聴神経腫瘍腫瘍にかかった人の体験記

ドクターYがネットサーフィン中偶然発見したホームページのなかに記載されていたものです。非常にコミカルに楽しい文章で記載されていますが、内容は我々医師にとってドキッとするものです。患者さん側から見た病院、医師の態度、病気の診断を告げられるときの心理などがよくわかります。ドクターYもこの症例であやうく誤診するところでした。それだけにこの患者さん側からの話はドクターYの心にズシッと重くのしかかりました。ドクターYが患者さんの立場にたった診療をもっと出来るようになるためにもこの体験記を皆さんに紹介したいと思いました。どうぞ読んでみてください。

プロローグ
「残念ですが、腫瘍の可能性が大です。今すぐ、放射線科に行って MRI の検査を予約してきて下さい。そうですね、都合のつく限り一番早い予約で…」

あれ? 「腫瘍」って聞こえたような? それって、わし癌なの? うそぉ! でも、腫瘍には良性と悪性があるし、良性が malignant で悪性が benign … 逆だっけ?(注1)、いやいや、そんな話じゃないって。
簡単に言ってるから良性だよなぁ? でも、良性だったら良性って言うだろうなぁ。なんぼなんでもこの先生の様子からは、そんな深刻な話じゃないよね。妻が妊娠してるってわかったと云うときに、なんだか大変そうな話になっちゃったなぁ。・・・・
耳鼻科の先生の説明に生返事しながらも、頭の中には、「腫瘍」という言葉が、ぐるぐる渦巻いていた。
受診の前日、耳鼻科に寄ってくる旨を上司のY氏に連絡したら、「きっと聴神経腫瘍だな。」とからかわれていたんだけど、まさか本当になるなんて、と思いながらYさんの予想通りだったと会社に連絡を入れた。
ピタリと予言的中させたこのY氏、後で伝え聞いて本人の私よりショックを受けてたそうな。そういえば、その昔に初めて予兆とも云うべき難聴に気付いたのもYさんに電話連絡した時だったなぁ。
妊娠初期の妻には、さすがに腫瘍とは言えず、「耳の奥にポリープがあるかも知れないので、次にMRI検査を受ける。」とだけ伝えた。
(注1)
全く逆です。a malignant tumor=悪性腫瘍、 a benign tumor=良性腫瘍 だす。目指せ!TOEIC 700点Over

 予兆
1996年の12月、客先の訪問を終え、会社へ電話連絡した時だった。
「もしもし。Nですけど、あれー、この電話機壊れてるのかな? もしもーし、聞こえています?」
「あ”ーわ”がっぎごえでぐるら、おばえどびびがごれごぎ・・。」(こんな感じ)
どうやら、私の声は上司のY氏に聞こえているようだが、相手の言っていることが音が割れて聞き取れない。受話器の故障だと思った私は、隣にあった別の公衆電話からかけ直そうとして、それまで左耳に当てていた受話器を、たまたま右側に持ち替えたら、突然、相手の声が明瞭に耳に飛び込んできた。
あらま、壊れていたのは受話器ではなくて、自分の左耳だったのね。
今にして思えば、これが最初に現れた症状だった。電話以外不自由を感じなかったので、仕事が忙しかったこともあり、しばらく放っておいた。
周りの勧めもあり、4,5日してから会社の近くの開業医の「S耳鼻咽喉科」を受診、聴力検査と鼓膜の動きを調べる検査をした。結果は、耳の聞こえなくなる数日前にひいた風邪が原因で、耳管に鼻汁が流れ込み鼓膜の動きが悪くなっている、との説明だった。
治療として、「神経を休める薬」を服用しながら、1週間の間、毎日通院して点滴をうけた。(注1)
1週間後、再び同じ検査を行い、右耳と比べると低下しているものの、正常範囲に聴力が回復し、鼓膜の動きも改善されたので、治療終了となった。
多少、治療前と比べて聞こえは良くなったが、相変わらず左耳から聞こえる音は、割れて濁っていて、言葉の内容が理解しにくい状態だった。正常範囲といわれとも納得がいかなかったが、医者がそう言っているのだし、そのうちマシになるのだろうと軽く考えていた。
この音が割れて聞こえる症状が重要だなんて、など当時は知る由もなかった。
 
(注1)
このS先生は、まるで幼稚園児にでも聞かせるような説明で、病名すら正しくは教えてくれません。
先生の説明からすると、「外リンパ瘻」という病気のようですが、これは「突発性難聴」の治療に思えます。

症状の進行
最初の難聴症状から、2年間近くが経った。
この間、割れて聞こえる症状は一向に改善しなかった。実は、片耳だけが多少聞こえ難い程度なら、日常生活で困ることはほとんど無い。特に意識することもなく過ごしていた。困ることと言えば、事務所にたくさんある電話のうち、どれが鳴っているのか解りにくいぐらいであった。
ただ、風邪をひく度に、耳が詰まったような感じになり聞こえが悪くなった、ふらつきもでる様になっが、最初にかかったS耳鼻科での説明から、「またか。」思って気にしなかった。
また、仕事が忙しくて寝不足が続くとよくめまいがするようになった。「ふらふらになるまで仕事して、あぁ、俺って、なんて仕事熱心!」と脳腫瘍ならぬ、脳天気な私であった。
1998年8月9日、TV番組の「発掘! あるある大辞典」で、”聴く” と言うテーマの特集が放送された。番組を見ていると、どうも自分の症状は、”突発性難聴”に当てはまる様だ。なんとこの突発性難聴は、発病してから2週間以内に治療しないと治らなくなると知り、発病から2年近く経ってしまっていたので、「あぁ、この耳はもう治ることは無いのか。」と、まだのんきなことを考えて、そのままで生活していた。
あきらめながらも、だんだんと症状が悪化しているような気がしたので、治らないまでも一度きっちりと診断をつけてもらおうと思い、今度は聴覚の専門外来を設けている病院を調べ、会社から程近くの ”済生会 中津病院” の耳鼻科を受診することにした。

