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晩泊岳陽 | |
北宋・歐陽脩 |
臥聞岳陽城裏鐘,
繫舟岳陽城下樹。
正見空江明月來,
雲水蒼茫失江路。
夜深江月弄淸輝,
水上人歌月下歸。
一闋聲長聽不盡,
輕舟短楫去如飛。
******
晩 に岳陽 に泊 す
臥 して聞く岳陽 城裏 の鐘,
舟を繫 ぐ 岳陽城下の樹。
正 に見る空江 に 明月の來 るを,
雲水 蒼茫 として江路 を失ふ。
夜 深くして江月 淸輝 を弄 し,
水上 人は歌ひて 月下に歸る。
一闋 聲 長くして 聽けども盡 きず,
輕舟 短楫 去 りて飛ぶが如 し。
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◎ 私感註釈
※欧陽修:(歐陽脩):北宋時代の政治家。詩人、散文作家。1007年(景徳四年)~1072年(煕寧五年)。姓は欧陽(複姓)。字は永叔。号して醉翁、六一居士。謚は文忠。唐宋八大家の一。
※晩泊岳陽:おそくなって岳陽に舟を泊(と)めた。この詩は七言古詩。七言律詩ではない。「◎構成について」参照。 ・泊:〔はく;bo4●〕船を岸につける。停泊する。 ・岳陽:洞庭湖の東北端の湖に臨む都市名。また、岳陽を含む岳州を指す。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)57-58ページ「江南西道」にあり、『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)27-28ページ「荊湖南路 荊湖北路」に岳州とある。現・湖南省の北部にある。瀟湘の川の流れが洞庭湖へ注ぎ込み、その洞庭湖から長江へ連なる水路の口に該る戦略上の重要都市。市街の北西、岳陽城の西城門上の楼閣・岳陽楼で有名。盛唐・張均の『岳陽晩景』に「晩景寒鴉集,秋風旅雁歸。水光浮日出,霞彩映江飛。洲白蘆花吐,園紅柿葉稀。長沙卑濕地,九月未成衣。」
とあり、宋の戴復古の『柳梢靑』『岳陽樓』「袖劍飛吟」がある。北宋の范仲淹の『岳陽樓記』
で、とりわけ有名になる。盛唐・杜甫『登岳陽樓』に「昔聞洞庭水,今上岳陽樓。呉楚東南坼,乾坤日夜浮。親朋無一字,老病有孤舟。戎馬關山北,憑軒涕泗流。」
とあり、清・王士禛の『樊圻畫』に「蘆荻無花秋水長,淡雲微雨似瀟湘。雁聲搖落孤舟遠,何處靑山是岳陽。」
とある。
※臥聞岳陽城裏鐘:横になって岳陽の街の中から(響いてくる)鐘の音を聞いて。 ・聞:きこえてくる。耳に自然と入ってくる。なお、後出に「聴」があるが、「聴」は、(聴き耳を立てて)きく。(意識して)聴き取る、意。 ・城:城壁で囲まれた区域。市街地。都市。城市。
※繋舟岳陽城下樹:岳陽の街中の木に船を岸に繋いだ。 ・繋舟:船を岸に繋ぐ。南宋・劉過の『糖多令』安遠樓小集 安遠樓小集,侑觴歌板之姫黄其姓者,乞詞于龍洲道人,爲賦此唐多令。同柳阜之、劉去非、石民瞻、周嘉仲、陳孟參、孟容,時八月五日也。に「蘆葉滿汀洲。寒沙帶淺流。二十年、重過南樓。柳下繋舟猶未穩,能幾日、又中秋。 黄鶴斷磯頭。故人今在不。舊江山、渾是新愁。欲買桂花同載酒,終不是、少年遊。」とある。
※正見空江明月来:人気(ひとけ)のないひっそりとした川に、曇りなく澄みわたった満月がちょうど見える。 ・見:みえる。なお、「みる」は:「看」「望」「觀」…など。 ・空江:人気(ひとけ)のないひっそりとした川。 ・明月:曇りなく澄みわたった満月。名月。中唐・徐凝の『憶揚州』に「蕭娘臉下難勝涙,桃葉眉頭易得愁。天下三分明月夜,二分無賴是揚州。」とある。
※雲水蒼茫失江路:雲と水が、目のとどく限りうす暗くひろがり、大きな川のふなじも分からなくなった。 ・雲水:雲と水。流れ行く雲と流れる水。禅宗の行脚(あんぎや)僧。晩唐・項斯の『日東病僧/日本病僧』に「雲水絶歸路,來時風送船。不言身後事,猶坐病中禪。深壁藏燈影,空窗出艾煙。已無鄕土信,起塔寺門前。」とある。 ・蒼茫:〔さうばう;cang1mang2○○〕(空、海、平原などの)広々として、はてしのないさま。見わたす限り青々として広いさま。また、目のとどく限りうす暗くひろいさま。遥かに遠い。高適の『燕歌行』に「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重橫行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉羽書飛瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」
