再經胡城縣 | |
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唐・杜荀鶴 |
去歳曾經此縣城,
縣民無口不冤聲。
今來縣宰加朱紱,
便是生靈血染成。
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再び胡 城 縣 を經
去歳 曾 て此 の縣城 を經 しとき,
縣民口 として冤聲 ならざるは無かりき。
今來 るに縣宰 は朱紱 を加ふ,
便 ち是 れ生靈 の 血を染めて成 りしもの。
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◎ 私感註釈
※杜荀鶴:晩唐の詩人。846年(會昌六年)〜904年(天祐元年)。杜牧の末子。大順二年(891年・昭宗)に進士に合格する。字は彦之。九華山人と号す。安徽省池州の人。
※再経胡城県:ふたたび(安徽省阜陽県の西北の)胡城県を通過した時の詩。 *唐末、各地に叛乱が起こった頃の詩。人民の声は、去年よりも今年と、一層、怨嗟に満ちてきている。しかし、県の長官は出世していた、と謂う政治諷刺の詩。 ・経:通る。通過する。へる。 ・胡城県:安徽省阜陽県の西北にあった町。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44−45ページ「唐 都畿道 河南道」では、潁州はあるが胡城は見つからない。現在、胡廟、胡集はあるが…。
※去歳曽経此県城:去年、この県(≒町)を通過したことがあるが。 ・去歳:去年。詩のこの部分で「去歳」を使って、「去年」を使わないのは、(語感の差異を暫く措けば、)「去歳」は●●(○●)のところで用い、「去年」は○○(●○)のところで用いるため。なお「去歳」は●●、「去年」は●○。この句は本来、「●●○○●●○」とすべきところ。 ・曽:以前に(…たことがある)。かつて(…たことがある)。「曽経」:かつて通過したことがある意。蛇足になるが、現代語では「曽経」で、副詞として「かつて(…たことがある)、以前に(…たことがある)」の意があるが、ここでは関係が無い。 ・県城:町。県政府(=役所)所在地。県庁所在地。現代中国では、「県」は(州や)市の下位にあるため、日本の「県」とはイメージや行政レベルが異なる。「城」:都市。町。中国は、城郭都市のため。
※県民無口不冤声:(その時(=去年)、)県民で、怨み言を言わない者はいなかった。(誰もが怨み言を言っていた)。 ・無…不…:…ないことはなかった。(みな…だ)。…ざる…(こと)なし。…として…ざるはなし。二重否定の形。盛(?)唐・荊叔の『題慈恩塔』に「漢國山河在,秦陵草樹深。暮雲千里色,無處不傷心。」とあり、南宋・陸游の『劍門道中遇微雨』に「衣上征塵雜酒痕,遠游無處不消魂。此身合是詩人未?細雨騎驢入劍門。」とある。 ・冤声:うらみの声。不平不満の声。「冤」:〔ゑん;yuan1○〕うらみ。あだ。不平不満。 ・無口不冤声:怨み言を言わない者は無い。(誰もが怨み言を言う)。
※今来県宰加朱紱:今回、来てみれば、県長は昇進して(高官としての)赤い(=朱=緋)の官服となっていたが。 ・県宰:〔けんさい;xian4zai3●●〕県の長官。「宰」:地方行政区の長官。 ・加:昇進する。加官。 ・紱:〔ふつ;fu2●〕印綬の組み紐(ひも)。官吏に任命される時、天子から身分や地位を示すしるしとして賜った印を下げるための組み紐。ただし、ここでは、四品、五品の緋の官服の意で使われる。
※便是生霊血染成:(県長の高官としての緋(ひ≒赤)の官服は)まさしく、人民の(赤い)血で染め上げられたものだ。 *この部分の正確な意は「(今来)県宰加朱紱,便是生霊血染成」で、「県宰は赤い紱を加えたが、(その赤い紱とは(=便是))、生霊の血で染めあげられたものだ」の意。 ・便是:絶対に。まったく。意志、強調、肯定…を表す。つまり。すなわち。 ・生霊:〔せいれい;sheng1ling2○○〕人民。生民。また、いのち。生命。ここは、前者の意。 ・血染成:血で染め上がった。血で染めぬかれた。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「城聲成」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2015.2.18 2.19 2.20 2.21 |
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