ダイビングコーナーコラム   その5  国外器材について(2014年度)
 
 (1)なぜ、日本でダイビングがはやらないのか?
  日本は、言わずと知れた、島国であり、ほとんどの県でいくばくかの海岸線を有している(海に面していないのは、ほんのごくわずか。島がひとつの自治体になっている北海道と沖縄は、完全に海に接している)。
  夏場の海水浴に代表される、海のレジャーが、もっともっと盛んになってもおかしくない環境下にある国であるのだが、ここ最近、海水浴自体も低調に推移しているように見受けられる。
  そんな状況下にあって、冬のスキーと対極をなす、ダイビングは、本来年中潜水可能な海であるにもかかわらず、夏場限定とされてしまい、その用具費用の高さから、大きくはやることもなく、現状を迎えている。
  しかしながら、いざ、海外に目を転じてみると、まるで日用品を買うかのような価格で、中古のBCがオークションにでていたり、新品であっても、日本の価格より高いものは見受けられない。

  その昔、「内外価格差」という言葉がやかましく言われていた時期がある。同一商品も海外で買うのと日本で買うのとでは大きく差異が発生していた、そういうことを表現した言葉である。
  ここでいわれていたのはいわゆる「ファッションのブランド品」が主であり、そういうことから個人輸入というものがちょっとしたブームになろうとしていたころでもある。
  この内外価格差が、実はダイビングではいまだに引きずっているように感じるようになってきたのである。

  「これが当たり前」と思っている日本の価格は、海外の同等品の価格のはるか上を行っていることが往々にしてある、ということである。
  もし、器材にかかる金額が劇的に下がったら・・・。それは確実に障壁のひとつがなくなることを意味し、必然的に参加者は増加してくるはずである。
  今回のコラムでは、「海外での器材購入」も視野に入れた業界の繁盛策を考えてみる。

 (2)日本と外国の価格の差異を見る
  では早速始めたい。
  一番器材代としてかかるのはBC/レギュレータである。日本で買うのと海外でゲットするのとではどの程度の差が出てくるのか・・・。
  と比較しようと思ったのだが、意外にも、「日本専用」器材という存在に頭を悩ませる結果になった。たとえばTUSAの場合、日本でよく出ている品番は、1650や3200なのだが、海外では、6000番台なども見受けられるものの、日本のカタログ掲載商品がないということが発生。SProも同様の事態が起こり、結果的にあまり見受けられない「Go」というBCDでの比較になってしまった。


日本 A店 日本 B店/C店 アメリカ A店 アメリカ B店
BC/SPro GO 71400円 62475円 479ドル 479ドル
BC/マレスプレステージ 67200円 65900円 299.95ドル 448.95ドル
reg/Spro MK25/S600 91350円 98175円 695ドル 729ドル*
reg/Mares MR22 ABYSS 57750円 65520円 498.95ドル 498.95ドル

  <表の見方> 日本A店は同一店舗。アメリカA/Bも同じ。日本B店はMARES扱いなしの店。C店はほぼMARES専門店。アメリカBの*は、2013年モデルの表記あり。

  という感じになった。日本で安めの器材の代名詞になっているTUSAで比較したかったのだが、先述したように日本市場と海外市場で流通しているものが違うのでは比較のしようがない。仕方なく、日本からもアメリカからも「輸入」していると考えられるイタリアのメーカー・MARESを選択した、というわけである。
  アメリカの価格が日本とどう違うのか、はもはや言うまでもない。1ドル=100円で大雑把に計算しても、MARESのBCで最安の約3万円(A店は、比較対象商品がセールでこの価格だった/元値は448.95ドル)。MARESのレギュレターで5万円を切っている。
  これだけ安い、ということは器材全般に言えることで、比較対象外の商品では、BC1万円台も実際にあり、激安セットも4万円を切る価格からスタートしている有様である(勿論オークションでもなんでもなく、提示価格)。

  もうお分かりだろう。どんなに軽く見積もっても、日本の価格の2〜3割以上は安いことがうかがい知れるわけである(特価品を別にして)。パソコンや携帯電話がここまで爆発的に普及した背景には、通信速度の速さに代表されるインフラ整備もあるだろうが、やはり、本体価格の劇的な下落が購入を後押しし、普及につながったと見るべきである。つまり、もしダイビング用品の価格が欧米並みの価格に落ち着いたとき、少なからず、入り口に立つ人は増加しているはずである。

