「なぁっ、釣り行こ、釣り!!竿とか旅館で貸してくれるらしいし」
こいつ、こういうとこ来ると俄然元気だよなぁ、そんなことを思いながら、青組さんは赤組さんに引っ張られるようにして渓流へ釣りに出かけたなり。
まだまだ日差しは強かったなりが、ススキの穂を揺らす風はどこか爽やかで、確かに秋が訪れていることを二人に感じさせたなり。ポイントを見つけて糸を垂らすこと5分。
「釣れねー」
「まだ、5分だし、そんな簡単にはいかないって」
「釣れねー、面白くねー、退屈ーぅ」
「あんまり、騒いでると魚逃げるってば」
「だって、退屈だしぃ・・・・」
しばらく騒いだ後で、ふっと青組さんの声が途切れたなり。見ると青組さんは日溜まりの岩の上で丸くなって眠り込んでいたなり。
「騒ぐだけ騒いでこれかよ?」
けれど、不思議と腹の立たない赤組さんだったなり。
「疲れてんだよな」
赤組さんは上着を脱ぐと青組さんにそっと掛けて、頭が陰になるようにちょっとだけ動かしてやったなり。
「そろそろ帰るぞ」
声を掛けられて青組さんはぼんやりと目を開けたなり。大きく伸びをして、首を何度か左右に曲げて、青組さんは赤組さんに尋ねたなり。
「なぁ、何か釣れたの?」
「ん?まぁまぁ」
「楽しかった?」
「うん」
「だったら、・・・・来てよかったじゃん」
青組さんはにっこり微笑んだなり。
赤組さんから手をさしのべられて、青組さんは立ち上がったなり。足場の悪い岩の上をそのまま赤組さんに手を引かれながら、旅館に戻る青組さんだったなり。
二人が、釣りから戻ってくると、部屋の中はちょうど夕食の準備が整えられたところだったなり。まずは、蕨海苔巻き、川海老、栃もちこんにゃくなどを綺麗に竹籠に盛りつけた一献が供されたなり。そして、その土地の地酒だと紹介された日本酒。
「いただきます」
二人で手を合わせた後で、まずはお酒を飲んで・・・・。
「何これ?」
「すっげー、やばくねぇ?」
「やべぇよ、これ」
思わず注ぎ直して、もう一度杯に口を付けた二人だったなり。
「美味いよなぁ」
青組さんは今度はゆっくりと味わってから言ったなり。
「すっげー、幸せ」
杯を置いてから、ため息をつくように言った青組さんを見て、“やっぱり連れて来てよかったなぁ”と、しみじみ思う赤組さんだったなり。
そして、その後も山菜や渓流の魚を主に使った料理が次々に運ばれてきたなり。
「木村、木村ぁ」
青組さんは赤組さんを呼んだなり。青組さんの方をむいた赤組さんの目の前に箸で摘まれて突き出されたのは、先程出てきた口取りの茗荷だったなり。虎杖、茗荷、山独活、新蓮根(読めますなり?順に、いたどり、みょうが、やまうど、しんれんこん、なり)の酢味噌和えで、ちょっと青組さん受けは悪そうだな、と赤組さんも思っていたところだったなりが。
「??」
「木村、こういうの好きだよな」
「はぁ?」
「好、き、だ、よ、なぁ!」
「それ」
程でもない、と続けようとした口に茗荷はつっこまれたなり。
「何すんだよ!」
文句を言うまもなく、次の蓮根が差し出されたなり。
「美味し?はいっ、もう一口」
こいつ、嫌なもん人に全部喰わせる気だな。赤組さんも気づいたなりが、別にその料理がが嫌いというわけでもなかったなりから、取り敢えず青組さんに付き合って、口を開けてやった赤組さんだったなり。