十一番目の戒律(98)

ジェフリー・アーチャー著。新潮文庫

 コロンビアの大統領候補である麻薬王が、殺し屋コナーによって暗殺される。
米大統領ローレンスはCIAの関与を疑い、
誰もクビにできなかった女長官ヘレンをクビにできるチャンスと考える。
ヘレンは大統領からの指示をでっち上げ、コナーに新たな指令を出す。
ロシアの新大統領でタカ派のゼリムスキーを暗殺する作戦だ。
しかし、作戦を知っていた警察に、コナーは逮捕されてしまう。
形式的な裁判で、ただちに死刑が決まってしまう。
ベトナム時代に彼に恩のある、元CIA副長官のクリスは、彼を助けるために行動に。
コナーは処刑されたかに見えたが、実はクリスが身代わりになっており
助けられたコナーは、ロシアマフィアのロマノフの指示で新たな作戦につく事に。
妻らも人質に取られているらしく、逆らう事ができない。
実は米国を訪問するゼリムスキーは、ロマノフと通じており、
自分を狙ったかに見せかけて、ローレンスを暗殺しようとしていたのだ。
コナーは照明灯にひそみ、スタジアムで暗殺を遂行するが、わずかな手違いで失敗。
ローレンスは彼を捕らえ、証言を得たとして、
コロンビアのでの暗殺への関与からヘレンを解任する。
ローレンスは死んだコナーの葬式に参列。その後、ヘレンは議員となり政敵に。
コナーの妻マギーは、旧知の教授と会うため空港へ向かうが、
そこに現れたのは、ローレンスの協力で身分を変えて生きていたコナーだった。

 と言うわけで、アーチャーのサスペンスもので、
殺し屋が普通の家族を持つ主人公と言うのが異色な感じで、
米ロそれぞれの陰謀で利用されて逮捕されて、処刑されかかったり
暗殺させられそうになるがと言う展開で、面白くなりそうな雰囲気はあるのだが
結局、最後には大統領に助けられる感じで、
実は最初から最後まで主人公の計画だったんですと言う形にならないのが物足らない。

盗まれた独立宣言(93)

ジェフリー・アーチャー著。新潮文庫

 湾岸戦争で敗れたフセイン一味は、米国大統領クリントンに対する復讐を計画。
暗黒街のボスキャヴァルリ親子を利用し、ある計画のメンバーを集める。
彼らは俳優を整形手術でクリントンそっくりにし、
仕事にあぶれた映画監督が撮影に見せかけて、国立公文書館を訪問させる。
館長はニセ者とは知らずに独立宣言を見せるが、
発作騒ぎのスキに偽造屋ダラー・ビルが作ったニセ物とすり替えてしまう。
一見、そっくりなニセ物は、一部のスペルが異なっているのだ。
後はイラクへ持ち込み、マスコミの前で焼き払うと言う計画だ。
CIA教官のスコットは、モサドの工作員ハンナと接近。恋に落ちるが、
彼の素性を怪しむ上司の指示でハンナはスコットを毒殺してしまう。
絶望したハンナは、その復讐心をフセインに対して燃やす事とする。
だがスコットは病院で奇跡的に回復していた。

 館長は独立宣言がニセ物にすり替えられたと知り、関係者に報告。
CIAはダラー・ビルに難題を捕らえ、利用されたと説明。新たに作戦に協力させる。
ハンナは大使の秘書として信頼を得て、報告書のタイプをするが、
その中で独立宣言の盗難を知る。絵ハガキにヒントを託して本国に連絡。
これを知ったスコットらは、独立宣言の保管用に使う金庫を運ぶ業者に扮して入国。
ハンナはスコットが生きていると知り、ひそかに金庫の中のニセ物と交換。
だが、そうとは知らないスコットは、工事のスキにまたニセ物に戻してしまう。
ハンナの絵ハガキで、もともとスコットらを怪しいんでいた一味は、
スコットらを捕らえる。モサドの上官クラッツを拷問の末殺すが、
クラッツは拷問に耐える訓練をしており、フセインを狙った核爆弾があると言い残す。
これを信じた一味は撤退するが、その間にスコットらは脱出。
クルド人の手引きで国境を越える。
だが、ダラー・ビルはスコットの持ち帰った独立宣言はニセ物だと言う。
ニセ物の作成時のミスで、光沢が異なる物ができたのだが、
キャヴァルリがそれをほしがったのだ。
彼はイラク人に本物の独立宣言を渡さず、自分の物にしたのだ。
一方、独立宣言が奪われたと知ったイラク一味は、CNNに連絡。
独立宣言が盗まれたと告げると、CNNは翌朝の取材を申し込む。
スコットらはガスの点検と称して、キャヴァルリの屋敷へ入り込み、
独立宣言を盗み出す事に成功。キャヴァルリは何者かに爆殺される。
CNNの取材の直前に、独立宣言は元の場所へ戻った。

 と言うわけで、湾岸戦争後のイラクが対アメリカに陰謀を企むという話で
奇想天外な作戦が成功するあたりは、ちょっと調子良さ過ぎて、
小説だからこそと言う気もする。
スコットとハンナの関係はなかなかいいが、スコットが死んだと思わせたのに、
それが事態を悪化させると言う展開にはやや乏しい。
偽造屋のオヤジが愛嬌ある存在で、その技術で周囲が振り回されるあたりも面白いが
いかんせん登場人物が多すぎるのか、誰が誰だかわからなくなる事もあり
イラクから脱出するあたりの描写もちょっとつらい。

運命の息子(2002)

ジェフリー・アーチャー著。新潮文庫

 カートライト夫妻は双子を出産。一方金持ちのダヴェンポート夫妻は3回目の流産。
夫妻の乳母は、思いあまって双子の片方と、死んだ赤ん坊をすり替えてしまう。
成長したナット・カートライトは富豪の息子トムと親友に。
フレッチャー・ダヴェンポートは親友ジミーのアニーと接近する。
ナットは生徒会長選挙で対立候補ラルフの卑劣な作戦で落選。
恋人レベッカが妊娠するが、父親はラルフの可能性もある。
ナットはレベッカと別れ、ベトナム戦争へ行く事に。
調達係だが、戦場で英雄的行為をして新聞にも取り上げられる。
名誉除隊し、大学に戻ったナットは、人気者になるが感心なく
彼に関心のないスー・リンが気になり、彼女とデートする事に。
彼女がコンピュータ界の天才と知る。
彼女と結婚するが、祖先の地韓国で衝撃の事実を知る。
銀行員となったナットは、失敗で失業するが、トムの父の銀行に採用される事に。
一方、生徒会長に当選したフレッチャーは、戦地で活躍するナットと因縁を感じる。
州の司法長官相手に裁判で活躍。弁護士事務所に採用される。
アニーは流産を経て女の子を出産。
義父が議員を引退するのに伴い、その後を継ぐ事となる。

 フレッチャーは古参の女性候補バーバラと対決。激戦の末上院議員に当選する。
学校で立てこもり事件が発生。フレッチャーは犯人の説得で活躍。
周囲の説得で共和党から知事選に出る事に。
ナットの友人トムは、不動産屋の女性ジュリアのために出資するが、
彼女はニセ者で金をだまし取られる。その結果、本物のジュリアと親密に。
ナットはライバル銀行のラルフが買収工作をしていると知り、
株価を落とす反撃で損失を与える。その結果、ライバル銀行と合併する事に。
銀行家として成功したナットも知事選の民主党候補に押されるが、
ラルフが対抗馬となり、スー・リンの母が不法移民である事を指摘。
大衆はむしろ同情するが、ナットの息子ルークが自殺してしまう。
怒ったナットはラルフ宅へ怒鳴り込むが、その後ラルフが射殺死体で見つかり、
ナットは殺人容疑で逮捕されてしまう。
ナットは、弁護士として、知事選の対立候補となりうるスチュアートを指名。
ラルフの妻レベッカは、ナットの犯行と主張するが、スチュアートは矛盾を追及。
ルークの自殺で追いつめられたと感じたラルフは、レベッカに自分を撃たせ
ナットの犯行に見せようとしたが、誤ってレベッカは射殺してしまったのだった。
スチュアートが交通事故を起こし、ナットが輸血するが、
医師より2人が兄弟である事を告げられる。2人はそれを秘密にする事に決める。
知事選は激戦の末、再集計でも決着がつかず、最後はコイントスで決める事になる。

 と言うわけで、アーチャーが得意とする大河ドラマもので、
離ればなれになった兄弟が、不思議な縁で引かれ合うと言う展開。
通俗的にも思えるが面白い感じ。
ただ、ナットとフレッチャー、そしてトムとジミーと言う名前が
何となく読んでいる間に混ざって混乱してしまい、
物語としてのつながりがいまいち捕らえづらい。
日本人だけの問題かも知れないけど。

007/孫大佐(1968)

ロバート・マーカム著。早川書房

 ボンドは療養中のMを見舞いに行くが、何者かの襲撃を受け、Mが連れ去られる。
ボンドも薬を注射されるが、何とか脱出。
屋敷には執事夫妻と共に、謎の男の死体が残されていた。
男はギリシャを連想させるメモを持っていて、ボンドは罠と知りつつ乗り込む事に。
KGBゴルディエンコ少佐は、部下のアリアドネに命じてボンドを捕らえる。
だが、別の一味の襲撃で少佐は死に、ボンドはアリアドネと逃げるハメに。
彼女はソ連軍にいるがギリシャ出身で、内戦の闘士リツァスに会わせる。
彼によると、地元の島でソ連と諸国の秘密会談があり、
中国人の孫大佐一味がこの襲撃を計画しているらしい。
さらには、かつてリツァスの村を襲ったドイツ将校リヒターも一枚かんでいるようだ。
ボンドは孫大佐一味の襲撃を受け、捕らわれる。そこには捕らわれたMもいた。
一味は迫撃砲で会談の行われる島を襲撃し、イギリス情報部の仕業に見せる考えだ。
ボンドは拷問を受けるが、寝返った一味の女に刺され、
島を攻撃しようとするリヒターを阻止。孫は生きていたが、敗北を悟り自爆する。

 と言うわけで、イアン・フレミングの死後、
ジェイムズ・ボンドのキャラだけは生かし続けようと
キングリイ・エイミス氏がロバート・マーカム名義で書いた作品。
その後、誰が書いてもこの名義を使う予定だったそうだが、
結局この作品が不発で、このアイデアも立ち消えに。
それからジョン・ガードナーまでしばらく続編は途絶える事に。
まあ、ボンドのキャラがどうこう言う気はないが、
Mの誘拐と言う派手な事件の割に、敵のキャラの陰謀がいまいちで
イアン・フレミングのイメージを崩さぬよう、おそるおそる書いたという感じで
何か内容が薄い気がする。

ジェイムズ・ボンド伝(1968)

ジョン・ピアーソン著。早川書房

 イアン・フレミングの自伝を書いた作者は、
ジェイムズ・ボンドの知人だと言う読者から手紙をもらい驚かされる。
そこで、真偽を調査した所、関係者から呼び出され、
実在するボンドに会わされ、彼の伝記を書いてほしいと依頼される。
ボンドによると、彼は駆け落ちした夫婦の次男に生まれる。
夫婦は登山の事故で死に、ボンドと兄はイートン校へ入学。
まじめな兄と違い、彼は娼館の女主人と親密になるが、
情報部から彼女がドイツに通じていると知らされ、彼女を始末。
その後、その疑惑が誤解だったと知るが、そのまま情報部員の仕事をする事に。
様々な作戦に関与した後、イアン・フレミングと知り合う。
ドイツ軍の作戦を阻止するが、終戦後大使の妻を事故死させてしまい嫌気がさす。