総合病院受診
1998年11月26日、また風邪をひいて少し聞こえが悪くなったのを機会に、総合病院の耳鼻科を受診する。
「実は2年ほど前に、かくかくしかじかで左耳の聞こえが悪くなって、それ以来、風邪をひく度にふらつきが出て聞こえが悪くなるんです。しばらくすると又良くなるんですけど、だんだん悪くなってきてるみたいで、」と初診で症状を説明しだすと、

話を聞いているK先生の顔がいきなり険しくなる。 ありゃりゃ。
「音自体は、ある程度聞こえるのですけど、割れて聞こえるので、言葉が聞き取れないんです。」

先生の顔が、もっと険しくなる。
すぐに聴力検査を受け、更に放射線科でレントゲン撮影を受ける様に指示される。放射線科の受付でレントゲンフィルムを受け取り、耳鼻科へ持ち帰ってくる途中、不安になりトイレでこっそり封筒からフィルムを取り出して見る。

今度は、私に衝撃が走る。うむむぅー! わっ、わからん。
自分で見ても全然わからないので素直に(?)耳鼻科の受付にフィルムを渡し、待つこと10分、診察室に通されて、シャウカステンに張られた2種類のフィルムの説明を受ける。
「左の内耳道が、右に比べ、太くなっています。」(ほぉぅ、そうやってみるのか。)
「左の耳の神経がぼやけて写っており、何かの影と考えられます。」(何かっ、何かってなんだ!)
次に、聴力検査の結果を示しながら、「聴力検査の結果からも、残念ですが、腫瘍の可能性が大です。今すぐ、放射線科に行って MRI の検査を予約してきて下さい。」

あれ? 「腫瘍」って聞こえたような? それって、わし癌なの? うそぉ! ・・・(冒頭;プロローグの項参照のこと)
”MRI単純撮影、聴神経腫瘍の疑い”と書かれた検査依頼用紙をもって放射線科の受付へ行き、検査の予約を取る。検査日は、1998年12月7日と決まった。

診断確定
 正直いって仕事も手に着かない。 ステロイドの副作用で、血色もよく、ふっくらと太り、まるで病人に見えない体で、インターネットから聴神経腫瘍関係のページを探して調べる。どんな病気か、だんだんとはっきりしてくるにつれて確信が生まれてくる。

「あかん! どっからみても、こりゃ、腫瘍だわね。」 
 症状を説明した時に先生が険しい顔になるはずだぁ。こうなれば問題は、腫瘍がどこまで大きくなっているかだな。大きければ、頭を開けて手術による切除が避けられないが、小さければ切らずにガンマナイフという特殊な装置を使った治療でなんとかなるらしい。頭開けて脳味噌触られるなんて正直いって怖い!
 この頃、心配性の妻が妊娠初期の大事な時期の真っ最中、「なんか脳腫瘍らしくて、頭開けて手術して1ヶ月くらいは入院するからね。いやいや、10時間くらいかかるちょっとした手術で、あとでいろいろ障害が出るくらいで全然心配ないよ。」なんてことはとても言えない。(注1) 困った私は、会社帰りに、駅の喫煙コーナーから、知り合いの女性にPHSでTELし、事情を話して相談に乗ってもらった。

「あのー! うちも、とうとう出来たんですよ。えぇ、赤ちゃん!おかげさまで。 ついでに、耳に腫瘍もできてしまったようで、場合によっては、頭開けて手術して1ヶ月以上入院することになるかも知れないんです。できたら安定期にはいるまで、手術とかは、待った方がやっぱり良いですかね。・・・
 気が付いたら、廻りに誰も居なくなっていた。あの時、そばでタバコ吸ってくつろいでいた皆さん、突然、なまなましい話で驚かしてすみません。小声で話すよう気を付けていたんですけど、話に熱中すると片耳が聞こえないせいもあり、声が大きくなってしまうんです。
 そうこうしている内に、検査の日はやってきた。既存のMRIの隣に、新型MRIの設置工事をしているおかげで、掘っ建て小屋のような準備室で検査着に着替える。できたら新型で撮って欲しかったなと思いながら検査を受けた。 10分ずつの撮影を3回繰り返して撮影終了。その日は、撮影のみで診察は無し。翌日主治医の先生の診察日に結果を聞く。

「やはり、腫瘍でした。大きさは約1cmです。これならばガンマナイフの適用が可能です。」
あぁ、やっぱりそうか。でも不幸中の幸い、開頭手術はせずに済みそうだ。少し安心する。
(注1)
これが、結婚8年目あきらめていたところへの、ようやくの授かりものでして、親族みんなの待望の子供なんですよ。先日、私の実家へ妻と共に顔を出した帰りなんぞ、実の母親から、「おまえは、どうなってもええから、お腹の子供だけは気を付けて。」と云われてしまいました。 あのぅ、気持ちは分かりますが、運転して帰るの私ですし、一応父親のつもりなのですが・・・

  
 

いかがでしたか?まだこの続きはホームページに公開されていません。公開されたら続きも紹介したいと思います。この体験記を読むと、医師の一つの思い込みが患者さんに大変つらい思いをさせてしまうことがよくわかります。ドクターYも注意しよう!

もどりましょう〜〜