××下宿屋木村 電話しようかな?!××

 

「ちっ、間に合わなかったら・・・・あいつら、責任取らしてやるっ!」

青組さんは、フロントガラスを流れていく夜景に舌打ちしながらそう言ったなり。

11月13日水曜日。例年だったらSMAP×SMAPの収録日。青組さんもつい最近までそう思っていたなりに、その日、桃組さんと緑組さんの海外ロケ(ただし、罰ゲームのための)が入り、青組さんも別のバラエティ番組のゲスト出演の収録がスケジュールに組まれていたなり。

確かに日付が変わったとき、「おめでとう」の一言は携帯を使って告げられたなりが、結局13日になってから今まで、赤組さんと青組さんは顔さえ会わせられずにいたなり。

だから、日付が変わる前にせめて、下宿屋に帰り着きたいと青組さんは思ったなりが、そういうときに限って、収録は長引くなりし、収録後に共演者は離そうとしないなりし・・・・。

「とにかく、わるいけど、今日は飲みに行けないから」

「えーっ、彼女にでも会いに行くんか?」

「いや、彼女じゃないですけど」

「だったらえぇやん。それともやっぱり彼女なんじゃ・・・・」

「彼女じゃないです!!だけど今夜はちょっとダメなんですよ」

赤組さんの誕生日だから、と言えばいいだけかもしれなかったなりが、さすがにこの歳になって誕生日のために、しかも特に何かを予定しているわけでもないのに帰りたいというのは、照れくさい気がした青組さんだったなり。

「とにかく、今夜はすみませんっ!!」

どうにか振り切って、青組さんが自分の車のハンドルを握ることができたときには、すでにその日の残り時間はわずかになってしまっていたなり。

「ちっ、間に合わなかったら・・・・あいつら、責任取らしてやるっ!」

舌打ちだって零れようというものだったなり。確かに仕事のために自分の誕生日に遅れたからって、文句を言う赤組さんではないと言うことは、青組さんも知っていたなり。・・・・だけど。

「俺が嫌なんだもん、仕方ねぇべ?」

青組さんは溜め息をついて、赤で停車した合間に携帯に手を伸ばしたなり。そして、その日何度も繰り返した番号に青組さんはリダイアルしたなり。収録の合間の電話は、なかなかタイミングが合わなかったことと、いざとなったら何を言っていいかわからなくなったのが重なって、結局怪しいワン切りの連続になってしまっていたけれど・・・・。今回だけはとりあえず、今下宿屋に向かっていると言うことだけは伝えたくて、青組さんは赤組さんが出るのを待っていたなり。

が、そういうときに限って、電話はなかなか繋がらないものだったなり。そして、繋がるより先に信号が青に変わったなり。

「どうしよう?」

青組さんは一瞬迷い、そして呼び出し中の携帯をそのままドリンクホルダーに置いたなり。とにかく急いで、帰りたかったなりし、ちょうど眼鏡を忘れて運転中で、ただでさえ夜間の運転で視界が悪かったなりに、あまり別のことに意識を向けられなかったから、そうせざるをえなかったのだったなり。もう赤組さんも出ただろうなぁ、なのに無言電話ってあきれてるだろうなぁ、なんて青組さんは思ったなりが、こういうときに限って、なかなか次の赤信号、というのがなかったなり。

ようやく赤信号で停車できて、青組さんは携帯を取り上げたなり。いくら何でももう切れているだろうなりなぁ、と思いながらも青組さんは携帯を耳に当てたなり。

聞こえてきたのは、青組さんが予想していたような発信音ではなかったなり。

「えっ、木村?」

思わず、上げた声に

「えっ、って俺に電話かけたんでしょ?何驚いてんの」

と言う赤組さんの声が聞こえたなり。

「いや・・・・だって・・・・俺、運転中だったから、ずっとほったらかしだったし・・・・」

「何だ、運転中で無言だったわけ?何があったかと思った」

「無言電話だし、切ろうとか思わなねかった?」

「だって、中居からってわかってるし」

そろそろ信号が青に変わりそうだったなり。

「あ、ごめん、信号、変わりそう。あのさ、今、下宿屋に帰ってる途中だから!!誕生日間に合わねぇかもしれないけど、急いで帰るから」

そう言ったまま、信号が青に変わったために、また携帯を放り出したような気配が赤組さんに伝わってきたなり。

「おい、無茶しないで安全運転!!」

聞こえるかどうかわからなかったなりが、携帯に向かって叫んだ赤組さんの耳に、

「あ、プレゼントっ!!間に合わないから、また今度なっ!」

やっぱり叫ぶような青組さんの声が聞こえてきたなり。

後は、微かな物音しかしなくなって携帯をしばらく耳に押し当てていた赤組さんだったなりが、やがてその通話を切ったなり。

「多分あの調子だと、ちゃんとメシくってないだろうし」

簡単に何か用意するためにキッチンへと向かう赤組さんだったなり。

ポケットに入れた携帯電話には、朝からずっと何度も繰り返し残されていた着信履歴。

それはやっぱり特別な日の特別なプレゼントのように思えた赤組さんだったなり。