 情報部のMに誘われ、ソ連のスメルッシュに対抗した00課に参加する事に。
ジャマイカとギリシャのテロ組織を倒した後、
「カジノ・ロワイヤル」「死ぬのは奴らだ」で描かれた事件を担当。
カジノ・ロワイヤルでボンドを逃がしたソ連の殺し屋は、
汚名返上のため、ボンドを捕らえ始末しようとするが、返り討ちにあう。
ソ連は総力を挙げてボンド殺害を試み、その顔が新聞にも出てしまったため
ボンドは00課員でいられなくなる。
そこで、イアン・フレミングとMが協力し、
ボンドの小説を作り、彼を架空の人物だと思わせる事に。
「ムーンレイカー」は架空の事件で、わざと彼をスーパーマン的に描く事に。
「ダイヤモンドは永遠に」で知り合ったティファニーとは結婚も考えるが、
彼女の方が去っていった。

 ボンド実在を確信したソ連は、「ロシアより愛をこめて」で抹殺をはかるが失敗。
ソ連は失態を隠すため、ボンドの正体を暴く事に労力を回せなくなる。
その結果、架空の話を続ける必要はなかったが、宣伝効果のため小説は続ける事に。
「ドクター・ノオ」「ゴールドフィンガー」「サンダーボール作戦」も描かれる。
ハンガリーではテロ組織のリストを奪い帰還。Mが脅迫される事件ではタナーと活躍。
仕事に嫌気がさすが、「女王陛下の007」で再びスペクターと対決。
陰謀を阻止するが、結婚したトレーシーを殺される。
続いて「007は二度死ぬ」で日本でブロフェルドと対決。ついに彼を倒す。
キッシー鈴木との間には子供が生まれ、結婚も考えるがキッシーが拒否。
ソ連で洗脳されかかり、「黄金銃を持つ男」「孫大佐」を経て現在に。
今では小説は映画化もされている。フレミングは死に、
ボンドは「ドクター・ノオ」で知り合ったハニーと結婚。新婚旅行へ行く事に。
だが、死んだはずのイルマ・ブントが生きていて、
生物兵器での陰謀を計画しているとの連絡が。
ボンドは旅行をキャンセルし現場へ向かう事にする。

 と言うわけで、ジェイムズ・ボンドが実在していたと言う発想で
彼の伝記風に描かれる作品。
しかし、その設定ゆえ、主人公は映画版とも小説版とも違うボンドだし
小説になったエピソードまでの前置きは退屈な感じ。
逆に、小説のエピソードはあっさり片づけられてしまい
あらすじ集と言う感じだし。

メルトダウン作戦(81)

ジョン・ガードナー著。文藝春秋

 ボンドはMI5の協力要請によって任務に就く事になる。

世界的テロリストのフランコが何度も入国しており、
原子力委員会を追放された科学者ミュリックと通じているらしい。
ミュリックは独自の理論で安全な原発を提唱するが、危険視されて追放に。
侯爵として城を構え、2人の女性をはべらせているとわかる。
ボンドは傭兵に扮してミュリックに接近。
用心棒のケイバーをレスリングで倒し、ミュリックを信用させる。
一味はメルトダウン作戦と称して、世界6カ国の原発を襲撃。
用済みになったフランコの始末をボンドに依頼したいと言う。
ボンドは事態を報告するため脱出をはかるが、捕らわれて拷問を受ける。
再び脱出し、フランコによるミュリックの被後見人ラヴェンダー暗殺を阻止。
フランコを倒し、ミュリックの秘書メアリー・ジェインが死ぬ。
ミュリックによると、すでに各原発には、フランコの手下が潜入しており、
連絡がなければ冷却水が止められ、惨事になると言うのだ。
そして正当な侯爵の後継者であるラヴェンダーを始末しようとした事も判明。
ミュリックは各国に5百億ドルのダイヤを要求。
英国首相も受け入れざるを得ないと考えるが、
ボンドがミュリックのスキをついて作戦中止の命令を出す。
ケイバーを格闘の末倒すが、ミュリックは姿をくらます。
ボンドは城を襲撃。隠れていたミュリックを倒し、
ラヴェンダーが正当な後継者となる。
 と言うわけで、イアン・フレミングに続く

ジョン・ガードナーによるボンドものの1作目。
映画のヒット後に書かれた物なので、映画を意識したようなところがチラホラ。
それでいて小説の続きという路線も守っていて
やや窓際族的になっているあたりが妙な感じ。
原発を襲撃する話は、当時としてはまあ旬だった感じだが、さほど危機一髪に至らず。
2人の美女は怪しい方が怪しく味方らしい方は味方のままで、ひねりがない。

スペクターの逆襲(82)

ジョン・ガードナー著。文藝春秋

 ハイジャック事件が多発。ボンドは1つを阻止するが、
一味が壊滅したはずのスペクターと関係していると気づく。
アイス王ビズマーカー氏はスペクターの関係者と疑われるが、
調査した者は始末され、死んだはずのブロフェルドとの関与も感じさせた。
ビズマーカーが絵の趣味があると知り、
CIAの旧友ライターの娘シーダーと共に、画商に扮して接近する事に。
たちまち命を狙われるが、何とか回避。
ボンドらはビズマーカーの屋敷へ乗り込み、彼と魅惑的な妻ニーナに会う。
屋敷内を探り、食べた者を言いなりにできる薬をアイスに混ぜていると知る。
一味はシーダーの部屋に毒アリを忍ばせ、
さらに絵を巡る賭けレースではボンドが爆殺されかかるがこれも回避。
ボンドはビズマーカーか、腹心ラクソーが新しいブロフェルドだと確信する。
一味はNORADが開発した新たなキラー衛星を奪うため、
隊員に例のアイスを食べさせ、意のままになる将軍に命令をさせようとする。
そしてボンドが捕らわれ、彼こそ催眠術で将軍に仕立てられたのだ。
しかしニーナのくれた錠剤のおかげて我に返り、一味の陰謀を阻止。
ニーナに礼を言うが、実は彼女こそブロフェルドの娘で、
錠剤を渡したのはビズマーカーだった。ニーナは彼を射殺。
さらにボンドを狙うが、格闘になり、ニーナは毒蛇の庭へ転落して死ぬ。

 と言うわけで、作者が代わって再開されたボンドシリーズの2作目で、
日本ではこれが最初に出版された。
と言うのも、やはり映画の印象が強いスペクターとの対決があるからで、
旧シリーズではスペクトルと呼んでいたのに、
訳がスペクターとなっていたあたりにもそれが感じられる。
作者もキラー衛星とかを出して、映画の路線を意識しているが、
基本的には新しいブロフェルドが誰かと言うのがポイントになっていて、
2度読むとかなりわざとらしい感じ。

アイスブレーカー(83)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 世界各地でネオナチによるNSAAと言う組織の襲撃事件が多発する。
KGBの要請で、ソ連国内から兵器を盗み出していると言う一味を追跡するため、
KGB、CIA、モサドと共に英国情報部のボンドも共同でかり出される事になる。
そんなボンドは、恋人であるパウラと会うが、そこで何者かの襲撃を受ける。
パウラの父は元ナチらしく、さらにパウラの友人アンニは、
逃亡中のナチの戦犯テューデルの娘だと言う事が判明する。
ボンドはメンバーと合流するが、互いに情報を隠しているようで信用できない。
KGBのコーリャ、CIAのターピッツ、モサドのリプケ。
アンニの写真を入手したボンドは、リプケこそアンニである事に気づく。
ボンドに接近するリプケは、自分がアンニである事を認めるが、
彼女は父テューデルを憎むあまり、復讐心からイスラエルに入ったと言う。
一方、ターピッツはコーリャが一味に武器を横流ししており、
ボンドを始末して、彼に罪を着せようとしていると言う。
そんな中、スキー場で爆発が起こり、リプケが骨折した上何者かにさらわれる。

 ボンドはターピッツと組み、コーリャによるターピッツを爆殺計画を
成功させたかに見せるが、ボンドはコーリャに捕らわれてしまう。
そして彼の前に現れたのは、一味であったパウラ。
彼らはフォン・グリューダ伯爵と名を変えたテューデルを総統に結集。
さらにターピッツも実は一味ハンスで、本物のターピッツは始末されていたのだ。
コーリャは、ボンドを手みやげに凱旋する手助けを受ける代わりに
ソ連の武器を横流しする事になっていたのだ。
一味は英国情報部がどこまでつかんだか、ボンドを拷問して聞き出そうとする。
だが聞き出せず、一味に捕らわれていたリプケに介抱される。
ところが、そこへパウラが現れて、リプケを射殺。
パウラは実はフィンランドの諜報員で、以前からひそかにボンドに接近していたのだ。
リプケはやはり父テューデルを敬愛しており、
拷問で聞き出せなかった情報を、
ボンドに信用させた自分が聞き出そうとしたのだ。骨折も演技だった。
ボンドは半信半疑だったが、パウラと共に基地を脱出。
コーリャは一味に協力する気はなく、一味の基地を空爆して破壊。
しかしテューデルは無事のまま逃走しており、
捕らえたボンドをエサにしようとするが、ボンドがスキをついてコーリャを倒す。
ボンドはテューデルを追って空港へ。
ハンスに見つかって混乱の中、テューデルを倒すが、ハンスに気絶させられる。
実はハンスはやはりターピッツで、
テューデルに接近するため、ドイツ人に扮していたとわかる。

 と言うわけで、新ボンドシリーズの第3弾で、
復活1作目とスペクターの復活という派手な展開に続いては、
4つのスパイ組織が呉越同舟にと言う展開。
まあその発想は面白いものの、誰が味方で敵かと言うあたりに物語が終始し、
ボンドは何となく振り回されっぱなし。
リプケを疑っていたくせに、内情をばらすあたり、
ボンドも意外に不用心という気がする。

独立戦争ゲーム(84)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 高級絵画盗難を初めとして、数々の犯罪が多発。
いずれもコンピュータで計算されたような綿密な計画と思われた。
ボンドは叔父の遺産が入り、遺言通りその一部を散財する事となり社交界の話題に。
Mは一連の事件が組織的な犯行と考え、ボンドの立場を利用し、
解雇して一味に引き抜かせようと計画。
一味のボスは、事故死した事になってるホリーと思われる。
彼はフィネスと名を変え暗躍。かつてホリーの妻だったパーシーが捜査に協力。
彼女は実はCIAで、ホリーを探るために身分を偽っていたのだ。
パーシーはコンピュータのノウハウをボンドに特訓。
ボンドは情報部をクビになったと称してカジノに繰り出し、
コンピュータに詳しいと言う噂を流す。
社交界に顔が利くレディフレディの紹介で一味に接触できる事に。
一味にはソフト会社の会長ラハニと、死んだはずの米将軍ツヴィングリもいた。
潜入していたCIAのシンディの協力で、
一味が犯罪のシミュレーションをしていたとつかむが、
次の大規模な計画である「バルーン」については、その詳細は彼女にも不明だ。

 フィネスはレンタルテロ組織を作り、あらゆる組織に協力して稼いでいたが
ボンドのような知識を持つ者に関心があった。
ボンドに要求したのは、米大統領が核発射の指示を出すのに使用するエポック周波数。
そしてこの計画には宿敵スペクターが関与していたのだ。
ボンドは作戦に参加したフリをして、ひそかにMらと接触。
ひそかに一味を抜けた技術者の証言から、一味が飛行船で何かを計画していると判明。
実はまもなく各国の首脳が会談する事になっており、飛行船でこれを中継する。
もしこの飛行船で会場の上空へ行く事ができれば、
衛星は大統領からの指令と判断し、エポック周波数を使う事が可能なのだ。
そして米ソの核を解体させる事で、世界を牛耳る計画かも知れない。
ボンドは操縦士として飛行船に乗り込むが、その狙いが正体がばれてしまう。
一味は米の核を解除させるが、ラハニはソ連側の解除を拒否。
実はラハニこそスペクターの新首領で、ソ連と組もうと計画。
そのためにフィネスや将軍らを利用したのだ。
ラハニは彼らを始末するが、ボンドは格闘の末殺し屋を倒す。
その間にラハニはスカイダイビングで逃走して、計画は阻止される。
米軍は事前に警戒していたため、核解除は避けられる。
そして消えたフィネスの妻ダズルもまた、ラハニの愛人だったとわかる。

