「ん・・・・」

障子越しの光に赤組さんは目を覚ましたなり。

「今、何時だよ?」

枕元に置いてあった腕時計で、まだ朝食まで充分に時間があることを確認し、赤組さんは隣で眠る青組さんに目を向けたなり。気持ちよさそうに眠る青組さんを見て、昨日の約束を思い出し、

「今のうちに行って来るかな?」

とコンビニに新聞を買いに出かける赤組さんだったなり。

 

青組さんが目を覚ますと、枕元には、「朝○」「読○」「スポ○」の三紙が重ねられていたなり。それをぼんやりと見てから、寝ぼけまなこのまま辺りを見回す青組さんなり。それから、縁側でくつろいで青組さんの方を見ていた赤組さんの姿に、眉間に少ししわを寄せるようにして視線を合わせて、

「おはよ・・・・」

かすれた声で青組さんはつぶやいたなり。その一連の動作に“まだ、半分寝ぼけてんな”と微笑ましく思いながら、

「おはよう」

と赤組さんは挨拶を返したなり。

「朝飯、ぎりぎりまでゆっくりにしてもらってるから、まだ、ちょっと時間あるよ?」

「ん・・・・、わかったぁ」

言いながら、取り敢えず起きあがると、はだけてしまった浴衣の襟を合わせなおして、上掛けを肩から掛けて座り込んだまま、枕元の新聞を読み始めた青組さんだったなり。

「なぁ」

ようやく意識がしっかりとしてきたのか、はっきりとした声でそう言って青組さんは赤組さんに振り返ったなり。

「昨日、二泊三日って言ってたけど、それってつぶれているうちに勝手に連れこまれた晩も入れて?それとも抜き?」

かすかに力の込められた「勝手に」という単語にちょっと落ち着かない様子で、青組さんから目をそらして、「抜き」と赤組さんは答えたなり。

「ふぅん・・・・」

青組さんは手もとの新聞を丁寧に畳みながら言ったなり。

「だったらさぁ・・・・」

 

まだ紅葉には早い木々の葉の間から漏れてくる光が、浴室にも満ちていたなり。壁の一面に大きくとった窓のガラス越しに渓流の水面が光っているのが見えるなり。お風呂は槇の一枚板、お湯は山の湧き水を沸かしたものだそうで・・・・。

「くーっ、たまんないねぇ」

青組さんはお風呂につかって大きく伸びをしたなり。

「おまえ、それってちょっとオヤジ入ってるって」

苦笑いをして青組さんのとなりに静かにはいる赤組さんなり。

「えっ?いやだぁ、マコったら!」

ちょっとふくれて右手で軽く頭を叩くポーズ。

「ここまで来て、ネタやってんじゃねぇよ?」

「ん?たっくん、マコのこと嫌い?」

「だから、好きとか嫌いとかじゃなくって」

「ん〜っ、マコはぁ、たっくんのこと、好きなのにぃ」

「・・・・も、どうにでもして・・・・」

あくまでも、マコちゃんネタを続ける青組さんに脱力したように、鼻の下まで、お湯に潜ってしまう赤組さんだったなり。

「でもさぁ」

青組さんが真顔でぽつりと言ったなり。

「なに?」

「こんな、広い風呂でぼーっとできるのって、よくねぇ?」

「すっげー、いい」

朝食後という時間帯もあってか、風呂場には二人の他には誰もいなかったなり。のんびりと身体を伸ばしてくつろいでいる二人に、射し込む光は柔らかかったなり。

流れる時間さえ、ここではゆっくりとしているようだったなり。

 

「だからって、少しは考えろよ」

「おまえだって、注意してくれれば、いいじゃん?」

部屋の縁側の開け放した窓からは、渓流を渡るさわやかな風が入っていたなり。その風に火照った肌を冷まさせて、青組さんは赤組さんの背中にぐったりともたれて座り込んでいたなり。

「う゛ーっ、湯あたりなんてみっともねぇ」

「ポカリ、飲む?」

「・・・・もうちょっと、落ち着いてから・・・・」

ちょっと向きを変えて、青組さんの頭を膝に乗せ、団扇の風を青組さんに送る赤組さんだったなり。