夏夜追涼 | |
楊萬里 |
夜熱依然午熱同,
開門小立月明中。
竹深樹密蟲鳴處,
時有微涼不是風。
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夏夜 涼を追ふ
夜熱 依然として 午熱に同じ,
門を開け 小く 立つ 月明の中。
竹 深く 樹 密にして 蟲 鳴く 處,
時に 微涼 有るも 是れ 風ならず。
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◎ 私感註釈
※楊萬里:南宋の学者、詩人。字は廷秀。号して誠齋。吉水(現・江西省吉水県)の人。1127年(靖康二年/建炎元年)〜1206年(開禧二年)。生涯、抗金に勤めた。南宋の「中興四大詩人」の一。
※夏夜追涼:夏の夜に、涼を求めて。 *多く俗語(現代語に通じるもの)が使われている。 ・追涼:涼を求める。
※夜熱依然午熱同:夜の熱気は、依然として昼間のあつさと同じで。 ・夜熱:夜のあつさ。「熱」は火があついことで、物質の温度が高いことをいう。「暑」は気候の温度の高いこと。但し、「苦熱」「三伏熱」は気温が焼け付くようにあつい時を謂う。なお、「熱」は現代語でも夏の日のあつさをいうのに一般に使うが、「暑」は書面で多く見る。 ・依然:相変わらずである。依然として。もとのまま。 ・午熱:昼間のあつさ。 ・午:うまの刻。正午。午後零時。ひる。 ・同:(…と)同じだ。
※開門小立月明中:ドアを開けて、しばらく月明かりの中に立っていた。 ・開門:戸を開ける。ドアを開ける。門を開く。現代語でもよく使う表現である。 ・小立:しばらく立つ。 ・小:少しの間。しばらく。時間が短い。現代語でもある。清末・秋瑾の『滿江紅』に「小住京華,早又是中秋佳節。爲籬下黄花開遍,秋容如拭。四面歌殘終破楚,八年風味徒思浙。苦將儂強派作蛾眉,殊未屑! 身不得,男兒列,心却比,男兒烈。算平生肝膽,因人常熱。俗子胸襟誰識我?英雄末路當磨折。莽紅塵何處覓知音?衫濕!」 や現代・老舎の『爲在華日本人民革命同盟會成立周年紀年題詩』に「一代和平風掃沙,海天雷雨鬪龍蛇。舊潮垂死碧城血,大地重生春是家。小住巴山盟菊竹,待還瀛州醉櫻花。臨流共誓同舟志,東海晨開萬丈霞。」とある。 ・月明:月明かり。
※竹深樹密蟲鳴處:竹藪が深く、樹々が密生して、虫が鳴いているところ(では)。 *この句の構成は「主・述 + 主・述 + 主・述 + 處」(竹・深+樹・密+蟲・鳴+處)となっており、明晰な表現である。蛇足になるが、「竹深樹密蟲鳴…」を「深竹密樹鳴蟲…」とすることも可能だ。では、どう使い分けするのか。それは、(読みあげる(歌う)時の語調(リズム感)や、意味合いの微妙な味わいの異なりを別とすれば)、句の平仄が基本として「○○●●○○…」の時に「竹深樹密蟲鳴…」とし、「●●○○●●…」の時には「密樹鳴蟲深竹…」とする。勿論、「○○●●○○…」の時に「蟲鳴樹密竹深…」とし、「●●○○●●…」の時には「深竹鳴蟲密樹…」ともできるが。 ・處:ところ。時。場所などを謂う。なお、詩詞では、「所」は動詞の前に置き、動詞を名詞化する使われ方が多い。
※時有微涼不是風:時々、微(かす)かな涼しさがあるものの、(それは)風ではない。(「只是」だと:時々、微(かす)かな涼しさがあるが、(それは)ただ風だけのことだ。) ・時有:時々(…がある)。しばしば(…がある)。 ・微涼:かすかなすずしさ。 ・不是:…は、…でない。…ではない。「是」の否定形(是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕)。文言の「非」に似た働きをする。現代語では、名詞(名詞句)を否定するのに極めてよく使われる。なお、「不是」を「只是」ともするが、現在、根拠を(江戸時代・紀州藩の渥美氏の手になる写本(楊萬里詩集の)『誠齋集』六冊八巻)を精読調査中。同詩集では、詩中に屡々(しばしば)「不是」が見られ、作者・楊萬里がすきなことばであったと看て取れる。「只是」は「ただ…だけだ」の意。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「同中風」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2009.7.16 7.17 |
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