 と言うわけで、スペクターがしつこく再登場。
首領がそのたびに変わると、何か別の組織のようで拍子抜け。
コンピュータを利用した犯罪というのが、当時は当たらしそうな感じだが
結局の所シミュレーションに利用しただけだし、
今読むと機械の描写が古くさい感じで、かえって時代を感じさせる。
フィネスとラハニを分けた理由がなかなかわからなかったが、
最後にラハニの正体をばらすためだけとわかり、ちょっと安直な気がする。

不死身な奴はいない(86)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 家政婦メイがザルツブルグで入院する事になり、
ボンドは休暇を取り様子を見に行く事に。マネペニーも休暇で見舞いに行ったらしい。
ところがボンドの周囲では不審な事件が続発。
フェリーでは別の客2人が行方不明になったらしいし、後ろの車が爆発。
襲われていた女性スーキーを助け、有名な殺し屋コルドヴァが惨殺されるのを目撃。
ようやくMから連絡が。
スペクターの首領ラハニは、前回の事件で脊髄を損傷して余命わずかに。
死ぬ前にボンドを殺したいと、彼の首に賞金をかけ、
世界中の犯罪組織が乗り出したと言うのだ。
おまけに、マネペニーらが捕らわれて人質にされたらしい。
ボンドはスーキーと、その友人だと言うナニーと同行して移動する事に。
さらに何者かの襲撃を受けるが、ナニーに助けられる。
実はナニーは、自称国際警備隊の一員で、ボンドを守り続けると豪語する。
一行はオーストリア警察のハインリヒ警部の保護を受けるが、
彼もまた賞金を狙っており、捕らわれてしまう。
ところが何者かに警部の一味は殺されており、脱出する事ができる。

 ボンドはメイの医師キルヒトゥムが一味に捕らわれ、
脅迫電話をかけさせられたと知り、彼の家へかけつける。
そこにいたのは、ボンドの同僚のクインで、彼はKGBの二重スパイだったのだ。
ボンドはクインを脅して、一味がボンドを連れて行く場所がフロリダと聞き出す。
キルヒトゥムにクインを見張らせ出発するが、
実はキルヒトゥムも一味で、ボンドが空港で捕らわれてしまう。
一味はフロリダで船に乗せられるが、かけつけたスーキーらがクイン一味を殺し
助けられる。近くにある島こそ、スペクターの島に違いない。
ボンドは2人を残して、島の施設へ潜入。病に弱っていたラハニを見つけるが。
だがそこにナニーが現れる。
実はナニーは、ボンドをここまで誘導するために、スペクターに雇われていたのだ。
今まで、様々な組織に狙われたボンドを助けてきたのはナニーだった。
ボンドはラハニが見守る中、ギロチンで処刑される事になる。
身体検査され、処刑の時を待つだけとなるボンドだが、
服に隠された爆薬で牢を抜け出し、眠り続けるラハニのベットに爆薬を仕掛ける。
そしてついにボンド処刑の時。それを見ようとラハニがベットを起こすと爆発が。
ラハニは吹き飛び、ボンドはナニーと対決。ギロチンで腕を切る。
ボンドはマネペニーらを救出。スーキーが呼んだ米海軍に助けられる。

 と言うわけで、アイスブレーカーでは実在のスパイ組織がいっぱい登場したが
本作では、スペクターを初めとして犯罪組織がいっぱい登場か。
怪獣大集合のような期待があったものの、
実際に出てきたのはスペクターだけで、ユニオン・コロスは名前だけ。
スメルッシュなんて何か強引に出てくるがKGBだし。
スペクターも毎回首領が変わって普通の犯罪組織みたいだし、
何となく最初の思いつきだけで、物語の展開はいまいち面白くない。

覚悟はいいかね、ボンド君(87)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 ボンドはソ連に潜入させていたスパイ男女を救出する作戦に参加する。
それから5年後。救出した5人の内、2人が惨殺され、
ソ連による取り戻し作戦と思われる。
ボンドは残りの連中を保護する事になるが、
だが国としては作戦を支援できず、休暇と称して作戦に着く事に。
ボンドはヘザーと接触するが、もう1人エビーは殺されたとのニュースが。
どうやらGRUの大物スモーリン大佐に追われているらしい。
ボンドらは大佐に捕らわれ、死んだはずのエビーも捕らわれていた。
実は大佐は二重スパイで、亡命を計画していたが、
スメルッシュの生き残りチェルノフ将軍に筒抜けで、まもなく将軍が現れる。
大佐の手引きで脱出。ホテルへ逃げ込むが、大佐とヘザーが姿を消す。
ボンドはアイルランド保安部のマレーの支援を受けて香港へ。
かつて救出作戦に参加した同僚スウィフトと接触するが、彼も信用できない。
彼によると、Mは作戦の失敗で窮地に陥っており、助けられるのはボンドだけだ。
スウィフトが殺され、ボンドはエビーと共に敵の島へ乗り込む。
将軍は彼らを捕らえ、ボンドを命知らずの死刑囚4人と対決させる。
だが隠し持った秘密兵器でこれを撃退。
実は最初から二重スパイだったヘザーに狙われるが、これも倒す。
さらにマレーさえも裏切り者だったが、将軍と共に秘密兵器で倒す。

 と言うわけで、スペクターの残党だけでは飽きると思ったか
今度はスメルッシュの生き残りを登場させるが、
裏切ったとかそうでもなかったとか、何か言葉尻だけで面白さには欠ける感じ。
2人美女がいれば、片方は敵だろうという予想は、当たり前のように的中する。

スコーピアスの謎(88)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 エマと言う女性が変死。彼女の持ち物に、ボンドの連絡先が書かれており、
警視庁のベーリーはMに捜査を依頼。ボンドは彼女が知人だと認める。
エマは銀行取締役の娘で、「柔和な仲間たち」と言うカルト組織に参加したらしい。
さらに別の銀行の取締役の娘トリルビーも、組織に取り込まれる。
彼女は救出されるが、洗脳された様子だ。
教祖バレンタイン神父は、悪名をはせた武器商人スコーピアスだと言われている。
エマはアバンカルトと言うカードを持っており、ボンドはこの会社を調査。
だが、ここが襲撃を受け、店員に扮して潜入捜査していた
米国国税庁捜査官ハリエットと共に逃げる。しかし、彼女の素性も怪しい。
そうこうする内、各地で自爆テロが続発。元首相他大物が殺され、非常事態に。
襲撃してきた殺し屋を捕らえ、調査するが、
彼らは洗脳で殺し屋に仕立てられたと判明。
スコーピアスは殺し屋をレンタルして儲けているらしく、一連の事件はデモなのだ。
何者かの襲撃で、トリルビーが連れ去られ、ハリエットも姿を消す。
Q課のキュートの調査では、アバンカルトのカードは、
CD機から逆に銀行にアクセス可能で、それを理由に大物を失墜させる気らしい。

 ボンドは、航空部隊のパールマンに脅されて、一味の隠れ家へ連行される。
実はパールマンは、娘ルースが一味に取り込まれ、
教祖にボンドを連れてこいと指示されたため、利用して共に倒そうと言うのだ。
ボンドはスコーピアスと対面。捕らわれたハリエットは洗脳を受けようとしている。
スコーピアスに紹介された彼の妻こそ、トリルビーだった。
彼は配下の工作員の居場所を教える代わり、ハリエットと結婚しろと言う。
ハリエットの父は恩人だと言うのだ。
ボンドはハリエットと形式的に結婚式をし、スキを見て逃走を図る。
CIAに救出されるが、ハリエットは隠れ家の周囲にいるまむしにかまれて死ぬ。
トリルビーはFBIに協力して潜入していたと判明。
CIAはスコーピアスを捕らえようとするが、怒りが頂点に達したボンドは、
スコーピアスを追いつめて、まむしにかませて死なせる。
しかし、英首相と米大統領の会談が近づき、生き残った殺し屋が狙うと推理。
ルースが姿を消し、ベストに爆弾を詰めていると判明。
警戒を突破し、男性カメラマンに扮したルイスが首相らに接近。
ボンドは彼女を射殺。さらにベーリーも彼らを狙うが、ボンドが射殺する。

 と言うわけで、ジョン・ガードナーによる新007シリーズの1作。
ボンドの敵は、新興宗教の教祖で、過激な手段を使うと言うから
後のオウム事件を彷彿させるが、真の正体は武器商人なんてあたりが
まだまだ現実に追いついていないと言う感じ。
早い段階から正体はばれていて、実際その通りだし、その末路も意外に簡単だし。
おまけのようなシーンもあるが、全体的に物足らない。

ミソサザイ作戦準備完了(89)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 日本のタンカーが謎の集団に襲撃を受けるが、撃退される。
だがMらは、これが最近暗躍する秘密組織BASTによる演習だと判断。
空母で米英ソの首脳が秘密会談する事になり、
ボンドは現役の大佐に昇格し、会談を護衛する任務に就く事になる。
クローヴァー以下、ミソサザイと呼ばれる女性士官が大挙してこの任務に。
飛行訓練をするボンドは、何者かの襲撃を受けたため、
Mは彼に別荘で休暇を取らせ、ベアトリーチェと言う女性に護衛させる。
ボンドは彼女と親密になるが、爆殺され、
かけつけたクローヴァーによれば、ベアトリーチェは一味で始末されたと言う。
再び空母に戻り、各国の将軍らも到着。だが米兵が何者かに殺され、
クローヴァーの部下ディーリーが、身元不明とわかり、彼女を逮捕する。
やがて、サッチャー、ブッシュ、ゴルバチョフの各首脳が到着。
だが密かに乗り込んでいた一味はエンジンを破壊。
ソ連の女性士官ニッキが、BASTのハマリックが潜入していた事に気づく。
彼を捕らえるが、ニッキが撃たれて死ぬ。
ボンドはMらに連絡を取るため上陸。生きていたベアトリーチェと再会する。
彼女はやはり仲間で、一味に狙われていると知り、爆殺を偽装したと言う。
ボンドは空母へ戻るが、一味だったクローヴァーらに捕らわれる。
一味は空母を制圧し、首脳を人質に大金を要求していると言う。
ボンドは見張りを倒し、戦闘機を奪って逃走。
味方の特殊部隊と共に、空母を急襲。クローヴァーらを倒す。
さらにジブラルタルの洞窟で、一味の首領バラジと対決。これを倒す

 と言うわけで、新たな犯罪組織が出てきたり、ボンドが大佐になったりして
ちょっと人気取りぽいところがあるが、
組織は1作で壊滅するし、ボンドも空母に乗ったり降りたりしてるだけだし
敵の行動も何で予測できないかという気がするし。
ベアトリーチェという人も、いわばボンドガールだが、特にいなくても良さそうだし。

紳士らしく死ね(90)

