ABC-Brisbane (オーストラリア)

 ABC-BrisbaneはQueensland州におけるABC(Australian Broadcasting Corporation)の拠点局である。歴史は古く、1925年に当時のQueesland州政府が「Queeensland Radio Service」という名称、コールサイン4QGで3kWの放送を開始したのが局の始まりである。その後1932年にはABC(当時はAustralian Broadcasting Commission)のネットワーク下に入った。1938年にABCは全国放送主として流す4QR局(周波数790kHz)を開局し、4QG局(周波数 590kHz)はQueesland州のローカル番組のみを流すようになった。局のスタジオは長い間下町のToowongにあったが、地区が水害の被害を 受けやすいこと と、環 境が悪く乳がんの罹患率が高いとされたため、 2006年以降は各部門が移転を開始し、中波ラジオ部門は2012年よりSouth BankのGold Coastスタジオより放送している。

 放送開始当初、送信施設はスタジオのある建物の屋上に設置されていたが、1941年に4QG、4QRともに20km北郊のBald Hills送信所から送信されるようになった。Queensland、Northern Territory、Papua & New Guineaをカバーするために短波送信の必要性が認識され、1943年にはBald Hills送信所にSTC社製10kW短波送信機880Aが導入されVLQ3のコールサインで9660kHzにて4QRの放送を中継するようになった。第二次大戦の戦況が 悪化した1945年にはPapua & New Guinea向に15分間の特別ニュース放送も行われた。またABC-Darwinへの中継用にもVLQ局が使用された。

 31mbを使用していたVLQ局ではDarwinやPapua & New Guinea等遠方には電波が良好に飛んだが、逆にQueesland州の僻地などの近隣地域にはスキップして届かない現象が発生した。そこで1949年に200Wの短波 送信機を導入してVLM4のコールサインで4917.5kHzを使用して放送を開始し、これらの地域をカバーすることにした。2年後の1951年には STC社製 10kW送信機4-SV-12Aにレベルアップされた。なおVLQ、VLMともに大英帝国が元々はニュージーランドの船舶局に割り当てたコールサインであったが、 ABC-Brisbaneに転用されたものである。この頃の放送時間はVLQ、VLMともに05:00-22:30であった。VLM4の周波数は1953 年に4920kHzに変更された。なお第二次大戦後はVLQ、VLMともに4QGのQueeslandローカル番組を放送するようになった。

 1968年にはRadio AustraliaがBald Hills送信所に4基目の短波送信機STC4-SV-48B(10kW)を設置し、11885kHzにてPapua & New Guinea向特別放送を行った。この放送は1976年まで行われた。この時点でBald Hills送信所の短波送信設備は最大規模となり、10kW短波送信機3基、200W短波送信機1基、短波用アンテナはロンビック2基、半波長ダイポール 2基、試験用フォールデッドダイポール1基を使用していた。ABCでは国内向に共通のQSLカードを用意していた。これにはいくつかのバージョンがあり、 ABC-Brisbaneの場合1980年代にはQuuensland州の地図を入れた独自QSLカードも発行された。ここでは1971に取得した 「ABCブルーカード」といわれるバージョンを掲載する。

 何れの短波放送も日本では良好に受信され、短波では常連局に属するものであった。しかしABCは1990年代に入り国内向短波放送を廃止す る方針を打ち出 した。ABC-Brisbaneの短波放送は1993年12月にすべて廃止され、送信機は当時New South Wales州Llandiloにあった時報局VNGに移転された。しかしそのVNGも3年後には廃止された。2014年現在ABCの国内向短波放送はNorthern Territoryの3局が残っているのみである。

 その後は、ABC-Brisbaneは日本のBCLには縁遠い局となり、中波DXingによるか、現地受信でしか直接受信する機会はなく なった(インター ネットでは聞くことができる)。ところが2011年2月Queensland州に最大風速90mの超大型サイクロン「Yasi」が襲来し、ABC-Brisbane他の ローカル局は停電・浸水で放送不能に陥り、地域では一切の通信が途絶した。そのためABC-Brisbaneは2月11日ABC本部に対して短波放送に よる 中継を依頼し、即刻Radio AustraliaのShepparton送信所より、昼間は9710kHz、夜間は6080kHzで中波放送の中継が行われ被災地に情報提供が行われ た。まさに災害に強い短波放送の役割が再認識された事態であった。しかしこの役割も政府には理解されなかったらしく、2014年秋には予算削減による Radio Australia短波放送の全面廃止の計画が待ち構えている。この時の臨時中継に対してABC-Brisbaneに災害見舞いの言葉とともに受信報告を送ったところ、送 信責任者であったRadio AustraliaのMark Spurway氏からE-QSLが送られてきた。

 2014年現在4QRについてはコールサインは4QRのまま612kHz(50kW)で放送している。旧4QGは現在はコールサインを4RNに変更し792kHz(25kW)で放送している。4QRはローカル番組、4RNはABC全国番組を放送しており、当初の役割分担とは逆になってい る。なおオーストラリアの中波局のコールサインは冒頭のVLを省略した3文字となっている。

 受信報告の宛先: GPO Box 9994, Brisbane, QLD 4001, Australia

 URL:  http://www.abc.net.au/brisbane/

(左)4QRの番組制作が行われているGold Coastスタジオ(Wikipediaより)
(右)現在も4QR・4RNの送信が行われているBald Hills送信所の内部(Broadcast Australiaより)
   


(左)ABC-BrisbaneのQSLカード表面 ABC局共通の「ブルーカード」といわれるデザインである。 Brisbaneの他、Perth、Melbourne、Sydney、当時オーストラリア領であったパプアヌーギニアのPort Moresbyにも短波局があった。南部海岸地帯を除いて内陸部、西部、北部には中波局も配置されておらず、短波が必須な時代であっ たことがわかる。
(右)同カードの裏面、Brisabneからの直接返信であることがわかる。コールサイン(VLQ9)、送信所(Bald Hills)、出力(10kW)等が手書きで細かく記入されている。当時の郵送料は9セント。
   


2011年サイクロン「Yasi」襲来時のShepparton送信所からの特別短波送信に対するE-QSL。送信担当者の Mark Spurway氏より送られてきた。SheppartonのありHarris社製100kW送信機から送られたと記述されている。


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