偶興
~梁・羅隱
逐隊隨行二十春,
曲江池畔避車塵。
如今贏得將衰老,
閒看人間得意人。
******
偶興
(
ぐうきょう
)
隊
(
たい
)
を
逐
(
お
)
ひ
行
(
かう
)
に
隨
(
したが
)
ふ
二十春
(
にじっしゅん
)
,
曲江
(
きょっかう
)
池畔
(
ちはん
)
車塵
(
しゃぢん
)
を
避
(
さ
)
く。
如今
(
じょこん
)
贏
(
か
)
ち得たり
衰老
(
すゐらう
)
を
將
(
もっ
)
て,
閒
(
のどか
)
に看る
人間
(
じんかん
)
得意の人を。
****************
◎ 私感註釈
※羅隠:五代・梁の文人。833年(太和七年)~909年(開平三年)。字は昭諫。本名は横。江東生と号する。呉越、新城の人或いは、錢塘(現・浙江省)餘杭の人。晩年、呉越王・銭鏐に仕えて、銭塘県令などを任じた。後梁の朱全忠に諫議大夫として召されるが行かず。『舊唐書・列傳・羅弘信・子威』「錢塘人羅隱者,有當世詩名,自號江東生。」或いは「江東人羅隱者,佐錢鏐軍幕」(『舊五代史・梁書』)ともする。
※偶興:ふと感興が湧いて詠んだ詩歌。 *官吏登用試験(科挙)に合格した進士の宴についてと、遂に合格しなかった自身とについての感興を詠ったもの。帝都・長安での進士合格者に対する春の花の宴に対しての感興。官吏登用試験(科挙)に合格した進士には、長安の曲江の池の畔(ほとり)にあった杏園で祝宴を賜り、長安の街を園遊し、咲き誇る牡丹などの花を観賞する慣わしがあった。
中唐・孟郊はそれに落第して、落胆のさまを『再下第』「一夕九起嗟,夢短不到家。兩度長安陌,
空將涙見花
。」
とうたい、後年、合格後には、同・孟郊は『登科後』で「昔日齷齪不足誇,今朝放蕩思無涯。春風得意馬蹄疾,
一日看盡
長安花
。」
と、がらりと変わった詩を作っている。同様に、中唐・張籍の『哭孟寂』に「曲江院裏題名處,十九人中最少年。今日春光君不見,杏花零落寺門前。」
とあり、晩唐・韋莊の『長安春』に「長安二月多香塵,六街車馬聲轔轔。家家樓上如花人,千枝萬枝紅豔新。簾間笑語自相問:何人占得長安春?長安春色本無主,古來盡屬紅樓女。如今無奈杏園人,駿馬輕車擁將去。」
がある。
※逐隊随行二十春:隊を組み、列に従って(科挙の試験場に)行くこと、二十年になる(が)。 ・逐:おう。 ・隊:くみ。統一のある多人数の集団体。 ・随:したがう。よりそう。ついて行く。 ・二十春:二十年。
※曲江池畔避車塵:(落第生の自分は、合格者の祝宴が開かれる)曲江のほとりでは、(合格者の乗った)車のたてる埃を避けた(ものだった)。 ・曲江:長安(
現・陝西省・西安
。
)の中心部より東南東数キロのところにある池の名。科挙で新たに進士となった者は、曲江の北の慈恩寺の南の通善坊にある杏園で祝宴を賜った後、大慈恩寺の大雁塔の下を訪れ、その壁に名を記した。
『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社(1991年上海)平岡武夫(原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版の中国での復刻唐代研究地図集)の「圖版三~ 第三圖~ 長安城圖」にある。杜甫は『
曲江
』で「朝囘日日典春衣,毎日江頭盡醉歸。酒債尋常行處有,人生七十古來稀。穿花蛺蝶深深見,點水蜻蜓款款飛。傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。
」
や、同・杜甫『
曲江
』「一片花飛減卻春,風飄萬點正愁人。且看欲盡花經眼,莫厭傷多酒入脣。江上小堂巣翡翠,苑邊高冢臥麒麟。細推物理須行樂,何用浮名絆此身。」
と詠う。なお、白居易の『三月三十日題慈恩寺』
を詠ったところは、この曲江の北にある慈恩寺である。唐代中期以降、科挙で新たに進士となった者は、慈恩寺の南の通善坊にある杏園で祝宴を賜った後、大慈恩寺の大雁塔の下を訪れ、その壁に名を記したことに因む。中唐・白居易の『三月三十日題
慈恩寺
』「
慈恩
春色今朝盡
,盡日裴回倚寺門。惆悵春歸留不得,紫藤花下漸黄昏。」
があり、同・
白居易の『酬哥舒大見贈』「去歳歡遊何處去,
曲江
西岸
杏園
東
。花下忘歸因美景,樽前勸酒是春風。各從微宦風塵裏,共度流年離別中。今日相逢愁又喜,八人分散兩人同。」
や同・白居易の『
杏園
花落時招錢員外同醉
』「花園欲去去應遲,正是風吹狼藉時。近西數樹猶堪醉,半落春風半在枝。」
や、後世、晩唐・韋莊は『長安春』で「長安二月多香塵,六街車馬聲轔轔。家家樓上如花人,千枝萬枝紅艷新。簾間笑語自相問:何人占得長安春?長安春色本無主,古來盡屬紅樓女。
如今無奈
杏園人
,駿馬輕車擁將去。」
と詠う。 ・池畔:ここでは、曲江のほとり。 ・車塵:車の通った時にたつほこり。
※如今贏得将衰老:今、手に入れた老齢の身となって。 ・如今:いま。当今。現今。 ・贏得:勝ちえて。勝った結果、の意。この「-得」((…した)結果)と同様の使い方に作者・羅隱の『蜂』「不論平地與山尖,無限風光盡被占。
採
得
百花成蜜後
,爲誰辛苦爲誰甜。」
がある。 ・将:…を以て。…を。…で。≒以。 ・衰老:〔すゐらう;shuai1lao3○●〕年を取って心身が衰え(てい)る。老衰する。
※閑看人間得意人:(部外者として)のんびりと、浮き世での得意になっている人(=科挙の試験で合格した人)を見つめている。 ・閑:〔かん;xian2○〕静かに。のんびりと。=閒。 ・人間:〔じんかん;ren2jian1○○〕人の世。この世。世間。 ・得意:満足する。得意になる。 ・得意人:ここでは、科挙の試験で合格した者のことになる。
***********
◎ 構成について
韻式は「AAA」。
韻脚は「春塵人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2018.9.22
9.23
9.24
9.25
次の詩へ
前の詩へ
抒情詩選メニューへ
************
詩詞概説
唐詩格律 之一
宋詞格律
詞牌・詞譜
詞韻
唐詩格律 之一
詩韻
詩詞用語解説
詩詞引用原文解説
詩詞民族呼称集
天安門革命詩抄
秋瑾詩詞
碧血の詩編
李煜詞
辛棄疾詞
李淸照詞
陶淵明集
花間集
婉約詞:香残詞
毛澤東詩詞
碇豐長自作詩詞
漢訳和歌
参考文献(詩詞格律)
参考文献(宋詞)
本ホームページの構成・他
わたしのおもい