一体何がいけないなりか・・・・。青組さんは深く考えていたなり。それはもう、周りで見ていても鬱陶しくなるほどに深く深く考えていたなり。
「どうしたんだよ、一体?」
下宿屋中の空気まで重くなりそうな気がして、赤組さんは思わずそう声をかけていたなり。
「おまえが悪いんだよ」
いきなり青組さんに言われて、赤組さんは焦ったなり。
「えっ?何?何が?何が悪いって!?」
慌てて色々と考えたなりが、何も原因を思いつけなかったなり。赤組さんがそうしている間もずっと青組さんは眉間に深いしわを刻んだままだったなり。
「そんな顔ばかりしていたら、そんな顔になっちまうって!!」
それは芸能界どころか日本の国家レベルの損失だと、半ば本気でそう思い、青組さんのしわを伸ばしてやりながら赤組さんは言ったなり。
「誰の責任だ?」
不機嫌そうにそう言って、青組さんはおもむろに手にしていたものをテーブルの上に置いたなり。
それは・・・・。
ビストロでオーダーの際に振られているガラス製のベルだったなり。
「何で、これがここに?」
「今から、特訓するからに決まっているだろ?まったく・・・・何度オーナーになってもちゃんと音出せないなんて!出だしがあれじゃ、あとがなかなか締まらなくなっちまうだろっ!!」
驚いている赤組さんをしりめに青組さんは力説し、そしてベルを軽く振ったなり。
チリンチリン
涼やかな音が部屋に響いたなり。それは赤組さんにはどうしても出せずにいる音だったなり。
「この音が出せるようになるまで、何度だって振ってもらうからな」
それから二人は何度も繰り返しベルを振り続けたなり。青組さんのベルはチリンチリンと高い音をたてて鳴り響いたなり。赤組さんのベルはどうしてもしゃらしゃらと、こすれたような音にしかならなかったなり。
「なぁ、一体どんな風に振ってんの?どう振ったらそういう音になるわけ・・・・?」
「どう・・・・って。だからこう、だべ?」
赤組さんは尋ねたなりが、青組さんには口で説明することはできなかったなり。
「こうってさぁ・・・・、手首の感じはどんな?」
「こうだってば」
結局うまく言い表せずに、交互に振り続ける二人だったなり。何度もしつこく繰り返されるベルの音に、ボニータはとうとう耐えきれなくなって部屋から退散していたなり。
けれども。
そんなに何度も繰り返していたなりに、どうしても赤組さんのベルの音は青組さんのようには鳴らなかったなり。
「とりあえず、今日はこの辺にしておくか・・・・」
さすがに何度も振り続けて、青組さんは疲れ切ったようにそう言ったなり。なりが、今度は赤組さんが許さなかったなり。
「ダメだってば!!絶対にちゃんとした音がでるまで、何度だって練習しないと!!」
赤組さんは燃えていたなり。こいつってば熱血スポコン体質だったなりか?素振り一千回!!とでも言い出しかねない様子の赤組さんに青組さんはかなり遅くまで付き合わされてしまったのだったなり。
果たして、特訓の成果が現れる日は来るなりか?
「だけどそれどころじゃねぇよなぁ」
青組さんは苦笑いして呟いたなり。赤組さんに付き合いすぎたせいなりか、その日青組さんが振ったベルの音はどこか赤組さんの音にも似て、余りよく響かなかったなり。