1960~70年代前半にはロックなどの新しい音楽は、欧州においては「下品」と見なされ、国営放送しかなかった当時のラジオやTVでは放送されなかった。更に当時のソ連・東欧諸国では「資本主義の象徴」とされ、聴いたりレコードを所持しているだけで逮捕された。
この風潮に業を煮やしたスイスのEdwin BollierとErwin Meisterは海上から短波や中波でロック音楽を放送することを思い立ち、1968年に英国沖の海上から海賊局Radio Gloriaを立ち上げたがすぐにドイツ当局に停止させられた。その後も当局との間で小競り合いが続いたが、彼らは諦めず、1948年オランダ製の船舶(630トン)Sivletta号を1969年に購入し、MeboⅡと改名、当時はやったサイケデリックな色彩に塗装し、高出力の短波・中波・FM送信機と大型送信アンテナを搭載して1970年3月よりRadio Nordsee International(RNI)の名称で海賊放送を続けた。これは当時の海賊局の中では抜群の高出力であったが、全世界的に見てもロードス島からVOAを中継していたCourier号に次ぐものであった。英国当局は中波に、ノルウェー当局は海岸局Rogaland Radioから短波でジャミングをかけて放送を止めさせようとした。その後も仲間の裏切りによる船体一時没収、船体火災、スタッフの逮捕など多くの困難があったが、1971年よりオランダ沖4マイルの海上に停泊し英語・ドイツ語にオランダ語放送も加わり、短波(6205kHz)、中波(1367kHz)、FM(100.0MHz)で安定した電波を送るようになり、聴取者も増加していった。またスイスにMebo Telecommunications AGを設立・登録し、会社経営とした。
オランダにはRNIだけでなく多くの海賊局が出現したしたため、オランダ政府は法律を改正し1974年9月以降沖合からの無免許放送を一切禁止する法令を制定した。これに違反すると船舶と設備を没収され、スタッフは逮捕されることになった。そのためRNIは他の海賊局とともに1974年8月末で放送を停止し、活動を終えた。MeboⅡは1977年にリビアに売却され、搭載していた放送設備は1980年まで一時パレスチナ解放組織アルファタのRadio Jamhariaの送信用に使用された。しかしアルファタとリビアとの関係が悪化すると使用されなくなり、1984年のリビア海軍によるロケット攻撃で撃沈された。
活動当時の短波放送の出力は10kW程度であったが、当時の49mb外れであったためか日本でも深夜に受信され、QSLを受け取ったDXerも多い。
（左）1972年初めに受領したRNIのQSLカード表面 北海で送信中のMeboⅡの全容が見える、船体(長さ60m、幅9m）に比べてアンテナ（高さ52m）が著しく大きい！ 大きさ 110×157mm
（右）同裏面 スイスZurichのHorgen区の消印がある、当時中波(1367kHz)はRCA製105kW、短波はBrown Boveli社製10kW(6205kHz)、RCA製10kW(9935kHz)、FMはR&S社製1kW(100MHz)、アンテナは中波用はVerical Marconi、短波用Inverted Vを搭載していた。
Radio Nordsee Internationalを懐かしむ人は欧州に多数おり、21世紀になって当時の出演者等によってインターネットラジオのRadio Nordsee Internationalが行われたこともあったが、2014年に終了した。そこでRNIが存在していた4年間ずっとリスナーであったドイツのEckhard Heuermann氏は「面白局」としてRadio Nordsee International Goldrausch（”Goldrausch"とはゴールドラッシュのことで、「みんなが群がって聴いた」という意味があるらしい）を2017年3月より立ち上げ、当時RNIで使われていた音楽を流している。2023年1月現在はドイツのChannel 292より毎週土曜日の16:00-17:00に6070、9670kHzで放送されている。同氏はRNIを思い出す縁（よすが）にしたいと言っている。掲載したのは2022年5月にオランダEnschedeにあるTwente UniversityのリモートSDRを介しての受信に対するeQSLである。
受信報告の宛先： goldrausch @ yahoo.de
Radio Nordsee International GoldrauschのeQSL E-mailでの受信報告後9日後に送信されてきた、Channel 292のQSLフォームが使用されている 左端の写真は当時のアンテナらしい サイズ 181×117mm
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