第194回

最近弱気になって考えたこと

05.10.12

先日、50歳代前半の患者さんが私の診察に受診されました。
社会的な地位のある方で、毎日大変忙しい生活を送られている様でした。
最近微熱があり、肩が凝り首筋が凝り、歯が痛くて物がかめない、思考力も持久力もめだって衰えてきたと言うことでありました。
そのような微細な異常(病気とはけっして言えないが・・・)が、人間のような社会的動物には大敵であるのです。
いっそ胃潰瘍や肺炎でもなれば、その病気のおかげで日常生活を質的に転換してしまうことが出来ます。しかし過労による微細な異常は誰からも同情されないし、お見舞いも届かないのです。
人間というものが生物としてさかんなのは25歳までで、その後は人類の種族保存上なんの必要性もなく、生体は死に向かってひたすら衰えていくのであります。
ところがここに人間の不幸があります。人間は社会的動物であるがゆえに生体の衰える年齢になってからが仕事が忙しくなり、活力とは反比例し体を酷使しなければなりません。
私の日常診療の中でもこういう悩みの患者さんが最近よく受診され、私はなんと答えればいいのか、いつも悩んでいます。
レントゲンや血液検査に異常なしとだけ説明しても患者さんは救われないのです(安心はされますが・・・)。
患者さんの話を聞けば聞くほど本当に気の毒だと思います。
人間を生物として考えると「もう衰えていく歳なんですから無理しないで・・・・・」などの言葉をかけるべきなのですが、社会的動物と考えれば「病気じゃないのですから気合いを入れて頑張りましょう。」と答えるしかないのです。

結局、私たち臨床医は人間を生物としてではなく社会的存在としてとらえたうえで、患者さんをいたわっていくことが必要であり、患者さんの保護者であるべきであると思うわけです。
しかし、何と答えていけばよいのやら・・・・・
「生物学的には種族保存上もう必要のない歳です」・・・・なんて言えないですよね。
毎日、毎日、真剣な表情の患者さんを前にして悩ましいことであります。

実は私もひとごとではない(死に向かってひたすら衰えていく・・・)歳なのであります。

ああ、歯が痛い、肩が凝る、腰が痛い、近くが見えない、眠れない・・・・

私は何のために生きている・・・・??
種の保存?・・・・・もう終わった!!

では何のために????
ん〜〜〜〜〜よく分からん!・・・・患者さんが来てくれるから明日も診療しよう!!

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