文化放送(Bunka Hoso, Japan)


 今回は久しぶりに国内局、それも東京三大中波民放の一角を成す文化放送を取り上げる。東京在住のBCLにとっては入門局中の入門局だが、今回は放送開始以来63年振りとなる新しい波が発射されたために取り上げることにする。

 最初に何故「文化放送」なのかについて触れておこう。今は代表的な「商業放送局」であるが、設立当初はキリスト教布教のための宗教局として計画されていた。主体となったのはイタリアに本部を置くカトリック団体「聖パウロ修道会」で、1951年に放送を行うための財団法人「日本文化放送協会」を設立して、「日本文化の向上」を掲げて放送免許の申請を行ったためにこの名称がある。但し日本では布教を目的とした外国系の放送局の設立は認められず、結局「教育商業局」として申請を出し直し、漸く1952年3月に東京第2の民間放送局(第1はラジオ東京-現在のTBS)として産声を上げた。しかし当時の放送はそれでも教育・文化中心で面白くなく、聴取率が低迷して経営危機に陥った。そこで1956年に旺文社・小学館等の出版社を中心とした新会社「文化放送」が設立され「日本文化放送協会」は解散、聖パウロ修道会は局の運営からは手を引き、現在のような放送形式となった。現在はフジ・サンケイグループに属しているものの、同グループの出資比率は約3%と低く、グループのロゴマークも使用していない。現在でも聖パウロ修道会が30%の株式を持ち筆頭株主となっている。 「教育商業局」としてスタートしたために開局当初から教育番組「大学受験ラジオ講座」(旺文社提供、形式を変えて1995年まで存続)、「百万人の英語」(旺文社提供、1958年~1992年放送)などの教育番組があった。なお現在ニッポン放送で行われているカトリック番組「心のともしび」も当初は文化放送で行われていた。現在の文化放送のキリスト教番組としては太平洋放送教会制作の「世の光」がある。

 放送開始時に、川口市の旧NHK新郷送信所跡地(約5.5万平米)を取得し、当初1310kHz(10kW)、1953年に1130kHz(10kW)に周波数を変更、1954年に出力を50kWに増力、更に1971年には100kWに増力した。1978年には中波の9kHz配置に伴い周波数を1134kHzに変更し現在に至っている。現在川口送信所には東芝製RM-2000型50kW送信機2基が設置されており、2基合わせて100kWで、136mの中波用鉄塔から電波を発射し約1,600万世帯をカバーしている。川口送信所構内は桜の名所で毎年4月の「川口桜祭り」の日には立ち入ることができる。

 中波以外の放送としては2000-2006年に衛星放送BSQR489、2008-2011年に地上波デジタルラジオ実用化試験放送(9303ch)を行ったことがあるが成果を上げていない。今年(2015年)他の在京2局とともに「FM補完放送」が許可され10月5日より東京スカイツリーの最上部地上波デジタルアンテナの下にあるFM用アンテナより出力7kW、周波数91.6MHzで試験送信を開始した。試験送信では音楽、アナウンスだけでなく試験送信用番組も一部挿入され、また「二刀流ラジオ」のキャッチフレーズを採用、ロゴも武蔵美学生だった工藤大貴氏デザインの「中波&FM」を象徴したものに変更し他局よりも意気が入っていることが感じられる。東京スカイツリーからのFM補完放送には各局とも「墨田放送局」という名称をつけているが、文化放送の場合2012年スカイツリーにスタジオ「Tokyo Sky Tree Town Studio」を設置しており、スタジオ+送信所で本当に「墨田放送局」の機能を有していると言える。

 局舎は開局以来新宿区若葉町にあった、若葉町の局舎は1949年に聖パウロ修道会が修道院とスタジオを併設して建設した「セントポールラジオセンター」の建物を使用していたが、2006年に浜松町の現局舎に移転した。若葉町の旧局舎跡にはマンションが建っているが、その屋上に非常時用の1kW送信機と送信アンテナが現在も設置されている。

 「FM補完放送」の本放送は2015年12月より開始される。補完放送の目的は中波放送の届きにくいビルの谷間等の受信状態を改善する点にあり、本放送では中波と同内容(サイマル放送)の放送を流す(音声はステレオとなる)。しかしFM波を持った意味はこれだけではなく、2系統の番組を同時放送できる可能性、非常時の代替送信所用(大災害時に大電力の中波送信所が停止するリスクは大きい)の可能性もある。総務省はFM放送への移行は考えないとしているが、FM化の進む欧州の例に見られるように、若者のラジオ離れ等で民放全体の売上が年々減少する(文化放送は2014年度赤字を計上している)中、大規模な中波送信所の維持が重荷になりつつあるという事実も背景に見え隠れするように思われる。

 FM補完放送は90-95MHzで行われるが、日本ではオーディオコンポも含めて対応している機器が少ないという実情がある。今後対応機器が増えると思われるが、BCLラジオと言われる機種は中国製のものも含めて原則76-108MHzに対応しているのでとりあえずはこれで受信すれば良いのでBCLにとっては都合が良い。

 文化放送は墨田放送局試験放送専用のQSLカードを発行している。試験放送初日である10月5日の受信報告に対して発行されたものを掲載する。また50年以上昔の1964年初頭(東京五輪の直前、まだ新幹線も開通していなかった時代だ!)に取得した1130kHzのQSLカードも合わせて掲載する。

  このところ首都圏ではFM局の周波数変更、中継局の新設等動きが盛んであり、新たな時代への蠢動が感じられる。


 受信報告の宛先:  〒105-8002  東京都港区浜松町1-31 文化放送編成局技術部
 
 URL:  http://www.joqr.co.jp

 
2015年10月5日開始の91.6MHz試験放送のQSLカード 受信データも入っている。大きさ 147×100mm。
東京スカイツリーから見た隅田川河口方面、右下には「二刀流ラジオ」のPRキャラである「キューイチロー」(周波数の「916」と文化放送の「Q一郎」を両方かけている!)。
東京スカイツリーの経度緯度が表示されている。

 


1964年2月受領のQSLカード 川口送信所のイメージにJOQRのコールサイン、川口送信所の経度緯度。大きさ 147×103mm。
デザインは良いが当時は受信事項の記載のない「お礼カード」であった。郵送料は葉書5円、局は新宿若葉町にあった(郵便番号もまだない)。
宛先はブルーブラックインクにて万年筆で手書き。

 

(左) 文化放送の新ロゴ
(中) 浜松町の現局舎 (Wikipediaより)
(右)川口送信所 川口市赤井にある 送信棟の上には1964年のカードにも描かれていたマイクロ波用パラボラが 右には送信アンテナの下部が見える (Wikipediaより)
     



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