被災者などを憐れんで、金品等を恵み与える。=賑恤。
※不過是文移:公文書上でのことに過ぎない。 ・不過:(ただ)…にすぎない。 ・是:これ。これ(…なり)…は…である。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・文移:(同等の役所の間で)交わされる公文書。(政府から)発布した文書。公文書。ふれぶみ。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「岐屍之移」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
●○●●○。(韻)
●○●●●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
2019.7.23 7.24 7.25 7.26完 |
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