ジョン・ガードナー著。文春文庫

 仕事を干されたと感じたボンドは辞職を願い出るが、Mは休暇を取らせる。
休暇先でボンドは、ブロークンクロー・リーと言う人物を見かけ、
彼が仲間と誰かを殺したという話をしている事に気づく。
ボンドの周囲でFBI捜査官が殺され、Mに呼び出される。
実は潜水艦探査に役立つ新兵器の関係者が行方不明になり、
チャイナタウンの大物であり、インディアンとの混血のリーの関与が疑われる。
実力者であるリーについては、誰も不利になるような証言をしなかった。
ところが、CIA中国系部員のワンダは、父の借金の形にリーに売り飛ばされるが、
これに便乗してリーの秘密を探る事に。
ボンドは、同じくCIA中国系のチーチーと共に、連絡員に扮してリーに接触する。
既にワンダは正体がばれ、暴行を受けていた。
ボンドらは信用され、暗号文の解読の仕事を与えられるが、結局正体がばれる。
ボンドは狼のエサにされそうになるが、CIAの急襲で助かる。
リーは姿を消し、売春窟に入れられたワンダも救出される。
だが、リーはチーチーを誘拐。ボンドは決着をつけるため、インディアンの地へ。
インディアンの儀式で対決。苦戦するが、リーを倒す。

 と言うわけで、日本ではガードナーの最後の作品という形となった物。
確かに何か面白くも何ともない話で、
新兵器の関係者が誘拐されたのに、深刻な事態にならないし、
一度襲撃を受けたら、リーはたいして反撃しないで妙な儀式で終わるし。
ワンダの方が魅力がありそうなのに、
後半は何かパッとしないチーチーが出ずっぱりで、これもいただけない。
この後の作品もこんな調子なら、訳す価値は確かにないかも。

007/ゼロ・マイナス・テン(97)

レイモンド・ベンスン著。ハヤカワ・ミステリ

 中国人による麻薬密輸が発覚。さらに返還寸前の香港でパーティ会場が爆破。
被害者はユーラシアエンタープライズ重役で、密輸にも社の船が関係しているらしい。
英中の関係が悪化。ボンドは企業のトップサッカリーを狙った物として調査に。
ボンドはマカオでサッカリーと対面。麻雀で対決する。だが、何者かの襲撃を受ける。
三合会と言う組織の仕業と考え、首領に会うため娼婦スンニーに接近。
サッカリーは、企業を中国へ売却すると発表するが、その直後に爆殺される。
ボンドは三合会幹部を尾行。だが捕らわれ、スンニーも処刑されそうだと知る。
首領リーはボンドに協力を要請。アヘン戦争以来の麻薬密売ルートをめぐり
企業の実験を狙って中国のウォン将軍が暗躍しているらしい。
ボンドは弁護士に扮して将軍に会うが、怪しまれて拷問を受ける。
だがスキを見て将軍を倒し逃走。将軍の死は騒ぎになり英中関係はさらに悪化する。
ボンドはオーストラリアで発生した謎の核爆発を怪しみ調査に。
企業の炭坑で核爆弾を製造していると知り、さらに生きていたサッカリーに会う。
かつてマジシャンだった彼は、トリックを使ったのだ。
香港の返還を快く思わない彼は、香港で核爆発を起こし、英中を戦争させる気だ。
しかし見張りを倒してMに連絡。さらにリーと合流し、返還式典の香港へ急行する。
サッカリーはスンニーを生贄に、船で爆破を起こそうとするが、ボンドらが襲撃。
リーは撃たれて死ぬが、水中での格闘でボンドはサッカリーを倒し、核爆発も阻止。

 と言うわけで、ボンドもの小説家3代目レイモンド・ベンスンの1作目。
一応は小説の方の路線だが、映画の名場面集のような奥の浅い展開。
実業家、中国人組織のボス、そして将軍のどれが犯人かわからないと言う展開だが
ミステリ風にしている以上、最も怪しくない人が犯人と言うのはお約束通り。
実際の香港返還をめぐって、英中関係が騒ぎになったりはしていないので
後になってしまうとちょっと白ける感じ。

007/ファクト・オブ・デス(1998)

レイモンド・ベンスン著。ハヤカワ・ミステリ

 ボンドはギリシャ軍のニキと共に軍を全滅させた毒ガス事件を調査。
前任のMことメサービィ卿のパーティへ招待され、
現在のMは恋人である親善大使ハッチンソンを同伴する。
だが、大使は急死し毒殺の疑いも。
現場には数字が残され、ギリシャを襲ったナンバーキラーの仕業と思われる。
ボンドは旧友レイターの協力で、行方不明の大使の息子チャールズを捜索。
チャールズが関係していた精子バンクが、ひそかに生物兵器を扱っていると気づく。
襲撃を受け返り討ちにするが、一味が世界各地の生物兵器テロに関与していると知る。
チャールズの死体が見つかり、ピタゴラスを崇拝すると言う教団の存在を怪しむ。
女殺し屋ヘラに捕らわれ、富豪ロマノスが教祖で、何かを計画していると知る。
脱出したボンドは、大使の父がナチの金塊を着服しており、
大使も一味との関与が疑われたが、腹心ダンカンこそ一味と気づく。
一味はギリシャ大統領暗殺を計画するが、旧友ケリムの息子と協力してこれを阻止。
ロマノスの隠れ家を見つけるが捕らわれ、
ロマノスは数学の問題で解除できる爆弾と共に、ボンドを置き去りにしようとする。
しかし、組織を我が物にしようとするヘラはロマノスを殺害。
ボンドは置き去りにして、ウイルスをばらまこうとする。
ボンドは何もしないのが解だと気づき、爆発を阻止。
ウイルスを積んだヘラのヘリを追跡。これを撃墜する。

 と言うわけで、本作ではMの恋人を出したり、
旧Mやレイター、ケリムの息子なんて過去のメンバーを登場させたりと
面白くしようと言う工夫は見られるのだが、
どうにも教団が分裂気味で狙いがいまいちハッキリせず、
ウイルスももうばらまかれちゃったりして、間一髪阻止と言う面白さがない。
ボンドは毎回捕らわれて、次の章で脱出の繰り返しで展開が単調すぎる。

007/ハイタイム・トゥ・キル(1999)


 ボンドは秘書ヘレナとの休暇中、バハマの元総督と再会。
彼は「ユニオン」と言う組織に脅迫されていると告げ、何者かに殺される。
ウッド博士は戦闘機に使用可能な新技術を開発するが、
彼は殺され、助手ハーディングが新技術と共に姿を消す。
事件はユニオンによる物と思われ、ボンドが捜査する事に。
私腹を肥やそうとしたハーディングは、ユニオンによって始末される。
機密は中国人リーの体に埋め込まれたとわかるが、
彼の乗った機は、何者かにハイジャックされ、
機体は世界3位の高峰カチェンジュンガに墜落。
ボンドは、登山に詳しいマーキス大佐らと捜索チームを組む。
マーキスとは学生時代より因縁のある関係だ。
隊は順調に進むが、メンバーが何者かに殺され、何者かの裏切りを疑うように。
おまけにヘレナがユニオンに通じていて、姿を消したと聞かされる。
ついに機体を発見。リーの遺体を発見するが、何者かの襲撃を受ける。
ボンドはマーキスが裏切り者だと気づき、逃げる彼を山頂付近まで追跡。
彼はユニオンの手先だったハーディングに持ちかけられ、
独り占めするため、ロシアに売ろうとしていたが、ボンドに倒されて死ぬ。
ボンドは、チームの女医ホープに助けられ生還するが、
死んだはずの通信係オットーもまたユニオンで、ボンドを狙うが格闘で倒す。
帰国したボンドに、身を隠していたヘレナから連絡が。
脅迫されていたと言う彼女のもとへ急行するが、既にユニオンに始末されていた。

 と言うわけで、スペクターに変わる組織として登場したユニオンの初登場作。
ベンスンの作品は、映画のノベライズみたいな感じが多く
本作も前半はそうなんだけど、後半登山シーンに入ってからは割に面白い。
まあ、誰がどういう裏切り者かとか、そんな描写はありきたりだし、
設定自体が「アイガーサンクション」のパクリのような気はするけれども。

007/赤い刺青の男(2002)

レイモンド・ベンスン著。ハヤカワ・ミステリ

 日本の製薬会社社長マクマーの一家が怪死。
ボンドは、この事件を調査する名目で、国際会議に参加する首相に同行して来日。
怪死した次女の症状は、西ナイルウイルスに似ているが、進行が早すぎる。
さらにその遺体を何者かが盗み出そうとし、その犯人がヤクザだと知る。
ボンドはテロリストとして有名な、闇将軍ヨシダの存在を感じる。
渋谷で旧友タイガー田中と再会。彼もまたヨシダの関与を疑い、
彼の配下であるヤクザが、製薬会社乗っ取りを企んでいると考える。
唯一行方不明となっている、マクマーの三女マユミを探すが、
恋人である暴走族の梅木が怪死。暴走族のリーダー市原の襲撃を受ける。
築地市場で働く梅木の従兄弟安房に会い、マユミがソープ嬢をしているらしいと聞く。
だが安房もまた襲撃で殺され、歌舞伎座まで追跡するが逃げられる。
マクマーの妻の伯父である藤本に会うが、実は彼はマクマーを恨んでおり、
ボンドは捕らわれ、脱出するが、一味が蚊で何かを研究していると知る。
藤本は製薬会社を、吉田の息がかかる会社と提携させるが、その直後に殺される。
一味は蚊を利用して細菌をばらまこうとしているらしい。
蚊の卵は乾燥させても、水につけると孵化し、どこにでも潜入させられる。

 ボンドは寝台特急で北海道へ向かう事に。だがそこで一味の殺し屋通称河童を発見。
彼が蚊を運んでいるのに気づき、ケースを奪うが、
ケースはリモコンで開けられ、女性部員礼子が犠牲となる。
アイヌの関係者を介して、ススキノのソープ嬢をしているマユミと会う。
彼女は家族とケンカして、家を飛び出したが、彼らが死んだと知りショックを受ける。
だが今はヤクザに軟禁状態にされていた。
ボンドの助けで逃走するが、ボンドと共に現れた吉田一味に捕らわれる。
彼らは蚊を利用して、瀬戸内で行われる国際会議を襲撃するとわかる。
ボンドはQ特製の、PAD型爆弾で脱出。
警戒の中、河童が現れ蚊をばらまくが、何とか関係者を避難させる。
ボンドは河童を捕らえ、吉田一味が米国本土の襲撃を計画していると知る。
そこで手配し、空港に現れた一味を逮捕。襲撃計画は阻止される。
日本政府は北方領土にあるアジトを、自衛隊に襲撃させる。
一味は壊滅するが、吉田は姿を消す。
製薬会社の合併は破談となり、権利はマユミの物となるが、彼女は売却を決意。
ボンドは日本政府から日本刀を贈られるが、そのホテルを吉田らが襲撃。
日本刀による対決の末、やられかかるが、マユミが銃で助け、警察もかけつける。
断念した吉田は、腹心塚本の解釈で自決。塚本は逮捕される。

 と言うわけで、ボンドが数十年ぶりに来日したと言うのが話題になった作品。
前回来た時の「二度死ぬ」の時は、なぜか毒の話が多くて、
それが自殺に使われるなんて話で、日本ぽさはあまりなかったが
今回はちゃんと取材したらしく、日本の描写はかなり正確。
ハチ公とか109、コギャル、代々木公園、歌舞伎座、築地市場、パチンコ、
アルタ、歌舞伎町、ソープランド、暴走族、ススキノ、札幌時計台等々が出てきて、
その妙に細かい描写が日本人とは異なっておかしく
アクションと言うよりは、日本珍道中という感じ。
ヤクザとテロリストと三島由紀夫がごっちゃになったり、
蚊でウイルスをばらまくなんてちゃちな話が、物語的には面白くもなく、
ボンドガールとしては最後まで生きるマユミより、
途中で死んでしまう田中の助手の方が魅力的。
河童の殺し屋も変わってるが、ボンドに恩義を感じて親分の恩を忘れるし、
緊急事態だからと北方領土を自衛隊が空爆すると、もうデタラメという感じ。
ハラキリの結末は日本を扱った物語としてはお約束で、やっぱりそうなるか。

