British East Mediterranenan Relay Station (キプロス)

 キプロスはかっては遠い国であったが、最近は関空や成田からドバイで飛行機を乗り換えると夕方出て次の日の昼にはLarnaca空港に着けるようになっ た。ここはまだアジアの一部ではあるが、トルコ系の北キプロス以外の地域は2004年にEU加盟、2008年には通貨がユーロとなり、言葉もギリシア語で あるため欧州の一部のような雰囲気である。Larnaca空港は真っ青な地中海沿いにありここに降り立つと「地中海に来た!」という感じになる。この Laranca空港から南部の海岸に沿って西に少し行ったところのZygiに巨大なBritish East Mediterranenan Relay Station(BERMS、英国東地中海中継局)が存在する。

 現在はBabcock社の施設となっているが以前は英国BBCの施設であり、所在地近くの都市名をとってLimassol中継局(送信所の連絡先はこの 町にある)と言われていたこともある。中継局はZygi市街西方の海岸に立地して いる。Limassolの町はここから更に約40km西方となる。地中海沿いのビーチが続く絶景の海岸地帯に中継局はある。

 この局の歴史は中東の近代史の色々なエポックと関連している。現在のイスラエルは独立前までは英国の委任統治領パレスチナであった。英国は1941年に 当時のパレスチナのJeffaにアラビア語放送局「Sharqual Al Adna」(英語で「Near East Broadcasting Station」)を設立した(本部はJerusalem)。Marconi社製の7.5kW短波送信機を備え、中東向に3370/6135/6170 /6790/9650/11720kHzで放送を行い、QSLカードも発行していた。この局はイスラエルの独立に伴い1948年に送信機ともども当時英国 領であったキ プロスの現在地に移転(本部はLimassol)して周波数もそのままで放送を続けたが、「Voice of Britain」という番組名で当時のBBCアラビア語放送も中継していた。また送信機も20kWのものに一部増強された。1956年にエジプトでスエズ 動乱が勃発すると、危機感を深めた英国はキプロスを中東向放送の拠点とすることを決め同局を接収し、その機材で翌1957年にBBC East Mediterranean Relay Stationを設立した。設立前はSharqual Al Adnaから受け継いだ中波100kW送信機1台、Marconi社製20kW送信機BD262が2台、7.5kW送信機BD260が1台の構成であった が、すぐに BD262(20kW)が2台増設された。当初の送信方向はすべて中東であった。なおその後キプロス自体も1960年の独立以後トルコ系住民とギリシア系 住民が対立するキプロス紛争に長期間見舞われることになり、1974年には分裂国家状態になり現在も最終解決には至っていない。

 中継局では高出力化が図られ、1961年に100kW送信機の導入が開始され、1981年には100kW送信機5台の体制となった。1981年以降は 「Power Game」の傾向に合わせ更なる高出力化が行われ一挙に300kW送信機B6124が4台導入された。更に1991年に250kW送信機 B6126/6131を増設、1993年には廃止された英本土Daventry送信所から300kW送信機B6126を4台移設し、現在に至るまで 300kW送信機8台、250kW送信機2台の非常に強力な体制を維持している。この送信所の短波送信機はすべてMarconi社製で揃えられてきたこと も注目に値する。信号は欧州から極東に至るまで強力に届くためBBC日本語放送の中継にも使用されていたことがある。中波送信機は1953年から併設さ れ、1956年に100kWに増力された。現在は出力200kW(また2003年〜2007年には中波用アンテナシステムの更新が実施された)で 1323kHzに出ている。これとは別に1978年には Limassolの南、キプロス島の最南端に当たるZakaki(ここは今でも英国領土である!)に中波送信施設が設けられ、2台の250kW送信機を結 合して500kWの高出力短波送信が2波で行われている。送信機は2000年に更新されたが、現在も500kW送信が行われている。
 
 先頃起きた爆発事故で送電が停止し、中継局機能が一時マヒ、その後も縮小運転を余儀なくされた事は記憶に新しい。

  中東向を中心に強力な布陣を引いている同局であるが、BBC World Serviceは2014年までに短波放送をほぼ停止する方針となっており、この中継局の規模は全く必要がなくなるため、それまでに廃止する方針が決定さ れている。そうなるとこの中継局の設備から放送しているCyprus Broadcastinng Corporationの短波放送にまで影響が及ぶことが必至であり、淋しい限りである。

  中継局であるため返信はなかったが、1990年代初めに赤色のキプロスの地図と送信所の写真、更に受信データをすべて記入したアマチュア無線風のQSL カードが一部のレポーターに発行された。この頃の宛先はP.O.Box 219, Limassolであり、1956年以前のSharqual Al Adnaと同じ番号の私書箱を使っていた!その後21世紀になって現在のデザインに変更されたが受信データの記入はなくなってしまった。掲載のものは 2011年に取得した最新のものである。$2.00を同封した受信報告(Larnacaのアドレスに送付)に対して70日後に届いたものである。中継局の アナウンスは出ないので、開始時間や終了時間を狙う等同中継局からの送信である事が分かる内容を記述することが肝要である。ついでに中継局を何とか存続さ せてもらえるように頼んでおこう。

 受信報告の宛先:   P.O.Box 54912,CY-3729 Limassol, Cyprus
          または Zygi, Larnaca 7739, Cyprus
          または BFPO 53
  FAX:  +357 243 32595



最近のQSLカード 左にZygiにある短波送信所、右にZakakiにある中波送信所の写真、中央にキプロスの地図と両送信所の位置(左 がZakaki、右がZygi)をプロットしている
  データの記入はなく宛名だけである パソコンでプリントアウトしたもの 大きさ155×105mm
    




(左)1940年代Palestineにあった頃のSharqual Al Adnaの大型QSLカード 現在のカードより相当立派だ!(The G4OZN Histroric QSL Collectionより)

(右)地中海から見たZygiの短波鉄塔群
 キプロスの周囲はすべてこの海の色だ
   


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