小説「永遠」-大人の童話- ART観賞の合間に小説で気分転換!

小説、ART(絵画=抽象・具象・シュール)油絵・水彩・木版画(ARTの現場)GRA-MA

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嗚呼小説
夏の出来事
(page1.短編2ページ)


普通の歳を重ねた男女。魂に年齢はない。

〈1〉

 夕暮れ時。
肩を並べるふたりは、夕日の影絵の中で美しい。
近寄ってみると、逆光で輪郭が光る男の手は、骨太だがすんなり伸びた指が印象的である。指の関節には、深くきざまれた皺があり傾いた日ざしのためにはっきりと強調されていた。
 女の手は、白くて皮膚は緊張をやめてはいたが、ふっくらとしていた。ふたりは歩いている。ときどき手が触れあった。女は男の顔に目をやった。眼の上からたれてきている皮膚が目蓋をさげ、人生の重みが積み重なっているような印象をあたえている。男も女の顔を見た。目はまるく、同じように皮膚をかぶってはいたが、どこか子供のようにいたずらっぽいところがあった。
 六十年以上も使ってきた目と目が、お互いの目の奥に、何を求め、何を見ているのだろうか。ふたりの触れるか触れないかの
手が、いつまでも揺れていた。

 「私、今日、スーパーの警備の人からゲートボールに誘われたんだけどねー」女の目が、子供っぽくくりくりと動いた。
 「へえ、やるね。もてるねー」と、言ったものの男は不愉快であった。
 「そういうことじゃないでしょ」女は楽しそうである。
 「じゃあ、なんで俺も誘わないんだ」
 「なんででしょうね」
 「ちぇっ、あのじじい。まぁいいか。それでなんて返事したんだ」
 「ええっ、まあね」
女は老いてはいたが目の動きからだの動きが老人のカラを被った子供のようにみえた。
 「・・あんなゲートボールなんかどこが面白いんだ。あのじいさんなんか、うまくもないのに何時だったか人にああしろこうしろってうるさく言いおって。あんなやつと俺はやるきもないよ」
男は、自分でもおとなげないと感じながらも喋っていた。
 「誰も、あなたに来てくれっていってないわよ」女は男の手を少しゆすったように見えた。
 「まったく、あのじいさん、なんでまたあんたに・・。いやなじじいだな・・」夕日を見ながら言った。
 「私も、あんまりゲートボール好きじゃないのよ。あんな玉打つだけのゲーム、なにが面白いんでしょうね」
今にもビルの谷間に沈んでいく夕日を見ながら女も言った。

 ふたつの影が遠く夕日のなかにとけ込んで行った。

 「今日は、俺の所に泊っていく日だったかな」
男は、日が沈んでしまった後の赤く染まった空を背に言った。
 「何か、他に用事でもあるんですか?」
女は、赤くなった雲を見ながら言った。 
 「いや、何もないよ」
 ふたりの毎日のデートコースの終着点が二箇所あった。一つは、男の部屋。もう一つは、女の部屋。日が暮れると、ふたりの足はいつものようにどちらかの部屋に向かうのであった。今日のふたりは、男の部屋に帰っていた。

 築十年、マンションの二階にあり、2DK。新築のときから住んでいる。実は、女の部屋もこのマンションの二階にあり隣の部屋である。
 この男の部屋は、「おもちゃ」でいっぱいになっていた。布団をひくのがやっとのちらかりようである。これは男の創った無邪気な芸術作品であった。女が、食事のしたくをし、男も手伝い。食事をすませ。ふたりで、入浴し。床に入る。

 このマンションに移り住んでから十年、毎日この繰り返しだ。そして、朝を向かえると女は、隣の部屋へ帰っていった。

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