Magyar Rádió /Radio Budapest  (ハンガリー)

 Magyar Rádió(マジャール放送という意味)は2015年まではハンガリーの国営ラジオ局の名称であったが、同年のメディア統合に伴い現在では国営Media Service Support and Asset Management Fund(Médiaszolgáltatás-támogató és Vagyonkezelő Alap:MTVA)の一部門(ラジオ)の名称となっている。なお同局の行っていた海外放送はRadio Budapest(終戦直後は国内向放送もこう呼んでいた)と称した。

 ハンガリーは国としては長い歴史を持つが、現在のハンガリーは1918年アスター革命によってオーストリアから独立して人民共和国として成立し た。1920年から1945年までは王制に戻ったが、ハンガリー最初の放送は1925年12月に首都Budapestで開始された。この放送は現 在もMagyar Rádióの国内向第一放送「Kossuth Radio」として継続されている。電信局の送信所から20kWの出力で放送された。1932年には第二放送の送信も開始された。そして1934年には Budapest市内にLakihegy送信所(現存する)が建設され、当時欧州一の高さを誇った314mの鉄塔から545kHz・120kWで 送信を行った。 1936年には国内7カ所から送信するようになった。

 放送開始当時短波は電信局の所轄となっており、中波放送開始時に短波送信機の存在した、アンテナも60mマスト3基を有する水平型が設置されて いた。しはし当初は放送が行われることはなかった。最初の海外向短波試験放送は1933年に米国・カナダ向にハンガリー語で行われた、正式に定期 の海外短波放送が開始されたのは1934年12月23日であった。1937年には南米向放送も開始された。当時の短波送信機は出力5kW、周波数 は5300、5400、5459、6840、9113、9125kHz等が使用された。送信所は安全を考慮してBudapestの南西50kmの Székesfehérvárに建設された。第二次大戦で放送施設は大幅な被害を受けたが、短波放送も壊滅状態となった。第二次大戦後はソ連配下 の共産主義国 となったため、海外に向けたプロパガンダが重要視された。そこで使用不能だったSzékesfehérvár送信所に代えてDiosd送信所が新設され、 400Wの短波送信機が設置され、1949年4月より6247kHzで22:00-07:45に第一放送Kussuth Radio、9820kHzで第二放送Petőfi Radioの中継を開始した。1950年にはDiosd送信所に100kW短波送信機を導入して6248、7220、9833kHzを使用して北米向にハ ンガリー語・英語の海外放送を再開、また欧州向にはギリシア語、ロシア語、ドイツ語、フィンランド語、フランス語、英語による海外放送も開始し た。

 国内向放送も戦後は共産党の宣伝手段として強化され、1949年には第一放送は「Kossuth Radio」、第二放送は「Petőfi Radio」という名称になった。なお「Kossuth」という名称は19世紀に現在のハンガリー独立の基礎を作った革命家Kossuth Lajos(コシュート・ラヨシュ、1802-1894)を、「Petőfi」の名称は同じ時期に重要な役割を果たした詩人Petőfi Sándor(ペティーフィ・シャーンドル、1823-1849)を記念したものである。1953年にはTV放送も開始された。1977年にはハンガリー 中部のSolti 送信所に2000kW(以前は300kW)という驚異的な出力を持つ中波送信機(1000kW送信機2台を結合して2000kWを出す)が導入され、 Kossuth Radio(540kHz)の送信がそこから行われるようになり、これ一波で全国をカバーできるようになった。この時はソ連(当時)製の真空管式送信機が 設置されたが、2017年にNautel社製の最新型NX-2000送信機(同社の400kW・DRM対応送信機NX-400を5基結合した特製 品)と置き換えられ、受信状況は更に改善された。

 短波海外放送Radio Budapestも強化の一途を辿り、Székesfehérvár・Diosd両送信所から多数の周波数を使って各地向の放送が行われていた。例えば 1969年の冬スケジュールでは極東向英語放送は毎日17:00-17:00(金曜日には19:00-19:15に再放送)11910 15160 17795 17890 21665 21685kHzで行われていた。同時使用周波数は6波、冬スケジュールなのに13mbを使用するなど2019年とは本当に隔世の感がある!更に短波放送 は強化され、1974年にはBudapestの東方50kmにJaszbereny送信所を新設、250kW送信機が導入された。1983年には Diosd送信所に100kW短波送信機が導入された。Jaszbereny送信所には250kW用ビームアンテナ(北米、欧州西部、南米、豪州 向に切替可能)と100kW用無指向性 アンテナ(欧州向)が設置された。