 (3)海外品のメリット/デメリット
  ここから先は「実際に購入したわけではないが、こういう問題点が大いに存在する」というところのあぶり出しを行ってみたい。
  すでに論じたように、ダイビング器材は、海外で購入すると意外に安いことが分かった。そして、下手をすると、「これで一山当てられる」かもしれないくらいの価格がでているといっても過言ではない。

  しかし、それは素人の浅はかさ。「買う直前」までの楽しさとは裏腹に、いろいろと面倒なことも起こりえることは覚悟しておかなくてはならない。
  一言で言ってしまえば、「外国人と取引する」ことがどれだけ大変か、をまざまざと知ることになるのである。
  1.当然相手は外人/英語でのやり取りとなる
  もうこれはこのひとことですべてが言い尽くされているだろう。まあ、電話ではなく、日本人ならまだ敷居の低い文面=eメールでのやり取りだけに、ビジネス筆記英語レベルなら、そこまで怖気ずく、という人も減ってくるのではないだろうか?
  2.何かにつけて取られる手数料が馬鹿にならない。
  海外送金/梱包/通関手続き/国内配送・・・まだまだかかってしまう経費はあるに違いない。それらを含めても国内で量販店で買うより安いのか・・・。思案六歩する局面でもある。
  個人輸入されている方の報告を読むと、製品代金プラス数千円というところである。重器材の購入なら、許容できる水準といえる。
  3.返品・交換にはさらに莫大な時間を要する。
  外国人相手に、さまざまなクレームを上げたところで、対応はのんびり。まともに対峙してくれることは考えにくい。もちろん、自身のミスでやってしまったときも同様だ。
  4.日本人向けのショップではない
  一番引っかかりやすいのが「サイズ」。アメリカのLなんて頼もうものなら、ぶっかぶかになること必至。下手するとSでも厳しいかも・・・
  5.メーカー補償が効かなくなる。
  これはかなりの痛手である。一応各メーカーのHPを参照したが、いわゆる並行輸入品や海外購入品に関するちゃんとしたアナウンスがあるところはまれで、「国外の器材を使っている奴なんているわけない」とふんでいる様子すら感じられる。
  ただ、「国内でのみ補償が受けられる」とか、「販売証明書」的なものの提示を求められるということは、正規ルート以外の購入は有料という感じと考えられる。
  6.オーバーホールは絶望的?
  日本国内で取り扱いのないメーカーであれば、部品も当然取り寄せ/そもそもOHをしてくれるかどうかも。少なくとも、OHの必要な器材は、日本にも入っているメーカーにしておくべきではないだろうか?
  7.アダプタ形状が違う
  ドライスーツ/レギュレターなど、ホースとつなぐ器材の場合、コネクタの形が違う場合がある(DINと記載されているREGは確定)。この際のアダプタ/ドライホースなどは別途購入する必要がある。

  しかしながら、大きなメリットがある。
  ○だれも持っていない器材!
  基本的に国内流通のメーカーしか見られない中にあって、舶来品の放つオーラは半端ないはず。目ざといダイバーに声を掛けられることも多くなるはずだ。
  ○なんといっても、安い。
  まとめて「ドン」なら、配送/手数料なども合算できるはずで、一度の出費は確かに痛いが、トータルで考えればかなり安い買い物になるはずである。
  ○視野が広くもてる
  海外メーカーのいいところ/悪いところも知ることが出来る。勿論、そんな余裕がある人ばかりではなかろうが、ダイビングがワールドワイドな趣味であることも知ることが出来る。

 (4)「あの」数式に当てはめてみる
  海外で仕入れた器材で潜る・・・初心者にはとても及びも付かない選択ではあるのだが、「器材を持つ」という視点から言えば、安く買うことの出来る海外品の存在は決して侮れない。
  くどいようだが、同等品が大幅ディスカウントして買えるのと同じなのである。また、「海外の人と取引をする」ということにも慣れるわけで、今後のグローバルな流通を考えたときに、この選択は検討に値する。
  というわけで、当方がコラム2で披瀝した、数式に再度登場してもらうことにする。
  条件は「重器材25万 軽器材 5万 オーバーホール1万 10年間に100本/2本ごとに足代等コスト3万円」ということだった。
        (25+5)+(3×100/2)+(1×10)= 190万
  しかし、海外輸入品が選択肢に入ってくると、重器材はBCとレギュレターで5万円程度からある。ここは8万円(1000ドル)でまとめ、ウエットを国内ブランドのフルオーダー/2割引で7万円とすると、もうこれだけで10万円のディスカウントだ。
  軽器材ははっきりいってもとの価格がそれほどでもないため、割引の恩恵を受けにくいので5万円そのままとする。すると、
        (15+5)+(3×100/2)+(1×10)= 180万
  しかし、これだけでは終わらない。海外の激安セットだけで固めると、なんと700ドルでおつりが来てしまう。ウエット7万を譲らないとすると、
        (5.6+7)+(3×100/2)+(1×10)= 172.6万
  という数字が出てくる。国内流通品だけを購入するのと、器材だけで実に!17万以上の差が出ることになったわけである。
  そして、この価格は、なんと、レンタルで潜った価格を凌駕しているのである。つまり、「海外輸入品であれば、所有したほうがレンタルで潜り続けるより安価である」ことになるわけである。
  まさかの「逆転現象」。さまざまな障害が、手元に届くまでにあるとはいえ、海外輸入品に手を出すことは、デメリットばかりではないことが証明されたことになる。

