第99回

かぜのお話

00.12.29

風邪について

かぜとは何なのでしょう?

かぜは、口、鼻から肺までの空気の通り道である呼吸器が、
微生物や寒さの刺激を受けたことにより、
さまざまな反応を起こした状態(急性炎症)を示します。
正確には「かぜ症候群」あるいは「かぜ疾患群」といいます。
ごく軽いかぜを含めると、ひとは1年間に平均6回かぜをひくという統計があります。
呼吸器は四六時中、外の空気に接していますから、トラブルが多くなるのも無理からぬことです。
軽い症状のまま約1週間で治ってしまうことがほとんどですが、
ときには重い合併症を起こすこともあります。
「かぜは万病のもと」といわれるように、かぜを決してあなどってはいけません。

何故かぜにかかるのでしょうか?

1.かぜの原因
かぜは寒さやアレルギー反応で起こることもありますが、
多くの場合、病原微生物(病原体)の感染が原因で起こる呼吸器の急性炎症です。
かぜを起こす病原体にはウイルス、マイコプラズマ、細菌、クラミジアがありますが、
かぜの原因の80〜90%をウイルス(かぜウイルス)が占めています。
かぜウイルスには、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、
RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、コクサッキーウイルス、
エコーウイルス、コロナウイルス、レオウイルスがあります。
これらのウイルスは呼吸器以外でも感染を起こすものがあり、
アデノウイルスは眼の病気や乳児の下痢症、エコーウイルスは髄膜炎の原因にもなります。

2.かぜに何回もかかる理由
からだは、ウイルスに一度感染するとその免疫ができて、
次にそのウイルスが入ってきたときには、迅速に攻撃してやっつけてしまう仕組みを備えています。
しかし、この免疫はいつまでも残っているわけではありません。
また、ウイルスには多数の型があり、同じ種類のウイルスでも型が違うと免疫は十分には働きません。
そのため、異なるウイルス、また違う型のウイルスが侵入してくるたびに、かぜをひくことになります。

3.ウイルスの感染とからだの反応
ウイルスによるかぜをひいているひとの痰や鼻水は、たくさんのウイルスを含んでおり、
くしゃみや咳をしたときにしぶきとなって飛び出し、空気中に漂います。
そして、近くにいるひとに吸い込まれ、ほとんどが鼻の粘膜にひっつきます。
ウイルスは粘膜にある感染防御機構と戦い、
それに勝利すると粘膜の細胞の中に入り込んで増え始めます(感染の成立)。
やがて、ウイルスは細胞内を埋め尽くして、ついには細胞を壊します。
からだは、これに対して「炎症」で応じます。これが急性鼻炎です。
そして、感染が奥に進むにつれ、咽頭炎、喉頭炎、気管支炎、
肺炎が起こります(病名で○○炎というのは、炎症の炎なのです)。
(なお、かぜウイルスの中には痰や鼻水だけでなく、結膜や便の中にも出てくるものがあります。
その場合は、結膜や便に直接触れることでも感染します。)

かぜの症状にはどのようなものがあるのでしょうか?

1.炎症の場所によって症状は異なります
鼻の炎症は急性鼻炎といい、くしゃみ、鼻水(水状→粘液状→黄色い膿状)、
鼻づまりなどの症状を起こし、のどの炎症である咽頭(いんとう)炎では、
のどの粘膜の充血や腫れ、痛みを訴えます。
さらに、感染が呼吸器の奥へと進んだ喉頭(こうとう)炎では、声がれ、
ときには呼吸困難を起こし、気管、気管支、肺にいたると、咳や痰が出るようになります。

2.その他の症状
かぜには、前述のような呼吸器症状の他に、頭痛、発熱、腰痛、全身のだるさ、
食欲不振などの全身症状があります。
また、腹痛、下痢などの消化器症状が加わることもあります。

3.かぜの病型
これまでお話したように、かぜの症状はさまざまです。
そこで、全身症状があるのかないのか、呼吸器症状は何が中心かということで、
8つの型(病型)に分けられています。
個々のかぜウイルスについて、よく見られる病型というものはありますが、
同じウイルスでも場合によってさまざまな病型のかぜを起こします。



治療法は何でしょうか?

