Transmitter Station Topolná (Czech)


 Topolnáはチェコ東部、スロバキア国境に近いUberske Hardisteの近郊、モラバ河畔にある人口1,600人ほどの小さな町である。この地名を有名にしているのが、 この町にある「Topolná Transmitter」(Radiokomunikační středisko Topolná)と呼ばれる大出力の長波送信施設である。

 第二次大戦後の欧州での電波割当を決定した1948年の「コペンハーゲン周波数割当会議」で、当時のチェコスロバキアには広域放送用として272kHzの長波周波数が割り当てられた。この周波数はドイツのDLF(Deutchelandsender)が第二次大戦中に使用していた周波数であった。割当後の1950年チェコスロバキア政府は新送信所の建設を開始、当時のチェコスロバキアの中央部に当たるTopolnáに1951年出力400kW(200kWの送信機2基で実現)の大電力長波送信所が完成した。そして1952年より国内向放送「Československo 1」(第一放送、後に「Hvězda」と改称)の送信を開始した。Topolná送信所にはハンガリー動乱後の1957-58年にHnagarian Radio用の短波送信施設が設置されたことがあったが、それ以後は長波送信所として維持された。1950年代後半から1970年代前半にかけては 173kHzの送信も同時に行っていたこともある。1978年には送信所の大改装が行われ、送信出力は欧州屈指の1500kW(750kW×2)に増強され、欧州全土がカ バー範囲に入った。

 共産主義の時代が終わった1989年には周波数を270kHzに変更し、送信番組の名称も「Radiožurnál」と変更されて今日に至っている。資本主義化でプロパガンダが不要となった上、1993年のチェコ、スロバキア分離独立で全土カバーの必要性もなくなった。そのため送信所を引き継いだCzech Radioにとっては維持コストが重荷となり、1994年には送信マストの内1基を実質的に廃止し、出力は750kWに半減、2002年には混信軽減の名目で更に650kWに減力された。それでも夜間の常連局として欧州各地で良好に受信されたが、ついにCzech Radioは2013年に翌年2月いっぱいで送信所を廃止すると発表した。廃止は反対が強く回避されたが出力は50kWに削減されかろうじて送信が維持さ れてきた。チェコでは2020年現在DAB放送のカバー率が人口の95%となり、送信コストが高い長波は中波の放送は不要となってきている。そこでCzech Radioは2020年内にAM放送を全廃することになり、Topolná送信所も2020年12月31日で送信を停止して、廃止されることが決定的となった。

  Topolná送信所の設備には20世紀長波送信技術の粋が結集されている。アンテナは当時のチェコスロバキア全土をカバーできるように東西方向に指向性を持つ。そのために高さ257mのマスト2基(ただし1994年以降は1基のみ使用)が設置されており、1/4波長の垂直型アンテナによる非接地式双給電型指向性アンテナを形成していた。400kW時代には接地の代わりにラジアルを支線に使用する形式であったが、1500kW化に際してバードケージ型に変更された。但し周囲の支線はそのまま残されている。また空中に設置された特別に太いフィーダ線を介して高周波が給電されている。

 送信所が独自のQSLを発行することは日本でもあるが、同送信所は2012年に送信開始60周年記念としてQSLカードを発行した。2013年の廃止発表を聞き急遽手許にあった2010年チェコを訪問した時の受信ログを基に受信報告を2013年末に作成・送付したところ、送られてきたのが今回ご紹介するQSLカードで ある。

 2020年末に送信が停止された後の転用予定はなく、送信所はスクラップにされるそうであるが、かって人口に膾炙した技術の記念物として保存しておいてもらいたいものである。この送信所の廃止で2021年の欧州にはルーマニア、ポーランド等数局の長波局が残るのみになる。


受信報告の宛先: RKS AM1 - Topolna, 687 11 Topolna, Jizni Morava Oblast, Czech Republic




(左)2012年に発行された送信開始60周年記念QSLカード表面 アマチュア無線局風のデザインである 2本のマスト(実際には片側からしか送信して いない)とサービス範囲である欧州・北アフリカの地図が表示されている  アンテナ形式はλ/4垂直アンテナ、受信時の送信出力は650kWと記載されている
(右)同裏面 送信開始60周年記念のスタンプが押されている

 


左)モラバ河畔に聳える2本の257m鉄塔 (中)アンテナの基部の巨大な絶縁碍子 重量を支えつつ絶縁の役割を果たす (右)空中を這う強大な高周波ケーブル
   


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