 1989年10月23日、ソ連支配の時代が終わり、ハンガリーは欧州に復帰して普通の資本主義国となった。海外放送は継続されたがプロパガンダ の必要性がなくなり、その重要性は低下して行った。予算も削減され、国内3カ所の大規模短波送信所体制は過剰な設備となって行き、Radio Budapestにも秋風が吹くようになった。そんな中、まずDiosd送信所が1994年、高速道路建設のために廃止撤去された。Jaszbereny 送信所では2003年より米国IBBに 送信時間を売って費用を稼ぐ対策をとった。2007年にはついにSzékesfehérvár送信所を廃止し、残っていた送信機は Jaszbereny 送信所に移設し、海外向短波送信は同送信所に一本化した。2008年米国IBBは中継送信の中止を通告し、維持費用に困ったためRadio Budapestの送信を国内からではなくドイツのWertachal送信所から送信を行うなどの対策で急場を凌いだ。そして2010年6月ついに万策尽 きて、Radio Budapestの短波放送は全面廃止となった。同時に海外向番組制作も行われなくなり、Jaszbereny送信所は翌2011年5月に解体撤去され た。

 なお2008年には短波DRM試験送信用にJaszbereny送信所を活用することが計画されたが、同送信所の廃止で実現しなかった。代わり にLakihegy送信所から810kHzでHungarian Catholic RadioのDRM試験送信が行われた。なお短波DRM試験放送は2019年現在はブダペスト工科経済大学によって行われている。

 Solti送信所からのKossuth Radio 540kHzの高出力放送は夜間欧州各地で受信可能なため、現在欧州在留ハンガリー人(英国・ドイツ・オーストリア等に出稼ぎに行ったまま永住してしまう ハンガリー人も多い)向海外放送としても機能している。WRTH2019によると、送信出力は2019年より1000kWに減力された模様だが、 NX400をどのように組み合わせて1000kWにしているのであろうか? なお同国でもFM化が進展しており Kossuth Radioの中波はこの一波のみである。

  Radio Budapestの時代はサービスの良い局であり、QSLカードの発行だけでなく、リスナーズ・クラブも設けられていた。掲載のQSLカードは1966年 秋スケジュール(当時は1年4回スケジュール変更があった)で、早朝の欧州向英語放送(04:30-05:30に7105kHz他5波で行われて いた)の受信報告に対して発行されたものである。2010年以降はなじみの薄い局となったが、2018年9月にバルカン半島北部を旅行した時に Kossuth Radioの受信チャンスがあった。同局をクロアチアのPlitviceで受信した報告に対して発行されたのが掲載のレター形式のQSLである。20世紀 には「お礼カード」も発行されていた模様でサンプルとして同封されていた。

 受信報告の宛先(現在):  Technical Department, MTVA, Kunigunda útja 64, H-1037 Budapest, Hungary

 URL: http://www.mtva.hu  
           Kossuth Radioはhttps://www.mediaklikk.hu/kossuth/

 E-mail: ugyelet @ mtva.hu

 電話: +36 1 759 5284


(左)1966年受領のRadio Budapest QSLカード 背景は国会議事堂 翌11月6日より周波数が変更されたためか周波数欄と波長欄が空欄であったため当時自分で記入した。 周波数表示は当時まだMC/Sであった。
(右)同 裏面 DX番組とリスナーズ・クラブ(Radio Budapest Short Wave Club)入会案内 当時の東側社会主義諸国ではリスナーズ・クラブの組織が盛んに行われた

 


(左)2018年受領のKossuth Radioのレター形式QSL 発行者はMTVA技術部のIvan Kovacs氏
(右)同時に送付されてきた20世紀に発行されていたKossuth Radio のお礼カード(背面にはフランス語での「有り難う」メッセージあり)

 

(左)Magyar Radio本部(Wikipediaより)
(中)Solti送信所の303.6m中波送信鉄塔と「cage line」と呼ばれる給電線  2013年には産業遺産として保存されるこ とになった(同上)
(右)現在のKossuth Radioのロゴ  各放送毎に若干異なったロゴが使用されている

  


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