唐彦謙曲江春望　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Tang Yanqian

曲江春望
	唐・唐彦謙

杏艷桃嬌奪晩霞，
樂遊無廟有年華。
漢朝冠蓋皆陵墓，
十里宜春下苑花。

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　　　　　　曲江の春望(しゅんばう)
杏(きゃう)艷(えん)　桃(たう)嬌(けう)　　晩霞(ばんか )を奪ひ，
樂遊(らくいう)　廟(べう) 無くして　　年華(ねんくゎ) 有り。
漢朝(かんてう)の冠蓋(くゎんがい)　　皆(み)な陵墓(りょうぼ)，
十里(じふり )の宜春(ぎしゅん)下苑( かゑん)の花。
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◎　私感註釈

※唐彦謙：晩唐の人。生年不詳～８９３年？。字は茂業。并州晋陽（現・山西省太原）の人。唐・僖宗の広明年間（８８０～８８１年）に兵乱を避けて漢南に転居し、著述に従事し、鹿門先生と号した。後、河中節度副使に抜擢され、晋州刺史に任じられた。博学多芸で詩に長じていた。

※曲江春望：曲江の池の春の眺め。自然は変わることが無く麗しく盛んであるが、人の営みは移ろうことが激しいと、唐朝の式微を慨(なげ)いて、漢に仮託して詠ったもの。　・曲江：長安中心部より東南東数キロのところにある池の名。また、地名。唐代に再開発された風光明媚な池。

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現・西安市（長安）東南東に曲江郷（曲江乡）とある。
下図は曲江の拡大図

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盛唐・杜甫の『曲江二首』其一に「一片花飛減卻春，風飄萬點正愁人。且看欲盡花經眼，莫厭傷多酒入脣。江上小堂巣翡翠，苑邊高冢臥麒麟。細推物理須行樂，何用浮名絆此身。」

とあり、『曲江二首』其二に「朝囘日日典春衣，毎日江頭盡醉歸。酒債尋常行處有，人生七十古來稀。穿花蛺蝶深深見，點水蜻蜓款款飛。傳語風光共流轉，暫時相賞莫相違。」

とある。　・春望：春の眺め。盛唐・杜甫に『春望』「國破山河在，城春草木深。感時花濺涙，恨別鳥驚心。烽火連三月，家書抵萬金。白頭掻更短，渾欲不勝簪。」

がある。

※杏艶桃嬌奪晩霞：アンズ（の花）は、なまめかしく、モモ（の花）はあでやかで美しくて、夕焼けにとってかわっている。＊「杏艶桃嬌」で【SA＋SA】の構文。　・杏：アンズ（の花）。なお、長安の曲江の池の畔には、杏園があり、進士に及第した者にそこで祝宴を賜った。　・艶：なまめかしい。あでやかに美しい。ふっくらと太って美しい。　・嬌：あでやかで美しい。たおやか。愛らしい。ういういしい。「桃光」ともする。　・奪：とってかわる。（地位などを）取り上げる。うばう。　・晩霞：夕焼け。ゆうばえ。

※楽遊無廟有年華：楽遊原の（前漢の皇帝・宣帝が建てた）廟は無くなっており、年月が経っている。　・楽遊：前漢の第九代皇帝・宣帝の時、長安の西南に造られた庭園の名。＝楽遊苑。＝楽遊原。楽遊廟は宣帝が建てた御霊屋（みたまや）。　・廟：祖先の霊を祭ったところ。御霊屋（みたまや）。祠（ほこら）。高貴な人を祭った社（やしろ）。　・年華：年月。月日（つきひ）。

※漢朝冠蓋皆陵墓：漢代の高位高官の人は、みな、陵墓（に収まっており）。　・漢朝：漢の時代。漢の朝廷。また、漢土。ここは、前者の意。　・冠蓋：〔くゎんがい；guan1gai4○●〕使者のかんむりや馬車のおおい。かんむりをつけ、おおいのある馬車に乗る身分の人。高位高官の人。　・陵墓：みささぎと、はか。天子や皇后・太皇太后・皇太后を葬る所である陵と、その他の皇族を葬る所である墓。

※十里宜春下苑花：十里（４キロメートル）の宜春苑は、花（である）。　・十里：４キロメートル～４.４キロメートル。（唐代の１里を約４００～４４０メートルとした場合）。風俗・風習が異なり始める距離。（「百里不同風，十里不同俗。」）。歩いて一時間かかる距離。　・宜春下苑：宜春苑。秦・漢の庭園・宮殿の名。作者の時代の曲江。「宜春漢苑」ともする。

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◎　構成について

韻式は「ＡＡＡ」。韻脚は「霞華花」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。

●●○○●●○，（韻）
●○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
●●○○●●○。（韻）

２０１８．１０．１５
　　　　　１０．１６
　　　　　１０．１７完
２０２０．　７．２３補