留別王侍御維 | |
孟浩然 |
寂寂竟何待,
朝朝空自歸。
欲尋芳草去,
惜與故人違。
當路誰相假,
知音世所稀。
祗應守索寞,
還掩故園扉。
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王侍御維に留別す
寂寂 竟に何をか待たん,
朝朝 空しく自ら歸る。
芳草を 尋ねんと欲して去り,
惜むらくは 故人と違ふ。
當路 誰か 相假りん,
知音 世に稀なる所。
祗だ應に 索寞を守り,
還た 故園の扉を掩ふべし。
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◎ 私感註釈
※孟浩然:盛唐の詩人。689年(嗣聖六年)〜740年(開元二十八年)襄陽の人。官途に不遇で、郷里の鹿門山に隠れ棲んだ。山水詩に長じている。
※留別王侍御維:王維侍御に詩を書き残して別れ行く。 *就職活動で挫折して、不本意なまま郷里に帰っていく時の詩になろう。 ・留別:旅立つ人が詩を書き残して別れる。とどまる人へのいとまごいの詩を作る。「送別」の対義語。 ・王侍御維:侍御の官位にある王維。〔姓+官職+名〕と表現する。王維侍御。 ・侍御:天子の側に仕える官。
※寂寂竟何待:ひっそりとして何の音沙汰もなく、この上何を待っているのか。 ・寂寂:ひっそりとして寂しい。 ・竟:〔きゃう;jing4●〕ついに。とうとう。 ・何:何をか。反問、反語の語気。 ・待:まつ。待機する。
※朝朝空自歸:毎朝いつも、むなしく自分から決着をつけている。 ・朝朝:毎朝。朝朝には白居易の『長恨歌』に「聖主朝朝暮暮情」とあり、楚の襄王が巫山で夢に神女と契った時、神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるといった故事がある。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの)があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。「巫山之夢」に基づく。後世、宋・秦觀は『鵲橋仙』「纖雲弄巧,飛星傳恨,銀漢迢迢暗度,金風玉露一相逢,便勝卻人間無數。 柔情似水,佳期如夢,忍顧鵲橋歸路,兩情若是長久時,又豈在朝朝暮暮。」とあるが関係があろうか。 ・空:いたずらに。むなしく。 ・自歸:自分で結末をつける。また、自分から罪に服する意もある。ここは、自分から諦めて帰る意か。不明。同時代の盛唐・王維の『田園樂七首』之四に「萋萋春草秋香C落落長松夏寒。牛羊自歸村巷,童稚不識衣冠。」とある。
※欲尋芳草去:(この上は、)芳(かぐわ)しい草(の咲くところ)を尋(たず)ねて隠棲したく。 ・欲:…たい。…う。 ・尋:訪問する。たずねる。 ・芳草:よいかおりのする草。春の草。 ・尋…去:…を訪問しに行く。
※惜與故人違:残念なことだが、古くからの友人(王維)と別れることとなった。 ・惜:残念な(ことには)。惜しい(ことには)。 ・與:…と。 ・故人:古くからの友だち。旧友。ここでは、王維を指す。 ・違:離れる。遠ざかる。去る。
※當路誰相假:重要な地位についている者の誰に頼っていこうか。(あなた(=王維)ぐらいのものだ。) ・當路:重要な地位についている者。要路にいる者。 ・相:…ていく。 ・假:借りる。よる。請う。
※知音世所稀:真実の理解者は、世に稀(まれ)なものだ。 ・知音:知己。自分の琴の演奏の良さを理解していくれる親友のこと。伯牙は琴を能くしたが、鍾子期はその琴の音によって、伯牙の心を見抜いたという。転じて自分を理解してくれる知人。宋・岳飛の『小重山』「昨夜寒蛩不住鳴,驚回千里夢。已三更。起來獨自遶階行,人 悄悄 ,簾外月朧明。 白首爲功名,舊山松竹老,阻歸程。欲將心事付瑤琴,知音少, 絃斷有誰聽。」とある。秋瑾の『鷓鴣天』「祖國沈淪感不禁,閑來海外覓知音。金甌已缺總須補,爲國犠牲敢惜身。 嗟險阻,嘆飄零,關山萬里作雄行。休言女子非英物,夜夜龍泉壁上鳴!」などがある。『漢書・列傳・卷九十七上・外戚傳上』「孝武李夫人,本以倡進。初,夫人兄延年性知音,善歌舞,武帝愛之。毎爲新聲變曲,聞者莫不感動。延年侍上起舞,歌曰:『北方有佳人,絶世而獨立,一顧傾人城,再顧傾人國。寧不知傾城與傾國,佳人難再得。』上嘆息曰:『善。世豈有此人乎。』平陽主因言延年有女弟,上乃召見之,實妙麗善舞。由是得幸。」とあるのは、やや意味が異なる。 ・所-:…(とする)ところ。動詞などに附いて、名詞化するする働きをする。 ・稀:まれ(だ)。
※祗應守索寞:ただ、侘(わ)び・寂(さ)び(?!)の気持ちを固守して。 ・祗應:ただ…だけだろう。ただまさに。ちょうど…だろう。=只應。唐・白居易の『五年秋病後獨宿香山寺三絶句』其二に「飮徒歌伴今何在, 雨散雲飛盡不迴。 從此香山風月夜, 祗應長是一身來。」とあり、同・白居易の『一字至七字詩』「詩。綺美,瓌奇。明月夜,落花時。能助歡笑,亦傷別離。調清金石怨,吟苦鬼~悲。天下只應我愛,世間唯有君知。自從都尉別蘇句,便到司空送白辭。」とあり、両宋・辛棄疾の『鷓鴣天』「送人」に「唱徹陽關涙未乾,功名餘事且加餐。浮天水送無窮樹,帶雨雲埋一半山。 今古恨,幾千般,只應離合是悲歡?江頭未是風波惡,別有人間行路難。」とある。韋荘の『菩薩蠻』には「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還ク,還ク須斷腸。」とする。 ・祗:只(ただ)。 ・應:当然…であろう。まさに…べし。 ・守:固持する。 ・索寞:失意のさま。もの寂しいさま。
※還掩故園扉:なおもまた、故郷の隠居所のトビラを閉ざして浮き世との交渉を断とう。 ・還:また。なおもまた。 ・掩:閉じる。 ・故園:故郷。現・湖北省襄陽の鹿門山。 ・扉:とびら。開き戸。ここでは柴扉のことで、粗末な隠居所の扉の意になる。 ・掩…扉:トビラを閉ざして(浮き世との交渉を断つ)。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「歸違稀扉」。平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○●,
○○◎○○。(韻)
●○○●●,
●●○○○。(韻)
◎●○○●,
○○●●○。(韻)
●○●●●,
○●●○○。(韻)
2008.9. 5 9. 6完 2014.5.26補 2018.1.15 |
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