Grimeton Radio SAQ (スウェーデン)
Grimeton Radio
は、スウェーデン西南部の海岸に位置する無線局で現在でも軍用通信、TV・ラジオの送信用に使用されている。ここでいう「Grimeton Radio
SAQ」はかってこの無線局で運用されていた超長波17.2kHzの保存局部分(現在は世界遺産に指定されている)を示す。
無線の実用性が認識し始められた20世紀初頭には遠距離通信には減衰が少ない長波・超長波が有利(超長波は海上を伝わって行くので更に有利)と考えられており、各国で高出力の長波無線電信局の設立が盛んに行われた。当時国際間の通信には海底ケーブルが使用されていたが、第一次大戦でこれが破壊・遮断され、スウェーデンは孤立状態を経験した。このことから国際無線通信の必要性が論じられ、1922年に建設が開始され1924年に完成したのがGrimenton
Radioであり、SAQのコールサインで運用を開始した。無線局がGrimentonに建設された理由は、大西洋を隔てた対米通信に最適の地と考えられたからであった。当時も真空管式送信機はあったが、大出力を出すことが難しく、この時採用された方式が、スウェーデン系アメリカ人Ernest
Alexanderson(1878-1975)が1906年に発明した「Alexanderson alternator」であった。
Alexanderson
alternatorは一種の交流発電機であり、多数のN極・S極で囲んだ磁界の中で、コイルを巻いた磁石をモーター(500馬力、2200V、
713rpmのものが使用された)で高速回転させることで高周波の交流電流を得る仕組みである。回転数を制御すれば希望の周波数を得ることができ、最大100kHz位までの高周波電流を得ることができた。出力3kWの得られる回転磁石を64個並べることで一気に200kWの出力を得ることができる画期的な技術であった。
1924年12月1日の開局時は周波数16.1kHz、出力200kWであったが、周波数はすぐに17.2kHzに変更された。アンテナはこの周波数の波長に合わせた長さ1.9kmのものが6本の高さ127m、間隔380mの鉄塔群で支えられる形で架設され、ビームは米国東岸を向き、米国New YorkのLong
IslandにあったRCA社無線通信施設との間のCW通信に使用された。勿論直接波の信号は近隣の北欧全般で受信可能であった。
高出力の真空管式送信機の開発で1920年代後半にはAlexanderson
alternatorは「過去の技術」となりつつあったが、スウェーデンはこの送信機を使用し続けた。更に短波通信の開発で長距離無線通信は急速に短波への置き換えが進み、Grimeton
Radioでも1930年代後半には短波送信機、短波用ログペリアンテナが設置された。海上を効率良く伝搬する超長波はこの頃から潜水艦の軍事通信用の機能が注目されAlexander
alternatorは今度は潜水艦用FSK(低速テレタイプ)通信用に使用されることになった。皮肉にも第二次大戦中に再び海底ケーブルがすべて遮断された時は短波通信と合わせてこの超長波通信も多いに役立った。第二次大戦後この送信所はスウェーデン海軍用の潜水艦通信用施設となり、
Alexanderson
alternatorは1968年まで実際に使用されていた。1968年以降は周波数40.0kHzの真空管・トランジスタ式送信機とアンテナが導入されたが、それでも17.2kHz用のAlexanderson alternatorは使用頻度は低くなったものの1996年までは正式に現役運用についていた。
1996年に現役を退いたAlexanderson alternatorは非常に貴重なものであるため、早速現地に民間の保存会「The
Alexander Association」が設立され、Alexanderson
alternator関連施設の保存を目指した。そして2004年にはこの種の無線局としては初めてユネスコの世界遺産「Grimeton Radio
Station, Varberg」として登録された。保存会では毎年7月3日を「Alexanderson
Day」、12月24日を「Christmas Joy on Christmas Eve」として保存されているAlexanderson
alternatorとアンテナを使用して当時と同じ17.2kHz、コールサインSAQを使用して約30分間CW信号を実際に送信し
ている。また期日・時間限定で送信施設の公開も行われている。
なお当時日本でも無線通信の必要性が認識され1929年に現在の愛知県刈谷市に依佐美送信所が建設され17.4kHzの超長波で対欧州通信を開始した。
依佐美送信所で使用されたのは高周波発電式のドイツ・テレフンケン社製送信機であったが、Alexanderson
alternatorと異なり17.4kHzを直接発電することはできず、5.8kHzの交流を得てこれを3逓倍して17.4kHzを得ていた。戦後は米軍の潜水艦用通信施設として1993年まで使用されたが、雲間に聳え立っていた鉄塔群は列車から眺めることができ、筆者も若い頃17.4kHzのFSK信号も自作VLF用コンバータで直接受信した記憶がある。
年2回の記念特別送信は日本時間では夕方に行われることが多いが、ビームが北米を向いていることもあり日本では直接受信することが困難であった。送信日にVLF受信機を持参して欧州に出掛けて受信する他はなかったが、リモートSDR技術の進展でいながらにして耳で聞くことが出来るようになった。
2021年12月24日の16:43-17:04に、Grimetonから約2500km離れたアイスランドの西北端Bjargtanger(まさに辺境の地で、
DXペディションにでも行った気分になれる!)に設置されたリモートKiwi
SDRを使用して17.2kHzに同調し、確かにこの耳で受信することができた。当初Vマーカー、次にCQマーカーが出て、主電文が始まったが、途中で調
子が悪く
なり17:04で終了してしまった。この時のAlexanderson
alternatorの故障は長引き、2022年7月3日のAlexanderson
Dayの送信は中止となると事前に伝えられたが、保存会会員の必死の努力で何とか回復し最後にはSAQの信号を打電することができた。この模様は
https://www.youtube.com/watch?v=RI6VtfFRV_w上で公開されている。 現在The Alexander
AssociationではURL上から受信報告を送った人だけにeQSLを発行している(郵送は不可)。直後にURLから受信報告を送付し4日後に
eQSLを受け取っ
た。
The Alexander Associationによると、2022年のAlexanderson
Dayの送信に受信報告を送ったのは欧州、北米、アジアのリスナーで、アジアからは日本が約10通(リモートSDR受信が大半)で一番多かったとのことで
ある。
住所(現在郵送は不可): Alexander – GVV, Radiostationen Grimeton 72, SE-432 98, Grimeton, Sweden
E-mail : info @ alexander.n.se
URL(受信報告が送付できる): https://alexander.n.se/
公開施設としてのURL: https://grimeton.org/
2021年の「Christmas Joy on Christmas Eve」に対するeQSL 発行者はChairmanのFredrik Wicklund氏
写真は(左)サンタ帽をかぶってAlexanderson alternatorの横でCW信号を打鍵する保存会のメンバー、(右)その正面で周波数や電力を監視するメンバー
2022年7月3日のAlexanderson Dayに見学者の見守る中Alexandeson alternatorをバックに打電する通信士(上記YouTubeより)
(左)博物館となっている旧送信棟正面
(中)展示されている巨大なAlexanderson alternator 重さ50トンもある
(右)VLF送信鉄塔群
何れもhttps://grimeton.org/より
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