ヤング・ボンド(2005)

チャーリー ヒグソン著。学習研究社

ジェームズ・ボンド 後の英国情報部員。イートン校へ入学
チャーミアン 叔母
マックス 叔父
ヘリボア卿 アメリカ人でイートン校に影響力を持つ
ジョージ ヘリボア卿の息子
レッド・ケリー 列車で知り合った少年
ミートパッカー ピンカートン探偵社の探偵
フレンド博士 ヘリボア卿の手下
アルガー ヘリボア卿の兄

 若きジェームズ・ボンドは、マックスとチャーミアンの叔父夫婦に育てられるが
家を出てイートン校へ入学する事に。
アメリカ人で学校に影響力を持つヘリボア卿と、息子ジョージに目をつけられる。
ボンドはクロスカントリー大会でジョージと対決。一味の妨害を物ともせず勝利する。
ジェームズは休暇でスコットランドへ。
マックスが戦争中スパイをしていたという話を聞いたり、車の運転を覚えたりする。
レッドと言う少年と知り合い、付近で少年が行方不明だと聞く。
探偵ミートパッカーは、近くの池でヘリボア卿が何かを企んでいると言うが
彼も姿を消し、やがて彼がウナギに襲われて死んだと知る。
ジェームズはヘリボア城へ侵入するが捕まってしまう。
ヘリボアは人間を超人にする研究をし、ウナギを凶暴化したのだ。
ジェームズも実験台にされかかるが、脱出してレッドに助けられる。
改心したジョージにも助けられ、城を燃やしヘリボアを倒す。

 と言うわけで、ボンドも伝説的になり、若き日のエピソードが登場。
とは言え映画ファンをニヤリとさせるような展開は少なく
敵が超人を作ろうとする怪しげな科学者とあっては
SFみたいでちょっと違う感じ。

ダーク・エンジェル スキン・ゲーム(2002)

マックス・アラン・コリンズ著。角川文庫

 マックスらはジャンポニー配送立てこもり事件から脱出し、
ターミナルシティへ逃げ込む。ローガンらは外から彼らを支援する事になる。
マックスはクレメンツ刑事と会い、ホワイトの陰謀を探るように依頼する。
ホワイトは警官が惨殺された事件をジェネティックの仕業としようとする。
アレックはジョシュアの言葉から、仲間のケプリーが警官殺しの犯人らしいと知る。
ケプリーは周囲に同化する能力を持ち、そのために周囲は彼になかなか気がつかない。
実は彼もまたジャンポニー配送で働いていたのだ。
彼の部屋で、はがれた人間の皮を発見。彼が犯人だと確信する。
そして次の標的はローガンらしいのだ。
ケプリーはシンディを脅して、ローガンの所へ案内させる。
彼に成り代わり、愛するマックスと近づこうと言うのだ。
そうとは知らないマックスは、地下道でローガンの所へ向かい、一同と鉢合わせ。
ローガンを脅していたケプリーを倒すが、
彼はウイルスまでも受け継いでおり、マックスと触れたために弱ってしまう。
ホワイトに反発する部下トンプソンの証言で、
ケプリーが向精神剤を混入されたトリプトファンが与えられたと判明。
それを手に入れられるのはホワイト一味に違いなかった。
アイズオンリーがこれを放送したため、ターミナルシティの攻撃は中止され、
ホワイトが手配され追われる事になる。やがてケプリーは息絶えた。

 と言うわけで、中途半端に終わったシリーズの続きはどうなるかを小説化。
前半TVはシリーズの終盤を描き直した感じで、
後半は一応新しい事件が発生するものの、
登場人物のキャラがやりそうな事について、TVをなぞっただけと言う感じ。
肝心のマックスとローガンがほとんど活躍せず、煮え切らない気もする。

ダーク・エンジェル 最終戦争(2003)

マックス・アラン・コリンズ著。角川文庫

 失態で逃亡生活をしていたホワイトは、ファミリアに捕らわれ、
再びマックスを追う任務に就かされる。
マックスは、誤ってビルから落ちそうになったローガンを助け、
ウイルスの影響を受けなくなったと知る。ケプラーを殺した際に無害になったのだ。
だが、ローガンが、かつて仲間のセスを死に追いやったと知り、険悪に。
何とか仲直りしようとするが、何者かにローガンが捕らわれてしまう。
一味の背後にはホワイトがいて、ローガンと引き換えに息子レイを要求。
マックスはレイを囮にローガンを救出する事に。
ローガン自身が隠したレイの隠れ家を見つけるが、ファミリアの襲撃を受ける。
レイは殺され、糸を引くのがローガンの伯父ライマンの秘書ボストックだった。
マックスはライマンの屋敷を襲撃。やはりファミリアだったボストックが黒幕だった。
彼によると、何万年ぶりに接近する彗星が、ウイルスで人類を絶滅させると言う。
サンドマンはマックスに抗体を作り、彼女が人類の救世主となるのだが、
ファミリアはマックスを殺す事で、自分たちだけの世界を作ろうとしていたのだ。
マックスはボストックを連れてファミリアの本拠へ。
ボストックはマックスをおびき寄せるためレイを利用したと言うが、
怒ったホワイトは、彼を射殺。サラにマックスをも狙う。
だが、アニーを殺されたジョシュアがホワイトを殺害。
さらに、ジェネティックが退去して攻撃し、ついに首領マティアスのみになる。
彗星が接近しても、人類に影響がない事が判明。マックスはマティアスを倒す。
施設を爆破する事にし、捕らわれていたライデッカーやCJ、ローガンを救出する。

 と言うわけで、TVが半端に終わったダークエンジェルの謎を
一気に解決してしまうような小説版。
その後を描く前作ではさほど進展もなかったのだが、
あのおかげでローガンのウイルス問題が一気に解決。
ホワイトやファミリアとの対決、ライデッカーの行方とかだが
まあ、無理矢理完結したような強引さはあり、
これで終わりでもいいが、続きを作ってもいいよと言う感じ。
TVの終わり方よりはいいが。

俺たちには今日がある(78)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 うだつの上がらない広告マンであるハリーは、
ある時、医師から不治の病で1ヶ月の命と宣告される。
自棄になった彼は、くせ者の客らをやりこめ、敷居の高い店でもやりたい放題。
さらに旅行へ行き楽しむ予定だったが、
医師の紹介で、同じ病気のグレースと知り合い、意気投合する。
彼らは、路地で音楽家ラムジーを助ける。
ラムジーは経営するベーカリーをつぶして、コンサートホールを造る計画だが
ギャングのコノリスが自分の店を作るため、ここを脅し取ろうとしていた。
ハリーは友人の刑事フィルに相談するが、強力な力を持つコノリスは
常にアリバイを証明する連中が現れて、有罪にする事はほぼ不可能なのだ。
彼が、盗まれた大金を持っている事は明らかで、
その1000ドル紙幣を使えば、有罪にできるのだが、警戒して使いそうもない。

 だが、身の危険を感じないハリーらならば、コノリスに対抗する事ができるはず。
二人は対策を検討。コノリスの重要な物を奪い、代わりに大金を要求。
1000ドル札で要求すれば、問題の紙幣を使うのは確実だ。
ハリーはコノリスの秘書オズボーンに接触。
コノリスは身の回りに最高級の人材を揃えるため、彼らを脅して集めていた。
当然、コノリスには不満がたまっている。オズボーンから彼らの名前を聞き出す。
まず、最高級のコックを誘拐すると言うと、彼は喜んでついてくる。
代わりに、入手可能な最高級コックと称して、最悪の男をあてがう。
身代金を要求するが、コノリスは取り合わずに旅行へ。
その間に、執事、運転手、娼婦と言った連中を誘拐し、
それぞれ最悪の連中を代わりとする。
帰国したコノリスは、要客を歓待するが、
最悪の運転手、執事、コックにひどい目にあわされて、要客は激怒。
コノリスも怒り、娼婦と寝るが、彼女もいびきがひどくて怒りは頂点に。

 ハリーはコノリスに金を要求。自分の会社に呼び出し、
待機した刑事フィルらが逮捕するという寸法だ。
だが、コノリスはこれを受けるフリをして、二人の殺し屋を呼んでいた。
ビルに現れたコノリスは、エレベータを操作し、間違って上の階へ行ったと思わせる。
あわててフィルらが追うが、取り残されたハリーらの前に殺し屋が。
電気が消されるが、土地勘を生かして1人を倒し、エレベータを再び動かす。
しかし、コノリスと鉢合わせに。ハリーはエレベータの鍵を奪いにらみ合いに。
刑事がいると知ったコノリスは、鍵を渡せば逃がしてやると言う。
上からはフィルらが、下からはもう1人の殺し屋が迫るが、
到着は殺し屋の方が早い。拒否すれば、殺されるが、コノリスを逮捕する事もできる。
承諾すれば、あと数週間一緒にいられる。どちらを選ぶか。二人の心は決まっていた。

 と言うわけで、今回の主人公は、不治の病の男女で
その特異なキャラから、巨悪に敢然と立ち向かうと言う設定で、
中盤に展開する、コックらの誘拐で展開するドタバタは、
ケンリックならではの描写で、相変わらずと思わせる。
だが、終盤はコノリスとの対決で、トーンはかなり変わる。
病気が何らかの手で完治するか、少なくともコノリスを懲らしめる展開を期待するが
そこらへんははっきり描かれず。
最後に、ハリーらしき男が観光地に向かっている描写があったので
どうやらコノリスの提案を受けたと思われ、二人がその愛を成就したという感じだが
ちょっともの悲しい。

消えた!V1発射基地(78)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 戦後、ドイツの敗戦を認めようとしなかったラウターは、再び戦う計画を模索。
ある時、旧友と再会し、V1ミサイル基地で働いていた彼の口から、
ミサイル基地は81箇所あったと聞かされる。どの書物でも基地は80箇所なのだ。
1箇所が発見されずにあると確信したラウターは、フランスへ移り住み
普段は勤勉に働きながら、20年以上を費やして、ついに農地に隠れた基地を発見。
志を同じにする銀行員ホフを仲間にし、
さらに吸血鬼という組織のプランゲンドルフの仲介でメンバーを集める。
独軍のフォッケ・ウルフと言う戦闘機のパイロットウーハーと
V1にも関係したと言う技師のブルーニングだ。

 ロンドンの保険会社に勤めるペラムは、爆発事故を調査。
それがただのガス爆発でないと気づく。
わずかに残った部品は、旧ドイツのV1ミサイルにしか使われていない物だったのだ。
何者かが第二次大戦を再開させようとしていると考えるが、上司は取り合わずクビに。
国防省へ行くが、そこでも可能性を否定される。
レーダーに捕らわれるはずだと言われるが、飛行機から発射されたと推理。
管制塔の記録では、ウーハーが旧独軍の戦闘機で飛行しており、確信を持つ。
だが、フォッケ・ウルフではV1ミサイルを搭載する事はできない。
それでも、留守中にウーハーの家を調べ、送金を得たメモを見つける。
警察署長に連絡するが、この署長こそブランゲンドルフで
刑事の襲撃を受け、辛くも逃走。真相に接近していると確信する。
さらに、ラウターの住居を突き止め、その膨大の資料から、
彼がミサイル基地を見つけたと知る。
前回の爆発はテストで、次回が本番に違いない。そしてそこには水爆を搭載するはず。
そして、フォッケ・ウルフはミサイルの上空を飛行し、レーダーをごまかしたのだ。
日記から基地の場所を突き止めて急行。だが、間一髪ミサイルは発射されてしまう。