1.一般療法
からだの回復力を高めるには、安静と睡眠が大切です。
38℃以上の熱がある場合は、安静を助けるために水枕、氷枕をあてます。
体力をつけるには食事も大切です。
かぜの時には胃腸の働きが落ちるため、
葛湯、おかゆ、スープなど、消化が良く水分の多いものにします。
かぜをひいたひとが休んでいる部屋は、気温を18〜20℃、湿度を60〜70%に保ちます。
空気が乾燥していると、呼吸器の粘膜が乾燥して抵抗力が弱くなり、感染しやすくなるからです。
乾燥はインフルエンザウイルスの好むところで、湿度30%で最も盛んに増えるためでもあります。

2.薬物療法について
かぜのときに使われる薬は、かぜの症状を抑えるためのもの(対症療法)と、
細菌を殺すためのもの(化学療法)とに大別されます。
かぜの原因のほとんどはウイルスですが、現在のところ、かぜウイルスに効く薬はありません。
今年はもうすぐインフルエンザのA型、B型両方に効く薬が発売される予定です。

-対症療法にはどのようなものがあるか?-
・抗ヒスタミン剤:鼻水、鼻づまり、くしゃみを抑えます。

・うがい薬、口腔用製剤(トローチ):咽頭(いんとう)痛がある時に使います。

・解熱鎮痛剤:発熱は、病原体をやっつけようとするからだの正常な反応です。
       ですから、やたらに熱をさげるのはいいことではありません。
       そこで、解熱剤は38℃以上の発熱、強い頭痛や筋肉痛があり、
       苦痛のために身体が衰弱するような場合に限って使います。

・消炎鎮痛解熱剤:頭痛やのどの痛みが強い時に使います。熱を下げる作用もあります。

・鎮咳剤:咳には、痰を伴う湿った咳と、痰を伴わない乾いた咳とがあります。
     痰がある場合は、咳は痰を出す役目をするので、止めない方がよいのです。
     しかし、乾いた咳は安静や睡眠を妨げて体力を消耗させるだけなので、
     鎮咳剤で止めてしまいます。

・去痰剤:痰の粘りけが強く、気道にくっついて、なかなか出せない場合に使います。
     痰に水分を補ったり、痰を分解する働きのある薬です。

・総合感冒剤:以上の対症療法剤を2種類以上組み合わせた製剤です。
       製剤によって、組み合わせや量が異なるので、症状に合わせて選ぶ必要があります。

-化学療法にはどのようなものがあるか?-
・抗生物質:抗生物質は、細菌の増殖を抑えたり、殺したりする薬です。
      かぜでは、細菌が原因であることは少ないのですが、
      かぜで抵抗力が落ちたところに細菌が感染(二次感染)するのを予防するために、
      抗生物質を使うことが少なくありません。
      発熱がある場合、とくに重症になる恐れのある高齢者や慢性の病気を持っているひとには
      欠くことのできない治療です。

かぜの予防はどうすればいいのでしょうか?

1.簡単にできること
空気中には、ウイルスを含む細かい粒子が浮かんでいて、とくに混み合った電車やバス、
保育園や学校の教室など、ひとが多く集まる場所、また、かぜをひいたひとがいる部屋では、
ウイルスが高濃度で漂っています。
そこで、かぜの予防の第一は、このような場所を避けることです。
インフルエンザウイルスやライノウイルスに感染したひとが休んでいる部屋では、
湿度を60〜70%に保つと、ウイルスの増殖が抑えられ、呼吸器の抵抗力を保つことにもなり、
家族への感染を少なくすることができます。
頻回な手洗いやうがいも予防に効果があります。
そして、何よりも体調を整えて免疫力を保つことです。
生活の乱れ(睡眠不足、栄養不足、気のゆるみ)、強すぎる精神的ストレスがないようにしましょう。
女性では、生理中はホルモンの関係でかぜをひきやすくなるのでご用心ください。

2.ワクチン
ワクチンとは、ウイルスの一部(ワクチン)をからだに入れて免疫を作らせ、
本当のウイルスがやってきたときに、その免疫でやっつけてしまうというものです。
現在のところ、かぜウイルスでは、インフルエンザウイルスだけにワクチンがあります。
流行の直前に、流行するインフルエンザウイルスと同じ型のワクチンを打っておけば、
そのウイルスがからだに入ってきた時、確実にやっつけることができます。
また、ワクチンの型が流行しているインフルエンザウイルスと少し異なっていても、
侵入してきたウイルスの増え方を抑える効果があります。
つまり、ワクチンを打っておけば病院にかかるほどの症状にはなりにくく、
なったとしても入院するほどの重症化しない、重い合併症で命を落とす危険が少なくなります。
このようにワクチンはインフルエンザの予防に有効です。
とくに、体力や免疫力が低いためにインフルエンザにかかると重症になりやすい高齢者や乳幼児、
また、集団生活が流行の温床となる幼少児にとって、確実に役に立つ予防法です。

3.重症になりやすいひとは・・・
かぜは一般には軽い病気ですが、高齢者や乳幼児、慢性の病気(基礎疾患)を持つひとでは、
合併症を起こして重症になることも珍しくありません。
これらのひとたちは、かぜにかからないよう普段から予防することが大切です。
頻回の手洗いやうがいを励行し、インフルエンザが流行する時期に近づいたら、
先述したワクチンを受けておきましょう。
また、人混みに近づかないことも立派な予防法です。


参考

日本医師会雑誌

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