障子越しにも月の光は明るかったなり。
「そういや、夕食も月見の宴って名前だったっけ・・・・」
その明るさが気になって寝付けないでいた赤組さんは、上半身を起こしたなり。
「何?木村ぁ?」
「ん、まだ寝とけ、大丈夫だから」
その気配に目を覚ましかけた青組さんに優しく声を掛け、赤組さんは眠るのを諦めて布団を出たなり。障子を静かに開けて縁側に出た赤組さんは、月の光に誘われるように庭へとおりたなり。作りすぎない程度に、きちんと手入れをされたそこに、月はくっきりと影を落として冴え冴えと輝いていたなり。その青白く明るい光に、現実のすべてから切り離されてしまいそうな気がする赤組さんだったなり。
カサ・・・・。赤組さんが人の気配を感じて振り向くと、そこには青組さんがいたなり。月は青組さんの顔の陰影をはっきりとさせて照らしていて、赤組さんは一瞬、無言で立つ青組さんのその妖しさにどきりとしたなり。
「どうした、一体?」
訊ねる青組さんをぼんやりと見ていた赤組さんだったなりが、どうにか
「ちょっと眠れなかったから」
と答えたなり。
「そっか・・・・」
赤組さんとボニの大好きな笑顔で、青組さんは“くしゃり”と笑ったなり。その笑顔で、一気に赤組さんに現実が戻ったなり。
「おまえこそ、どうしたの?」
「だって、目ぇ覚めたら、木村いなかったし・・・・」
「ん・・・・なんか月の光がすっげー綺麗でさぁ、東京いたんじゃ、こんな月見られねぇじゃん」
「そだな」
赤組さんに並んで、青組さんも庭を照らす月を見たなり。
「映画・・・・次、いつ行くんだ?」
思い出したように青組さんが言ったなり。
「来週、スマスマの収録がすんだらすぐ・・・・」
「ふぅん、・・・・ボニータどうすんの?」
「ボニ?まだ決めてないけど」
「・・・・見ててやろうか?」
「いいの?」
「・・・・別に」
「中居がいいって言うなら、そうしてくれると嬉しい。ボニも最近、中居に慣れてきたし・・・・。あのさ、あいつ中居の足音に気づくとすっげー嬉しそうにして、それだけで落ち着かなくなるの」
「へ・・・・え?」
ちょっと照れくさそうに顔に手をやる青組さんに、赤組さんは思い切ってひとつ、提案したなり。
「なぁ、この際だし・・・・おまえ、うちに越してこねぇ?」
「え?」
「最近、ほとんどうちでしょ?・・・・それにうちに来てくれたら、俺もタムラのことなんかで心配しなくていいし、うちってそもそも家族向けだから部屋も空いてるし、さ」
「・・・・でも、おまえ彼女出来たら、不便だよ?ぜってー、こんなこと言ったの後悔するべ」
「そんなはっきりしない先のことじゃなくて、俺は、今のことを言ってんの。・・・・俺は、越してきて欲しい」
顔をのぞき込まれて、青組さんはその目をそらしたなり。
「ん・・・・ちょっと考えさせてくれ・・・・」
お互いに無口になってしまった二人だったなり。ふっと、赤組さんの目に浴衣の襟から覗く青組さんの寒そうな肩が見えたなり。そうして初めて、赤組さんも空気の冷たさに気づいたなり。
「中、入ろうぜ」
「あぁ」
連れだって二人は部屋に戻ったなり。
その翌朝、ぎりぎりまで布団の暖かさを楽しんだあと、若女将の丁寧な挨拶に送られて二人は宿をたったなり。細やかで行き届いたサービスなりが、必要以上には関わってこない心配りは、二人にとってもとても心地のよいものであったなりが、
「んーっ、何だか落ち着くー!」
助手席でそういって伸びをした青組さんに赤組さんの同意の笑顔を見せたなり。
東京に戻る前に、二人はとある定食屋に立ち寄ったなり。
「すっげー贅沢な料理だったけど、俺はやっぱこういうとこのメシの方がいい」
と言う青組さんの希望によるものだったなり。焼き魚定食と唐揚げ定食で少々迷ったなりが、青組さんは唐揚げ定食を頼み、赤組さんも同じものにしたなり。
人の良さそうなおばちゃんが「この人たちって・・・・??どうもここまで出かかっているんだけどー」みたいな顔で運んできた唐揚げ定食は揚げたてのあつあつだったなり。
「いただきまーす。あちっ」
慌てて頬張って、口の中をやけどしたらしい青組さんに
「おい、大丈夫かよ?」
赤組さんは心配そうに声をかけたなり。
「・・・・うんだいじょぶ・・・・。木村も食えよ、すっげーうめぇから」
青組さんはにこりと笑い、二個目の唐揚げに手を伸ばしたなり。
やがて、テーブルの上の食べ物もそろそろ終わろうかという頃になって、青組さんはそっと箸を置き、赤組さんの目を見たなり。
「あのさぁ・・・・木村・・・・。おまえんち、こたつ置いてもいい?」
そうして木村旅館は、下宿屋木村になったなり。