 この緊急事態に国防省は騒然。撃墜すれば、海上でも英仏両国が汚染される。
ロンドンに到達すれば1000万人の犠牲者が出て、100年間は住む事ができない。
戦闘機がウーハーの機を撃墜。爆撃機から網を吊るしてミサイルを捕獲。
命綱で体を吊した男が、空中で解体し、中の爆弾を
ロンドンのタワーの展望レストランへ投げ込み、待機した隊員が解体に成功する。
ラウターらは銀行強盗として刑務所入りに。ブランゲンドルフは逃走。
一連の事故も他の事故として説明され、闇に葬られた。

 と言うわけで、個人的にはケンリックの最初に読んだ作品。
V1基地がまだ残っていたと言う奇想天外な設定が面白く
見つけるのに20年も費やしたとあれば、そんなのがあったとしても納得。
かつてよりもマジメ調に移行したが、その設定で惹きつける。
ペラムが、かすかな証拠から真相に近づくのも、強引ながら面白い。
が、いざ発射してしまってからは、何か一気に片付いてしまい拍子抜け。
普通なら発射前に阻止すべき所を、発射までしてた割には簡単すぎる。

暗くなるまで待て(79)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 プログラマーのマックスは、国防省の男というガロに呼び出される
マックスは、幼い頃兄を失明させ、兄がそれが原因で事故死した負い目があり
盲目者のための社会復帰訓練のボランティアをしていたためのだが、
その知識を利用したいと言うのだ。
ガロらによれば、軍事目的で、人間の夜間視力をアップさせる技術を開発したと言う。
それは視神経を刺激する目薬だが、少ない光を捕らえるようにするため
昼間は逆に何も見えなくなってしまうと言う弊害があった。
その点はいずれ解消されるのだが、実験台になってほしいと言われるのだ。
ためらうが、兄への負い目からこれを承諾。
目薬をして数時間後に効果は現れ、昼間は何も見えなくなるが、夜間には逆に視力が。
別人になる事になったマックスは、人の良い隣人の老夫婦。
飲み屋の常連客ジェイク。そして、訓練センターの女性カレンらと知り合う。
しかし、家に泥棒が入った上、訓練センターのカイテルの目がくりぬかれる事件が。
何者かがマックスの目を狙っている事は明白だ。
マックスは逃げまどい、肋骨を折ったりするが、カレンらに助けられる。

 カレンとジェイクはガロの仲間と称するが、話をする内その正体に気づく。
彼らは目薬の秘密を追う一味だったのだ。ジェイクは力に物を言わせた拷問。
カレンも股間を攻める拷問を与えるが、何とか耐え抜く。
続いて彼らは隣の老夫婦を痛めつけるが、マックスはスキを見て夫人と逃走。
だが、老夫婦もグルで家の回りを回っていただけと知り絶望する。
そらに今度は血を抜かれて、白状しない限り死を待つ状態に。
しかしひもをはずしたマックスは、ブラインドを閉じて暗闇を作る事に成功。
かけつけたカレンとジェイクを押入に閉じこめ、ガロへ連絡し応援を待つ事に。
しかし現れた一味はマックスを狙い、マックスはジェイクらを逃がし鉢合わせさせる。
ジェイクらは新手を倒して逃走。

 どうやら敵は2組いて、ジェイクらは目薬の正体を知らず聞き出そうとする。
そして別の敵は、目薬の正体を知り、その成分だけが知りたくて、
目玉さえ奪えばいいと思っているのだ。
この一味は、ガロの身内で、計画についてよく知っている人物に違いない。
そこで、ガロに電話をすると、盗聴していた彼の上司が現れる。
彼が犯人と考えるが、部下の電話を盗聴しているのは当たり前と言う、
彼の受け答えには不審な所がない。そして続いて現れたガロこそ、犯人であると確信。
ガロも正体を現し、マックスを狙うが、マックスは素早く身をかわし
ガロは窓から階下へ落ちて死ぬ。マックスは錠剤を飲んでいたのだった。
老夫婦はとらわれるが、ジェイクらは逃走中だ。

 と言うわけで、目が見えないはずの男が、痛めつけられ痛めつけられた末
暗闇になると立場が大逆転すると言う展開は、
邦題からも連想される「暗くなるまで待って」を突き進めたバージョンと言える。
ジェイクらを倒す展開はなかなか痛快だが、
そう言うシーンがたいして続かないのが残念。Hな拷問も魅力。

三人のイカれる男(74)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 運転中に運転を忘れてしまうほどの健忘症のディヴリー。
常に母が隣にいると信じている幻覚症のスワボダ。時にジェームズ・ギャグニーと
ベティー・デービスになってしまう3重人格のウォルター。
彼らはその特異な行動から、電車通院ができず、中古車を買って共に精神病院へ。
だが、道路の大穴があいていたために、車が大破してしまう。
ディヴリーらは市に訴えようとするが、取り合われないと知り、作戦を立てる。
船から大砲で市庁舎を狙って脅迫すれば、前代未聞の出来事に動揺し
対応を考える間に金をせしめる事ができると言うものだ。
一方、その作戦を又聞きした悪党のマイラ、ジョーイ、ケイヒルの三人組。
彼らはこれを銀行強盗に利用する事を計画。さらに、オースチンらを味方に入れる。
軍のフリーゲート艦を乗っ取るのに成功し、偶然にも同じ日に作戦決行となる。

 ディヴリーらはフェリーを奪い、ニセの大砲でパーティをしている市長を脅迫。
市長はあわてるが、その要求が150ドルと知り、騒ぎ立てない事にする。
一方、艦長の家族を人質にした一味は、銀行のビルに大砲を撃ち込み
500万ドルを要求。銀行側もその威力に払わざるを得ない。
移動中のデュブリーらは、街の騒ぎが自分たちを追うものと誤解。
近くにいたフリゲート艦に乗り込み、水兵のフリをしてヘリで去る事に。
だが、実はそのヘリに一味のせしめた大金があった。
一方、オースチンは実は過激派で、貿易センタービル破壊を企む。
だが、スワボダがデタラメにボタンを押していたため、大砲は目標をはずれ捕われる。
艦長の家族を捕らえていた男も勇敢な妻に倒される。
一味は金を追ってデュブリーらが逃げこんだ飲み屋へ。
そこで学生たちとケンカになってしまい、のびてしまう。
店員はディヴリーを水兵仲間と思い、連れて行けと言われる。
仕方なく一味が、警察署長の車とも知らず盗んだ車に乗り、車の持ち主の家へ。
一味は捕らわれ、デュブローらは病気が治る。
フランクだけは治らず、今度はゲーリー・クーパーになる症状が。
彼らはオンボロの車を買うが、またしても大穴のために大破し、復讐を決意する。

 と言うわけで、トニー・ケンリック初期の作品で、
今回はちょっと変わった3人組が大胆な犯罪を計画する話。
計画実行から、それを利用する一味が偶然に捕まるところまで
あまりにも都合のいい展開だが、描写の面白さで一気に読ませる。
貿易センタービル攻撃の話はちょっとビックリ。

スカイ・ジャック(72)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 売れない弁護士のベレッキーは、離婚した妻アニーを離婚後も助手にしていた。
彼らの元に、ベレッキーの古い友人フィルが訪ねてくる。
航空会社に勤めるフィルによると、ベレッキーの顧客である人物を含む
300名を乗せた旅客機が、忽然と姿を消したと言うのだ。
墜落の形跡もなく、付近の空港にも着陸していない。
さらに乗客リストは何者かに消されており、
乗客数名の持ち物が届けられ、家族の確認を取ったが、
その中の一人がベレッキーの顧客だったのだ。
謎だらけの事件だが、ベレッキーにはピンと来る物があり、賞金目当てで動き出す。
彼は数日前空港のそばにあるゴルフ場で不審な穴を見たのだ。
一味は何かの目的で、ひそかにゴルフ場から軽飛行機を離陸させたのではないか。
わだちの間隔から飛行機の種類を割り出したベレッキーは、
付近から離陸した軽飛行機のパイロットクラークに目をつけ、
彼を尾行するが、まかれてしまう。

 続いて、クラークの恋人であるスチュワーデスのイングリットを調査。
アニーはスチュワーデスに扮して調査するが、本物と間違えられて離陸し大騒動に。
それでも居場所を突き止めるが、彼女はいない。
管理人によれば、スチュワーデスはやめたが、なぜか時々制服を着ていたらしい。
さらにフィルから乗客数名の共通点が、スポーツクラブのメンバーであると知る。
一味は乗客であるメンバーの持ち物を盗み出し、複製を作って人質に取っているように
見せているだけではないか。そして機は湖に墜落させたのでは。
そこで付近の湖を調べると、そこにはすでにFBIも来ていた。
そして、なぜかファーストクラスの乗客ばかりの荷物が見つかる。
一味は飛行機からダイヤを積んだカバンを落下させるよう指示。
コースにFBIを配置すれば、何とか一味を捕らえられるに違いない。
ベレッキーは、FBIを出し抜く事を断念し、捜査をやめる事に。
だが、彼らは真相に迫っており、あわてたクラークら7人組は強硬手段に出る。

 一味はアニーを誘拐するが、彼女はもともと叔母の所へ行く予定で
ベレッキーは一味の電話をネコがさらわれたと誤解して取り合わず。
続いて車に細工されるが、もめている隣の男がタイヤをパンクさせたので難を逃れる。
改心したイングリットがベレッキーに連絡し、ようやく事態に気づく。
一味がカバンの落下を指示したのは、陸ではなく海上だった。
同時にアニーも始末しようとするが、イングリッドが海に突き落とし、
ベレッキーが救出。クラークは裏切りに気づいて彼女を撃つ。
一味は飛行機で逃走を謀るが、アニーから逃走先を知ったベレッキーは空港へ。
離陸寸前の機に車をぶつけ、離陸は失敗。一味は逮捕される。
病院のイングリットは真相を語る。機は離陸前に乗っ取られ、上空で引き返したのだが
機の番号を変更したため、管制塔は気がつかなかった。
その後、機体はバラバラにされ、格納庫に隠されたのだ。
そして、ファーストクラスとエコノミーの一部の乗客をボイラー室へ閉じこめた。
残る300人の大半は、黒幕である胴元に借金があり、乗客を演じさせられたのだ。
たまたま航空機に反発する男が爆弾を仕掛け、それが不発だったのが
格納庫で爆発を起こし、事態が判明した。ベレッキーはアニーとの再婚する事になる。

 と言うわけで、トニー・ケンリックの初期の代表作で、
スティーブ・マックイーン主演で映画が企画されたとの話も。
ベレッキーとアニーがコミカルに事件に迫るあたりは、彼独特の作風なのだが
どうも手口の方に懲りすぎた感があり、それでいてベレッキーが宗教に巻き込まれたり
アニーがハワイまで行くくだりとの落差が激しすぎる。
そして例えばゴルフ場を使った意図とかは、最後に簡単に語られるのみ。
一味の素性もよくわからず、爆弾犯はさらによくわからないのも難。

