春まだ浅い某日・下宿屋。
その頃青組さんは、怖ろしいまでの集中力で映画に取り組んでいたなり。そして赤組さんはというと・・・・。
「やっぱり一緒に住んでる者として、色々協力させてくれるよな?」
そう言った言葉をしっかりと実行して、毎日の青組さんの栄養管理他に怖ろしい程熱心に取り組んでいたなり。確かにそのおかげで、いっそう集中して映画に取り組めると言えないではなかったけれども・・・・。何もかも「青組さんのため」と言うことで構い倒されて、少々息苦しくもあった青組さんだったなり。
「いや、贅沢だってーのは、わかってんだけどなぁ・・・・」
そんなことを思い、青組さんは下宿屋のリビングでため息をついたなり。
すぐさまそれに気付いて、赤組さんは訊いたなり。
「どうした?さっきから、本進んでねぇじゃん?」
「あぁ、うん」
青組さんは、意識をさっきから読んでいた映画の脚本に戻したなり。青組さんの役はこれまでやったどの役とも違う、青組さんとしては共感しがたい部分の多い、そんな役だったなり。
何故か青組さんはその時ふと、赤組さんの
「やっぱり一緒に住んでる者として、色々協力させてくれるよな?」
という言葉が思い浮かんでいたなり。
「なぁ」
青組さんに声をかけられて、赤組さんはさっきからちょこちょこと構っていたボニータから視線を戻したなり。そろそろお眠の時間で、迷惑そうにしていたボニは、この隙に、とばかりに部屋の隅へと避難していたなり。
「木村、ちょっとここ付き合ってくれる?」
「いいよ、中居。じゃあオレ、浩美役ね」
赤組さんは青組さんのそばにやってくると、横から台本をのぞき込むようにしてそう言ったなり。
一通り、赤組さんも脚本に目を通してから、二人はひとつの台本を両方からのぞき込むようにして、読み合わせを開始したなり。青組さんがひとつのセリフを強く言ってみたり、ゆっくり言ってみたり、あるいは噛みしめるように言ってみたりと、何度も確かめるように繰り返すのに、赤組さんは文句も言わずに付き合ったなり。
やがて、
「今日はもうこの辺にしとく」
青組さんは台本を閉じ、赤組さんは伸びをしたなり。
「すっげー、面白そうな話じゃん」
赤組さんは言ったなり。
「封切りになったら、ぜってー見に行くから!!」
そう言ってから、
「・・・・試写会とか応募したら当たんねぇかなぁ?」
と、ちょっと首を傾げて考える様子の赤組さんに、
「とりあえず、割引券とかやろうか?」
青組さんは笑ったなり。
「割引券・・・・!ふつー、そういう時は、招待券とか言わねぇ?」
「別にいいじゃん、いまぜってー見に行くって言ったばっかりだろ?」
そんな光景が下宿屋で何度か繰り返された、問題の映画の公開が間近に迫っていたなり。