霫川道中 | |
金・蔡珪> |
扇底無殘暑,
西風日夕佳。
雲山藏客道,
煙樹記人家。
小渡一聲櫓,
斷霞千點鴉。
詩成鞍馬上,
不覺在天涯。
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霫川 道中
扇底 に 殘暑 無く,
西風 日夕 に佳 し。
雲山 客道 を藏 すも,
煙樹 人家を記 す。
小渡 一聲 の櫓 ,
斷霞 千點 の鴉 。
詩は鞍馬 の上に成りて,
覺 らず天涯 に在 るを。
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◎ 私感註釈
※蔡珪:〔さいけい;Cai4gui1●○〕金朝の文学家。生年月日不詳〜1174年。字は正甫。真定(現:河北省正定)の人。天コ三年の進士で、澄州軍事判官等に任じられた。文名が高く、博学を以て知られた。
※霫川道中:霫川(しふせん;現・しゅうせんXi2chuan1)の旅の最中。 ・霫川:〔しふせん;現・しゅうせんXi2chuan1●○〕霫(しゅう)の部族の聚落に至る通り道。 ・霫:〔しふ;Xi2●〕現・遼寧省西北部の地名。 「霫(しゅう)」は古代の匈奴の部族の一の名称で、その勢力範囲は現在の遼寧省西北部。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社))隋・唐まではあるが、『……第六冊 金』にはない(『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期50−51ページ河北道北部)。唐末には契丹族に融合したため。 ・道中:旅の途中。
※扇底無残暑:扇子の前では、(もはや)残っている夏の暑さも無く。 ・扇底:扇子の下面。扇子の奥。 ・残暑:秋になってまだ残っている暑さ。
※西風日夕佳:秋風が西の方から吹いて来て、日暮れ前は、素晴らしい。 ・西風:秋風。西の方から吹いてくる風。 ・日夕(にっせき):午後四時頃から日暮れまでの時。また、昼と夜。ここは、前者の意。 ・佳:よい。美しい。すぐれている。
※雲山蔵客道:雲のかかった高い山は、旅行く道を隠(かく)しても。 ・雲山:雲のかかった高い山。 ・蔵:かくす。 ・客道:旅路(たびじ)。
※煙樹記人家:炊煙が立ち籠(こ)める木々は、人の住む家があることを記(しる)している。 ・煙樹:(炊)煙が立ち籠める木(々)。 ・記:しるす。覚えている。記憶している。 ・人家:人の住んでいる家。また、人々。ここは、前者の意。
※小渡一声櫓:小さな渡し舟は、一回のかけ声で、長い櫂(かい)を漕(こ)ぎ進め。 ・小渡:小さな渡し(舟)。 ・櫓:〔ろ;lu3●〕ろ。長い櫂(かい)。船を漕ぎ進める物。
※断霞千点鴉:霞(かすみ)が途切れて、(現れた)千ほどの黒いぼち(の影の)鴉(カラス)。 ・断霞:かすみが途切れる。 ・点:黒いぼち。 ・鴉:カラス。
※詩成鞍馬上:詩が、馬の鞍に乗っている時(=旅行の移動中)に出来上がったが。 ・詩成:詩が出来上がる。 ・鞍馬上:馬の鞍に乗っている時。旅行の移動中を謂う。
※不覚在天涯:まさか(自分が)地の涯(はて)にいるとは考えられなかった。 ・不覚:覚(さと)らない。 ・天涯:地の涯(はて)。霫(しゅう)の地を指す。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「佳家鴉涯」で、平水韻(上平九佳(佳涯)・下平六麻(家鴉)。なお、現代(中国)語(北京語)では「佳家鴉涯」の四者の発音は「−ia」。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○◎●●,
○●●○○。(韻)
●●●○●,
●○○●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
2021.10.14 10.15 |
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