誰が為に爆弾は鳴る(83)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 ニューヨーク。アルカ・セルツァーと名乗る男が、予告爆破を行う。
警察は警戒したにもかかわらず、爆弾は発見する事ができなかった。
元刑事の税理士チャーターズは、フリードマンと称する男に脅され、
この事件の犯人が逮捕されるのを阻止し、手に入れた金を横取りするハメとなる。
フリードマン一味は平気で人殺しをする連中で、協力はできないが、
とりあえず捜査せざるを得ない。
フィツロイと言う医師は、高利貸しの借金を返済できなくなり、
汚い仕事に手を染めるハメに。抜け出ようとすると耳をそぎ落とされ、
意を決した彼は、爆破事件を起こしたのだ。
チャーターズは犯行声明の手紙を分析。フリードマンが手を回したため、
警察が入手している物は、実は別のタイプライターによる物だ。
さらに、犯人の正体を知っているとの広告を出した女性ジャニスに会う。
彼女は有名な洋品店の社長で、前の爆破で犠牲となった受付嬢とレズの関係だった。
二度目の犯行予告があり、爆破で再び死者が。
フィツロイは彼女を尾行するが、チャーターズはフリードマンの尾行と誤解する。

 チャーターズは探偵を雇い、タイプライターを購入した者をしらみつぶしに捜索。
さらに尾行するフリードマン一味を逆に尾行させ、
その正体がフィーマンと言うあくどい実業家である事を突き止める。
アンケートと称してタイプ購入者の家を回り、ついにフィツロイを発見。
彼にさらなる犯行を断念させ、フリードマン逮捕に協力させる。
刑事が張り込む中、警察が用意した金をチャーターズは回収。
警察の追跡をまき、フィーマンに会う。だが、刑事に車から現金、
タイプも家から見つけさせて、フィーマンは逮捕される。
チャーターズの罠と気づいている刑事は真犯人について聞くが
フィツロイは借金の相手に始末されるはずと言う。爆弾処理班に仲間がいると言ったが
それはウソらしい。確認のため彼に電話するが、
借金相手に脅されて追い込まれたフィツロイは、ジャニスを人質に金を要求。
小型の爆弾を服に入れられた可能性も考えるが、フィツロイが外科医である事から
体内に入れられたと気づく。かけつけて鉛入りのコートで無線を妨害。
フィツロイは観念。彼はかつて事故で入院したジャニスや、病院で知り合った恋人らの
手術中に体内に爆弾を隠されたのだ。彼らは人の多い場所にいると言う共通点があり
ジャニスは予備だったが、いずれ証拠を隠すために始末するつもりだったのだ。
フィツロイは一味に謝罪するが、農場へ連れて行かれて豚のエサにされるのであった。

 と言うわけで、おそらくはトニー・ケンリック最後の作品ではないか。
ややコメディ色が薄れた後期の作品ではあるが、
爆弾の隠し方のテクニックなど、面白い点も多い。
悪役フィードマンを逮捕するトリックもまあ面白いのだが、
簡単にいきすぎて拍子抜け。裏目に出るが……と言う展開がほしかった。
もう一組、フィツロイが借金した相手も、どうにかこらしめてほしかったし。

チャイナ・ホワイト(86)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 アトランタ警察の刑事ビリーは、同僚ジョージとパトロール中、
2人組の殺し屋に襲われジョージが殉職。
ビリーは射撃が苦手だったためにジョージを救えなかった事を悔やみ、必死に特訓。
襲ったのが海運業ベンドロイトの子分の、ヒンクラーとボイルと知る。
ベンドロイトはもともと船がらみの保険金詐欺で稼いでいるのだが、
麻薬にも手を出し、大金を得ようとしているらしい。
その取引中にたまたま通りかかったビリーらを、麻薬課と誤解して襲撃したのだ。
ビリーはデュービンと言う男に扮してベンドロイトに接近。
彼の麻薬取引の仕事に参加する事に。
ヒンクラーとボイルも同行し、タイから麻薬を持ち帰るらしい。
そしてさらに同行するのが、弁護士のクレアだ。
ゲリラのいる危険なコースで、傭兵をつれての行程となるが、
傍若無人なボイルは何かと傭兵と対立。アゴスタと対立し、彼を殺害してしまう。
ゲリラのいる地区を無事通過し、タイ人との取引で麻薬を入手。
だが、ビリーはボイルと対立してみせ、射殺する。

 ビリーはクレアに実は警官であると告白。二人は惹かれあうようになる。
一味はタンカーに、麻薬を入れたドラム缶を隠して密輸。
ヒンクラーには素性を明かして対決。彼も射殺する。
さらにベントロイトを逮捕するため、警察のハイタワーに協力を依頼。
取引を見逃してイギリスでベントロイドを逮捕する約束を取り付ける。
だが、ハイタワーは悪徳刑事で、一味にビリーの事を連絡。
取引現場でビリーは命を狙われる。ビリーとクレアは汚い海に飛び込み逃走。
逆にドラム缶に積まれた麻薬を奪い、海に4缶を捨てる。
ハイタワーがかけつけ1缶を回収。撃ち殺されそうになるが、フェリーに助けられる。
麻薬を失った事で、ベントロイトは取引相手の香港の殺し屋に殺される。
ビリーは退職し、クレアと旅立っていった。

 と言うわけで、ひいきトニー・ケンリックのサスペンスだが
どちらかと言うと後期の作品で、以前ほどコメディタッチの味がなくなる。
冒頭こそ、主役のビリーが復讐を誓うようになるまでのいきさつは読ませるが
それからは、ちょっと退屈な描写が続き、殺し屋を殺してからは
その目的があいまいになって、ちょっとつらい。
何作か読んだ中では、つまらない方。

ネオン・タフ(90)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 麻薬取締官のデッカーは、おとり捜査の相手エディ・フォンを取り逃がし、
彼を追うという名目でかつて赴任していた香港へ行く事に。
だがその真の目的は、同僚アンジェラが殺された事件を捜査する事だった。
香港では、米国の捜査がしづらいためだ。
アンジェラは猟奇殺人と言える殺され方をしていた。
エディ・フォンは香港の大物と取引しようとしていたが、捕らえ再び協力させる事に。
一方、アンジェラ殺害の容疑者フェアウェザーが逮捕される。
神の声を聞いたというフェアウェザーは、悪びれる様子がない。
実は、香港を牛耳る実業家マードックが、
殺し屋スレンプ経由でフェアウェザーをそそのかさせ、アンジェラを始末させたのだ。
デッカーはアンジェラのルームメイト、フェイ・キーブルと会い、彼女と恋に落ちる。
アンジェラはマードックとつきあっていたが、最後に何やら口論になったと言う。
テープでCNDとドーメイドーと言う言葉を聞き、殺されたらしい。
さらにフェアウェザーが飲み屋で男と話していたとの目撃証言を得る。
飲み屋にいた男のネクタイからスレンプを突き止める。
デッカーはマードックの殺し屋仲間のフリをして接近。関係を聞き出す。
マードックはスレンプの失態を責め、スレンプは愛用の特製銃を始末するハメになる。

 デッカーはマードックの計画を推理。香港返還前に大仕事をする気だ。
CNDとはCアンドDの意味で、チャールズとダイアナの事かも知れない。
スレンプはデッカーを襲撃。何とかかわし、スレンプが始末した銃を購入。
一方、スレンプはフェイの存在を突き止め、彼女を襲う。
デッカーはエディ・フォンの協力で麻薬のおとり捜査をする。
だがそこへ現れたスレンプが襲撃。手に入れたスレンプの銃で射殺する。
殺されたかと思ったフェイだったが、スレンプは彼女をレイプできず無事だった。
一方、マードックは台湾軍の将軍と手を組み、香港各所をミサイル攻撃する計画だ。
訪問中の皇太子夫妻も殺害するつもりだ。
マードックは香港をみすみす返還する事に反発していたのだ。
ところが、将軍は計画を横取りし、マードック邸をミサイルで破壊。
だが、将軍らもコースを誤り、中国領域に入ってしまい、ミサイルで撃墜される。

 と言うわけで、たぶんこれがケンリックの最終作。
後半はアジアを舞台にした作品が多く、本作もそうなのだが
まあその描写はそれなりに面白いものの、
エキゾチックという印象は薄れつつある。
麻薬捜査官もいろいろいるようだが、区別はつかず
一方で、マードックと女学生ののぞきが趣味という将軍ら、
悪役は妙に印象的だが
肝心のドーメイドーデー計画が、着々と進行中という感じはまったくしない上
結局の所、勝手に自滅してしまい、
彼らの失敗に、デッカーがまったく関与していないのには驚かされる。

バーニーよ銃をとれ(76)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 借金に悩むバーニーは、友人でデータを扱う仕事に就くトムと画策。
スイスの匿名口座では、記名さえすれば身元確認なしに金がおろせると言うのだ。
そこで、そんな人物を見つけ出し、サインさえ手に入れればいいのだ。
そんな人物は後ろめたい所があり、何度も確認に行っているに違いない。
そこでトムは、スイスに仕事以外で頻繁に行っている弁護士を見つけ出す。
だがそのサインを手に入れるのに苦戦。
そこでデパート勤務で、先妻への慰謝料で苦しむ男ドリアンを味方に。
ドリアンは、万引きの達人である娘アマンダを見つけ、彼女も仲間に。
二人はいい仲になる。アマンダは宅急便業者に扮してサインを盗み出す。
そのサインを利用し、口座から2万ドルを振り込ませる事に成功する。
被害者が気づくのは、銀行から連絡のある2週間後。
成功に気をよくしたバーニーらは、再度いただく事にするが、
残高がいくらあるか不明なので、全額を振り込むよう指示する。
ところが、振り込まれた額は、何と1億ドルだったのだ。

 バーニーらはそこで弁護士の身辺を調査。彼は某国大使だった経験があり、
そこの元独裁者リポルは、クーデターで亡命したのだが、
大金を待ち出したと噂されている。バーニーらが手にしたのが、その金に違いない。
その国の出身であるゲージという男によれば、リポルはニューヨークに住み
24人のパッチョーネと言う親衛隊を率い、逆らう者を惨殺していると言う。
銀行の監視カメラを調べられれば、バーニーの顔がばれるのも必至だ。
身の安全を守るためには、リポルと交渉するしかない。
毎年600万ドルずつ返すという条件で、身の安全を保証させるのだ。
だが念のため家族とアマンダを別荘に移し、軍籍剥奪されたいわくアリの元軍曹
キャンベルを雇って、1週間で立ち向かえるように特訓する事に。
山の小屋で特訓し、意味もわからずに穴を掘らされたり柵を作ったり。
銃の弾が足らないので、過激派を襲撃して奪ったりもする。
期日も迫り、キャンベルは全容を説明。穴に隠れたりして、意表をつかねばならない。
7日目が過ぎ、バーニーはリポルに連絡を取ると、条件を飲むと言われ一安心。
キャンベルを返して、一同は飲み明かす事となる。

 だが、キャンベルが戻り、一味が迫っていると告げる。
リポルが現れバーニーは単身交渉するが、リポルはバーニーの正体も突き止めていた。
おまけに最も危険なナイフの達人マノロを、家族のいる別荘に行かせたと言う。
さらに奪われた金も、バーニーと同じ手口で、サインをまねて
自分の口座に全額戻した。今度は暗唱番号なしには移動できないのだ。
撃ち合いが始まるが、運とキャンベルの作戦と援護のおかげで次々倒し、
全滅させてリポルを人質にとる事に成功。別荘へ向かい、マノロを呼び出させ
キャンベルが倒すが、彼は負傷。傷を保護するためにリポルの背広を着る。
バーニーはリポルをゲージに引き渡そうと考え、連れて行くが
実はゲージこそ、リポルに情報を流していた一味だった。
銃を突きつけられるが、キャンベルが感づいて二人を射殺する。
それから数週間。ドリアンはアマンダといい仲に。
キャンベルは実は負傷しておらず、リポルの背広にあった暗証番号を手に入れ
それを元手に、リポルの国で、好きな軍事指導の仕事をする事になる。
皆が何かを得たが、バーニーは何も得ず、洗濯機の代金も苦しい。

