RRTM - Tashkent Shortwave Transmitting Station (ウズベキスタン)


 中央アジアの国ウズベキスタンは、アルメニアと同じく短波放送は行っていないが、巨大なTashkent短波送信所が存在する国である。今回はこの送信所にフォーカスを当てて見ようと思う。

 ウズベキスタンの首都TashkentはMoscow、Leningrad(現 St.Petersburg)、Kievに続く旧ソ連第4の大都会であったためか、ラジオ放送の開始は1927年(コールRA27)と比較的早かった。旧 ソ連内の共和国であった同国が海外向番組を制作し始めたのは1947年のことで、最初は旧ソ連の国際放送Radio Moscowの番組内で行われていた。Tashkentに独自の短波送信所が設立されたのは1950年代初めと見られ、当初は6825kHz、15kWの 一基だけであった。その後1957年頃よりRadio Tashkentの名称で独自の海外向放送を実施するようになった。当時の海外放送はウズベク語、タジク語、ロシア語で周波数は短波の6825kHzの 他、164、400kHzといった長波も使用されており、近隣諸国向だったことがわかる。海外放送はその後増強され、1950年代後半には旧東ドイツ製の 短波送信機が導入された(当初15kW、後日50kW、100kWと改造されたらしく21世紀まで使用された)。1960年頃には英語、ウルドー語、 ペルシャ語で放送され、短波の周波数も4波に増加した。1960年代には更に短波の周波数が増えた。1975年には英語、アラビア 語、ペルシャ語、ウイグル語、ウルドー語、ヒンズー語、ウズベク語の7カ国語による1日7時間放送の体制となった。東西の「Power Game」が激化し旧ソ連の対外宣伝体制が強化された1970~80年代には、Tashkent送信所もRadio Moscowの送信拠点となった。この期間に旧東ドイツ製、旧ソ連製の100kW送信機など計19基の100kW短波送信機を装備することになり大送信所に発展した。短波は海外向放送だけでなく、国内向放送(第一放送 5925kz、第二放送 4850kHz)用にも使用された。

 旧ソ連が崩壊し、ウズベキスタンが独立した1991年以降は同国の正式国際放送Radio Tashkent Internationalの送信拠点として使用されたが、過剰設備となった送信所の管理は国家による単一企業体RRTM(Radioaloqa Radioeshittirish va Televideniye Markkazi、ラジオ・TV放送・通信センター)に移管され、他の放送局の中継もビジネスとして行うようになった。

 Radio Tashkent Internationalは2006年初めまでに中国語、ドイツ語、パシュトン語、トルコ語を加えた11カ国語で1日15時間放送していたが、費用負担 が重荷となったウズベキスタン政府は同年3月末で短波放送をすべて廃止し、インターネットに切り換えた。現在ではインターネット放送も消滅し、Radio Tashkentは完全に過去のものとなった。長波、中波も廃止され、現在ウズベキスタン国内向にはFM放送しか存在しない。

 国際放送の廃止後もTashkent送信所は存在し続け、積極的に中継ビジネスを展開した結果、宗教放送や、秘密放送(特に韓国系団体等の対北放送)の 送信拠点としての地位を築くに至った(2009年と2019年に行われたアジア放送研究会の記念放送もこの送信所から行われたとされている)。制作年代が 古い送信施設の老朽化に伴い一時存続が懸念されたこともあったが、2012年には新たにThomson(現Ampegon)社製TSW2100D型100kW短波送信機を導入して気を吐いた。

 送信所はTashkentの西南約10kmのZingiota区(正確な位置は北緯41度13分5秒0、東経69度8分54秒0)にある。送信所のすぐ 南側をTashkent・Samarkand間新幹線(スペインから輸入されたタルゴ列車による特急「アフラシャブ号」が毎日1~2便運行されている) の線路が通っており、Samarkand方面から来ると終点のTashkent駅到着の数分前に進行左側の車窓から「巨大な鉄塔の山」のように見える送信所を眺めることができる。

 ウズベキスタンへは中央アジアで唯一日本から直行便(成田からTashkentまで約9時間半)があり、比較的訪れやすい国である。独立後はイスラム教国(戒律は厳しくない)となりロシア文字を廃止してローマ字にするなどのウズベキスタン化を進めているが、旧ソ連の影響は強い。欧米や中国からの観光客は希でロシア人、日本人、韓国人が多いように見える。公用語はウズベ ク語だが、実際はロシア語が広く使われている。英語はあまり通じない。受信報告等もロシア語で書いた方が良い。

 Radio Tashkent時代は結構サービスの良い局であった(10通以上受信報告を出すとペナントがもらえた)。QSLカードも各種発行されたが、1960~70年代に発行された「Chimes Tower」(実際にTashkentにある)のQSLカードが有名であるため、小生が持っているものを掲載する。
 
 Radio Tashkent廃止以降は馴染みがなくなってしまったが、送信所を管理するRRTMからは返信が期待できる。掲載したレターは2019年8月31日に行 われたIBRA Radioの中継に対するもので、ロシア語の受信報告をIRC1枚同封で送ったところ37日後に国際宅急便にて送られてきたものである。

 受信報告書の宛先: Tashkent Shortwave Transmitting Station, c/o  RRTM, Amir Timur Street 109a, 100202 Toshkent, Uzbekistan
      ロシア語では Узбекистан, Ташкент 100202, 
д 109 "А", ул.Амир Темир, c/o Радиоэшнттириш ва Телевидения марккази ДУК,
       Ташкентская Коротковолновая Передающая Станция

   E-mail:  qabulhona @ crrt.uz

   電話: +998 71 202 35 04

   URL:   http://crrt.uz/uz/


(左)1966年受領の「Chimes Tower」のQSLカード MoscowとTashkentの位置関係が示されている。Chime Towerの上の旗は1952-1991年に使用された当時のウズベク共和国の国旗(現在は異なる)。旧ソ連らしく印刷は粗雑で、紙質も悪い。
(右)同裏面 旧ソ連で広く使われた字体で印刷、データはタイプ打ちである。受信した周波数は5925kHz - この周波数は国内放送用に1980年代以降まで使用されていた。

    


(左)上記カードのChimes Tower 中心部から南東の空港近くにある 1947年建設  時計の本体はバルト海沿岸のKoenigsberg(現在のKaliningrad)から移設され、15分おきに時を知らせている
(右)1991年以降使用されたRadio Tashkent Internationalのロゴ 市内中央にあるタシケントTV塔がデザインされている。

  



RRTMから2019年に来た返信、受信データの記載はなくお礼状のようなものである。発行者は送信所の技術責任者M.Turugnov氏。上部中央は ウズベキスタンの紋章 ペルシャ神話の不死鳥フマとその上にイスラム経を表すルブ・エル・ヒズム(八芒星)が描かれている。RRTMの上部組織は情報技術通信発展省であり文書番号が記入されている。



Tashkent送信所のアンテナ群 (Thomson社2012年HFCC会議発表資料より)


(左)2012年納入時のTSW2001D型100kW送信機(Thomson社2012年HFCC会議発表資料より)
(右)RRTMのロゴ

  


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