第7回
アルツハイマー病の講演を聞いて
00.5.3

エーザイ抗アルツハイマー型痴ほう症薬「アリセプト」を1999年11月24日に発売しました。アルツハイマー病の治療はこれまで、運動や手作業、会話といった日々の生活や介護の中での取り組みが中心でした。しかし国内では初めてとなるアルツハイマー病の治療薬が承認されました。

ドクターYも何人かの患者さんに対して投薬を開始しましたが、はっきりいってアルツハイマー病なるものの理解がいまいちで、診断、治療についてどうしてよいか迷っていました。そんな中、脳神経外科医である池田順一先生が「アルツハイマー病の診断と治療」について、2000年4月25日熊本ニューオータニホテルで講演されました。非常に素晴らしい講演で、アルツハイマー病についてよく理解できました。

今回は、この講演の内容、ドクターYの感想等について皆さんに報告します。

痴呆症を示す疾患は多数あるが,その中の代表的疾患がアルツハイマー病である.

生理的な加齢現象による脳の萎縮状態を越えて病的に脳萎縮が進行した結果,痴呆症状を示すようになったものである.この病気はもともと精神医学者であるAlzheimerが1907年にみつけた52歳の女性の進行性痴呆症例にちなんで命名された.彼がこの女性の脳切片からみつけたのは,著明な神経細胞の脱落と特殊な染色法で染め出された老人斑,神経原線維変化と呼ばれる異常な構築物であった.それ以来,この特徴的な病理変化をもった初老期の痴呆症をアルツハイマー病と呼ぶようになった.しかし,50歳代,60歳代の初老期ばかりでなく高齢者を中心に老人一般にみられる痴呆症の中にもアルツハイマー病と同様の脳の病理変化を示すものが多数みつかり,最近ではこうした老人一般にみられるものも含めてアルツハイマー病,またはアルツハイマー型痴呆と呼ぶようになっている.老年人口が増えるにつれてさらに増加が見込まれている疾患である.

なぜ,老人斑や神経原線維変化が出来上るかはわかっていない.しかし,老人斑のコアを形作っているアミロイドタンパクの主成分であるベータタンパク前駆物質のアミノ酸の配列が判明している.これから逆にDNAの塩基配列を割り出して,遺伝子の座を突き止め,アルツハイマー病の成立ちを解明しようとする研究がなされている.

最近の疫学調査によると老年者で痴呆症のあるケース,すなわち老年期痴呆と呼べる状態の約60%はアルツハイマー病とみてよい,残り約30%が脳血管障害に基づく痴呆と考えられる.アルツハイマー病は特殊な疾患ではなく老年者によくみられる痴呆疾患である.

アルツハイマー病の基本的な症状としては

記銘・記憶障害

日時、場所に関する見当識障害

計算力の障害

理解力、判断力の障害

などである。

迷子になったり、今まで普通に出来ていたこと(たとえばもちつきの段取りなど)が出来なくなるなどがあると、これはかなり怪しいということだ・・・・・

真夏に平気で冬服を着るなども怪しい症状らしい・・・・

画像診断

MRI
 
MRIによってX線CTでは得にくい小さな血管障害や梗塞の拡がりを,さまざまな断面で骨の影響なしにみつけることができるほか,海馬付近の萎縮を前額断面でみることができ,アルツハイマー病の脳萎縮を早く発見できる利点がある. 正常な人の脳に比べ、アルツハイマー病の患者の脳は、記憶の中枢である「アンモン角」や、記憶や判断力に関係する「頭頂葉」が萎縮しています。

Xe-CT(ゼノンCT)

海馬や頭頂葉の血流低下が確認されるはずであるが検査に患者さんの協力がいること、検査費が高いこともあり一般的ではない。

治療

アルツハイマー病は、脳内の神経伝達物質アセチルコリンの濃度低下が原因の一つとされています。九九年十一月二十四日から発売となった新薬ドネペジル(商品名アリセプト)はアセチルコリンを破壊する物質の働きを阻害し、脳内のアセチルコリン濃度の低下を防ぐ働きがあります。根本的な治療薬ではありませんが、軽・中度のアルツハイマー病に対して進行を遅らせる効果が期待されています(重症例に対しては検討がされていないため、使用の対象からははずされております)。

早期発見して「アリセプト」を投与していくしか、現在のところ方法はないようです。

鑑別診断

アルツハイマー病と間違いやすい病気の症例提示もありました。

慢性硬膜下血腫

脳腫瘍

脳血管障害

などです。

やはり一度はCT, MRIなど撮っておかなければならないということでした。

アルツハイマー病の告知
 
講演の後の質問に告知の件がありました。

池田先生は患者さんしだいで臨機応変に考えるとおっしゃいました。

ドクターYもそうするしかないと思うのですが、下記の文献にこのことについて一つの考えが記してありましたので、紹介しておきます。

「アルツハイマー病であることがわかった時点で,病名を告知しなければならないときがある.患者本人は,病初期から自分が痴呆症であるとの病識を欠いている場合が多い.受診さえも拒否的なこともある.こうした患者に病名を告知して,治療や予後を説明することは慎重でなければならない.むしろ,介護家族に病名を告知し,治療法と予後について説明するのが現実的であろう.治療は対症療法と合併症治療に限られること,慢性進行性で,最終的には寝たきりに近い状態に至ることは見通しておかねばならない.そのうえで,残された機能を維持し,障害を援助する方策をともに考えていくといったことが必要である.医療とともに家族支援も含めた福祉との連携まで視野に入れておくことが望ましい。」
(浴風会病院 精神科・須貝佑一 神経内科・吉田亮一) 
(参考文献:平成11年6月号 内科=インフォームドコンセントの実際)

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