 (5)円安に触れている現状での選択
  政権交代が再び起こり、安倍政権が打ち出した「脱・デフレ政策」が起爆剤となり、円は、80円/ドル前半から100円/ドルをうかがい、突破する流れになってきた。
  という事は、輸出産業やメーカーにとっては福音ではあるものの、燃料や素材系など、輸入に頼らざるを得ない産業は、逆風が吹き荒れている。電力会社もその流れをもろにかぶっている。
  個人輸入の世界においても、この円安は、「損」に映ることはいうまでもない。とはいえ、あの80円台のときが異常だっただけのことで、今の円/ドル相場は、アメリカの景気回復、EUの落ち着き度合いから見て適性であるように映る。
  勿論のことながら、日本が円安になったからといって「アメリカの価格」が影響を受けることは皆無に等しい。それでも「価値」が為替で左右される現状を考えたときに、対円に対して強くなっている通貨の国で取引することが、利益/利ざやを取れることになる。
  問題は、「では、海外の器材をどこで買うといいのか」と言うことである。市場がそこそこあり、最低でも英語が通用し、器材に対する知識もある国・・・。仮に円安になったとしても、アメリカやイギリスと言う、欧米各国を選択肢にしなくては難しいと見る。
  程度の差こそあれ、円安に触れたのであれば、輸入する場合高くなるのは仕方ない。かといって円がこれまでのように一本調子で価値を切り上げることは考えにくい。100円前後をボックス圏としてウロウロする状況が続いている為替状況だが、
  来るべき「120円台」に備えて、今のうちからつばをつけておく、と言うのも悪くないと思う。
  (※・・・韓国で購入が吉、と以前に書いていましたが、海に囲まれているのにダイビングがそれほどはやっていないことが判明。記事内容を修正しました。)

  (6)当方の結論/器材の海外購入はありか?
  というわけで、結論を出すことにする。
           ズバリ、「買い」である。 
  たとえば、ドライスーツ。日本ではウエット素材のドライが幅を利かせているが、アメリカでは、ネオプレン素材のドライはむしろマイナー。シェルドライといわれるスタイルが主流である。
  それだけではない。国内メーカーで20万/ショップオリジナルでも9万円前後するドライが、素材は違えども6万円を切るような価格で、それも新品が買えるのである(セール価格/メインのスーツはやはり12,3万するが、はるかに安い)。
  REG/BCDについてはすでに述べたように、確実に安い。今現状の1j=100円前後のレートであっても、まだまだ、海外の価格優位性はなくなりはしない。
  勿論、先述したようにデメリットはかなりある。国内購入であれば救いの手はいくらでもあるだろうが、海外で買った器材は、実質無防備なのと同じだ。命を預ける器材として採用するには勇気もいる。
  とはいえ、海外の優秀な製品を目の当たりにすると、こんなところでも「ガラパゴス化」しつつある、日本のダイビング業界の、膠着振りがどうしても目に留まってしまう。
  おそらく「海外品のメンテナンスをしない」ということから、この状況は始まっていると思うのだが、そういう閉鎖的な環境でユーザーの取り込み拡大に消極的であれば今の状況もむべなるかな、といわざるを得ない。
  なまじ技術力があるだけに、国内品最強を日本人自身が信じて疑っていないという「信仰」に似た感情があることも想像に難くない。
  
  ダイビング自体はアメリカから入ってきたものである。先達たちの技術力だって、侮れない、と考えるのは少々「アメリカかぶれ」していると言われかねないだろうか?
  「買い」とは大きく謳っては見たが、すべては自己責任であることは最後に忠告して今回のコラムを締めくくりたい。