とあり、盛唐・李白の『關山月』には「明月出天山,蒼茫雲海間。長風幾萬里,吹度玉門關。漢下白登道,胡窺青海灣。由來征戰地,不見有人還。戍客望邊色,思歸多苦顏。高樓當此夜,歎息未應閒。」
とあり、北宋・林逋が『秋江寫望』で「蒼茫沙觜鷺鶿眠,片水無痕浸碧天。最愛蘆花經雨後,一篷煙火飯漁船。」
と詠う。後世、明・高啓は『登金陵雨花臺望大江』で「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空
此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何祥,鐵鎖橫江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」
とする。 ・江路:大きな川のふなじ。ふな旅のみち。
※夜深江月弄清輝:夜が更(ふ)けて、川の上にかかった月が清らかな光をかなで。 ・江月:川の上にかかった月。 ・弄:たわむれる。もてあそぶ。めでる。かなでる。 ・清輝:清らかな光。月光のこと。盛唐・李白の『把酒問月』故人賈淳令余問之に「靑天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春,姮娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」とある。
※水上人歌月下帰:川の畔(ほとり)の人(or水上の舟の人)が歌いながら、月下に帰っていく。 ・水上:湖や池、川等のほとり。 ・…上:ほとり。場所を指す。この用例には、金・完顏亮の『呉山』「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」や盛唐・岑參の『與高適薛據同登慈恩寺浮圖』「塔勢如湧出,孤高聳天宮。登臨出世界,磴道盤虚空。突兀壓神州,崢嶸如鬼工。四角礙白日,七層摩蒼穹。下窺指高鳥,俯聽聞驚風。連山若波濤,奔走似朝東。靑松夾馳道,宮觀何玲瓏。秋色從西來,蒼然滿關中。五陵北原上,萬古靑濛濛。淨理了可悟,勝因夙所宗。誓將挂冠去,覺道資無窮。」
や中唐・白居易の『送春』「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」
や中唐・張籍の『征婦怨』「九月匈奴殺邊將,漢軍全沒遼水上。萬里無人收白骨,家家城下招魂葬。婦人依倚子與夫,同居貧賤心亦舒。夫死戰場子在腹,妾身雖存如晝燭。」
や元・楊維楨の『西湖竹枝歌』「蘇小門前花滿株,蘇公堤上女當壚。南官北使須到此,江南西湖天下無。」
がある。現代でも張寒暉の『松花江上』「我的家在東北松花江上,那裡有森林煤鑛,還有那滿山遍野的大豆高粱。我的家在東北松花江上,那裡有我的同胞,還有衰老的爹娘。」
がある。
※一闋声長聴不尽:音楽の終わり部分の歌声が長く伸びて、聴いていて尽きることがない(のに)。 ・闋:〔けつ;que4●〕(音楽が)終わる。また、歌曲を数える(量詞)。詞を数える(量詞)。また、宋詞の区切り、段落(宋詩は、多くは二段(我が国の唱歌で言えば、唱歌が「一番」と「二番」とから出来上がっているもの)の構成となっている。そのうち、詞の前半部分(一番)を上闋、後半部分(二番)を下闋という。 ・不尽:尽(つ)きない。
※軽舟短楫去如飛:軽快な舟は短い櫂(かい)で、あっという間に行ってしまった。 ・軽舟:軽快な舟。小さな舟。 ・短楫:短い櫂(かい)。 ・楫:〔しふ;ji2●〕かじ。かい。
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◎ 構成について
韻式は、「aaBBB」。韻脚は「樹路 輝帰飛」で、平水韻去声七遇、上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●○●○○●○,
●○●○○●●。(a韻)
●●○○○●○,
○●○○●○●。(a韻)
●○○●●○○,(B韻)
●●○○●●○。(B韻)
●●○○○●●,
○○●●●○○。(B韻)
2019.11.1 11.2 |
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