 と言うわけで、前半はトニー・ケンリックならではの軽快な詐欺の話で
それが元で、意外な大金を得るまでは面白いのだが
後半はキャンベルの元で訓練を受ける話が延々と続く。
映像で見せられれば面白いかも知れないが、文章ではちょっときつい。
一味との対決が始まってからちょっと盛り返す。

マイ・フェア・レディーズ(76)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 記者のレディングは、盗品を扱うカーツが死に、
彼が最も愛した売春婦ピンクに最高級の宝石を譲るため、
後継者のデヴァインが彼女を捜していると知る。
そこでこれを奪い取って賞金を得ようと計画。
ピンクはイギリスの良家の出身で、そういう売春婦を演ずるために
売春婦マーシャに良家の出身である演技の特訓をさせるが、すぐにボロが出ると判明。
そこで今度は、イギリス出身の女優に、売春婦を演じさせる事にする。
こうして見つかったジュリーという女優の卵は、最初は拒否するが
40万ドルの賞金の半額を得る事で承諾。
マーシャの元で特訓を受け、やがて本物そっくりに演じられるようになる。

 レディングはジュリーを連れ出し、わざとデヴァインの目に付くようにする。
作戦は成功し、ジュリーはデヴァインに呼び出される。
デヴァインの追求に何も知らないと言って逃げるが、デヴァイン一味は彼女を調査。
家捜しをした末、ジュリーが偽名である事を知り、その出身校まで突き止める。
一方、マーシャのヒモであるベニーは、刑事と称して協力を要請したレディングが
実は記者であると知り、マーシャを脅してその計画を聞き出す。
デヴァインはジュリーらの前に現れ、彼女の正体がばれたと知るが
それでもなお、本当の正体はピンクであると信じてくれたため、宝石を得れる事に。
ところが、そこへベニーが乱入したため、真相が発覚。
撃ち合いでベニーは死に、レディングらは逃走。用心棒のトブラーが追跡する。
レディングはジュリーを逃がし、宝石をゲームセンターの商品に隠すが
これが女の子に取られてしまう。
ジュリーが女の子を追うが、いつのまにかトブラーにビルに追いつめられる。
レディングがネオンの電球を破裂させてトブラーを倒す。
二人は捕らわれているマーシャの所へかけつけ、
生きていたデヴァインと対面するが彼は息絶えて死ぬ。

 と言うわけで、毎度のケンリックの小説だが、
今回は、ワクワクさせるような設定に乏しく、売春婦の日常を描くのが趣旨らしい。
アッという展開がない上、ピンクと宝石の行方がうやむやなのも難。
レディングとジュリーらの仲も、それほど進展しないし。

リリアンと悪党ども(75)

トニー・ケンリック著。角川文庫

 旅行会社に勤めるバーニーはちょっとした詐欺師。
エマと言う女性に旅行を世話するが、留守中に彼女の部屋を貸して、賃貸料を得る。
ところが、借り主が酔って部屋を荒らし、バーニーは捕まってしまう。
移民局とFBIは、潜入した過激派が戦闘機購入資金に誘拐を考えていると察知。
彼らを捕まえるため、バーニーとエマを富豪に仕立て、
孤児のリリアンをわざと誘拐させる作戦に出る。
だが孤児のリリアンはかなり柄が悪く、おまけにエマはバーニーを恨んで仲は険悪。
雲隠れしていた富豪と言う設定で記者会見するが、誘拐したのは小粒な連中。
そこで彼らをわざと脱走させ、再度誘拐させて新聞に大々的に掲載。
今度は一味も気づき、リリアンを誘拐するが、肝心の発信器がはずれてしまう。
身代金2000万ドルの要求に対し、FBIは偽金で対抗するが
一味も人形をよこし、再度取り引きする事に。FBIは再度偽金を使うと言うが
作戦を不安に感じたバーニーは、富豪としての知名度を利用して銀行から借りつける。
一味と交渉に向かうが、そうはうまく行かず、にらみ合いに。
リリアンは救出するが、身代金を乗せた車は爆発してしまう。
ところがかけつけたFBIが一味を逮捕。彼らは現金を用意する事ができず
バーニーが調達すると気づいて危ない橋を渡らせたのだった。
もちろん本物の金はすり替えていた。エマはバーニーに惹かれるようになるが、
リリアンは意地悪い院長のいる孤児院に戻される。だが彼らに再度作戦の依頼が。

 と言うわけで、映画「上海サプライズ」の原作トニー・ケンリックの初期の作品。
一文字も読み逃すまいとさせる細かい描写とニヤリとさせる展開の面白さは
まさに絶妙で、最後まで一気に読ませる。
もっともバーニーが反撃に出るあたりまではかなりいいのだが
最後がFBIに助けられるのはちょっとマイナス。

超音速漂流(79)

トマス・ブロック著。文春文庫


 東京へ向かう大型機ストラトンは、コースをそれて飛行していた。
一方、軍は新型ミサイルのテストを行うが、目標機と誤ってストラトンに命中。
衝撃で客席は吹き飛ばされ、機は多大な損害を受ける。
急降下するが、自動操縦で体勢を回復し飛び続ける。
トイレにいた乗客ベリーは難を逃れるが、客席へ戻り凄惨な状況に気づく。
急降下の際、酸素マスクをしない者は即死。していた者も酸素が回らずに酸欠に。
脳をやられてしまい、回復の見込みはないのだ。
ベリーは密閉されたトイレで難を逃れ、同様の少女リンダ、
そしてスチュワーデスのシャロンらと合流する。
パイロットらも死亡あるいは脳損傷していたが、ベリーには小型機の操縦経験が。
通信機は故障だが、データリンクという装置で管制塔と連絡が取れるとわかる。
別のスチュワーデスは乗客に襲われて死に、乗客は家族の脳損傷を知り失意で自殺。
一方、軍のスローン中佐は、証拠隠滅をはかるためパイロットマトスに撃墜を指示。
だがマトスは機内に生存者がいる事に気づき思いとどまる。
航空会社重役ジョンソンと保険会社のメッツは乗客の状態を知り、動揺する。
乗客の大半が脳損傷したとなれば、全員死亡時よりも補償額は莫大になるのだ。
そこで彼らは機をハワイへ誘導しようとするが、ベリーは不安を感じ西海岸を要求。
乱気流を通過する事になるが、ジョンソンらはニセの指示でエンジンを停止させる。
マトスは再度撃墜命令を受けるが、エンジン停止に気づき墜落したと報告。
給油を待つがスローンに見捨てられ、嵐の海に消える。
機はエンジン停止で墜落の危機に陥るが、間一髪エンジン始動で難を逃れる。
ベリーは一味の狙いに気づき、以後データリンクの連絡を無視する事に。
そして墜落させようとした記録であるプリントが、一味の弱みである事に気づく。
ジョンソンらは機の墜落を確信し、マスコミに公表するが、
着陸態勢の機が発見される。ベリーは脳損傷の乗客の妨害を受けつつ胴体着陸に成功。
ジョンソンらはプリントを回収。ベリーをも始末しようとするが、
ベリーは脳損傷のフリをしてマスコミの前で事件を公表する。
彼らは責任を問われ、またスローンもその会話が録音され責任を追及される。

 と言うわけで、旅客機を乗客が着陸させる話は数々あるが、
本作は作者がパイロットだと言う点が異色。
そのため、専門家ならではの描写が迫力を増し、ややしつこいと思えるほど。
大型機だと言うストラトンの重量感もかなりの物で、
読んでいて手に汗握るという感じで、復讐劇も面白いが、詰めはもう一息という感じ。
またゾンビのごとく主人公を妨害する脳損傷の乗客たちの描写が少なくなく
ちょっと不快な感じ。
最近になって、別の作家と共作と言う形で改作したようだが、その方は未読。

影なきハイジャッカー(87)

トマス・ブロック著。文春文庫

 米国国防省の新型国防プログラムを入手しようとする駐米中国大使らは、
それを盗み出した上で米旅客機を乗っ取り、中国へ持ち込もうと画策する。
心臓病で引退した元機長のロンは、妻バーバラ、娘シャーリーンと共に、
かつての不倫相手キャシーが勤務する便に乗り合わせる。
ロンはトイレに仕掛けられた爆弾を発見。ブランチャード機長に連絡。
中国人工作員高威が動き出し、操縦席で乱闘に。副操縦士と高威は死に、機長も重傷。
やむを得ずロンが操縦するが、最新機種で操縦も怪しげだ。
乗務員フレッドは、高威が停止するはずの装置を発見。
あわてて停止させるがトイレの爆弾は爆発。
衝撃で乗員乗客に多数の死者が出た上、操縦席と後部座席は分断される。

 中国側一味は、作戦の失敗を悟り、爆破により証拠を隠滅しようと模索する。
米国務長官エリナーに連絡し、条約交渉の立役者とする条件で協力を要請。
中国の空港への着陸寸前に、遠隔操作で爆破する計画だ。
ブランチャードの意識が回復。ロイに協力させ、中国の空港への着陸を指示。
だが、爆弾に関する情報の相違から、彼が一味だと判明。
彼が爆弾を機内に持ち込んだのだ。格闘の末、ブランチャードは自分を撃って死ぬ。
ロイは中国への着陸が最善と判断するが、後部座席のフレッドが
管制塔経由で別の爆弾の存在を連絡。罠と感じて間一髪引き返す。
中国側は戦闘機での接近により爆破しようとするが、
フレッドが貨物室の爆弾を発見。間一髪解除する。
心臓病で失神していたロイも意識を取り戻し、佐世保の米軍基地へ着陸成功。
だが、ロイは息絶える。

 と言うわけで、パイロット出身のトマス・ブロックの航空機アクションの1作で
今回は中国とか日本とか出てきて、何だか変な感じを受ける。
機内で爆発が発生し、その描写は毎度すさまじい感じだが、
機内にさらにハイジャッカーがいるとなると、それはたぶん機長だろうと感じ
実際その通りに。だって、中国へ着陸させようと言った時点で怪しい。
その後、一味がいろいろ画策するが、すべて間一髪で回避される展開は
ちょっと都合良すぎる気もするが、派手なシーンの映画を想像して読むと
何やら細かい描写ばかり妙に多い小説よりも楽しめる。

ナバロンの風雲(96)

サム・ルウェリン著。ハヤカワ文庫

 ナバロンの要塞破壊他の作戦で共に戦い、成功を収めたマロリー、ミラー
そしてアンドレアの3人は、新たな作戦を命じられる。
独軍が大型で、しかも高速と言う新型のUボートを開発したらしく、
もしそれが実在すれば、破壊せよと言う任務だ。
3人はレジスタンスと合流し、洞窟に隠れて移動するが、
裏切り者がいたり、一行の妊婦が足手まといになったり。
断崖からドックへ迫る事になり、断崖を登るがミラーらが独軍に捕らわれる。
無事だったマロリーが将軍を倒し、将軍に扮してミラーらを救出。
3隻の潜水艦に侵入し爆破に成功するが、
将軍の死体が見つかり、騒ぎになってミラーが逃げ遅れる。
かに思えたが、ミラーは間一髪脱出に成功しており、3人は無事生還。
だが彼らに新たな作戦の司令が来る。

 と言うわけで、アリステア・マクリーン原作で映画にもなった
ナバロンの要塞シリーズの3作目を、彼の正当な後継者らしき人物が作った。
アンドレアは小説では「ナバロンの嵐」にも出ていた感じ。
マクリーンタッチを踏襲したとか解説され、何やら細かい描写が延々と続くが
正直言ってちょっと退屈で、洞窟あたりでウロウロするのも感心できない。
断崖を登ってからはちょっと面白くなるが、
ミラーが脱出できた部分はごまかされた感じ。
作者は、味を占めて、さらに続編を作るようだ。