コラム その7 料金の妥当性を考える
(1)なぜ、日本でダイビングがはやらないのか?
先のコラム5/6とまったく同じタイトルで始めてみた。
しかし、よくよく考えてみると、実は業界に一時フィーバーが訪れたときがあった。
そう。「彼女が水着にきがえたら」が映画公開された、1989年前後のいわば、バブル期に訪れた、ダイビングバブルと符合しているのである。消費を牽引する若者にとって、水中体験は格好の「自慢できる」趣味の一つでもあった。
だが、バブルは崩壊。可処分所得が激減する中で、雨後のたけのこのように林立したショップの大半が廃業を余儀なくされ、しぶとく生き残ったところは、悪徳と揶揄されるような違法勧誘にまで手を伸ばすように成り下がってしまった。
海はこれほどあり、ダイビング自体に興味を持っている人はもっともっといるはずなのに、一向にパイは増えず、だからなのかもしれないが、料金は高止まりのままで推移している。
はやらない理由のひとつには、器材をそろえる必要性もあるだろうが(当方としては、むしろすべて借り物で続けていくことのほうが違和感を感じる)、現地で支払う料金にも「えええ、こんなにかかっちゃうの」と、尻込みさせてしまう側面があると考えるようになっている。
そこで今回は、さまざまな現地サービスを利用している当方が考える「理想の料金像」を提案しつつ、議論をしていきたいと考えている。
(2)意外と横並びで無い料金体系
いろいろな現地サービスを利用している当方としては、「どうしてこんなに安いの?」と言うところから「そりゃねぇぜ、アミーゴ」といいたくなるようなところも含めて、千差万別、10個のショップで10通り、と言う感じの料金である。
ただ、傾向と言うものはつかめる。
ここでは2ビーチと2ボートをメインに考えていく。
○2ビーチ ほぼ目の前に存在することから、正味の料金と考えて差し支えない。料金対象は・ガイド ・タンク ・ウェイト といったものが大半を占める。店舗によっては、入海料や施設利用料を別途取るところもある(パック料金になっているところもある)。
ところが、タンク料金もピンきり。ウェイトに関しては、サービスにしているところがあるかと思えばちゃっかり計算に入れているところもあり、本当にばらばらである。
○2ボート さらにややこしくなるのがボート乗船料がかかってしまうボートダイビングの場合である。たとえば自社所有のボートなのか、漁協に出してもらうものか、で変わってくるし、自社所有であっても規模がでかく、一度に大量に運べることで
コストダウンが効く場合とそうでない場合がある。他社ボートに乗り合わせるとなると、利潤をそこでもカウントしてしまうとかなりの割高になる。
いい例が「沖縄の2ボート<伊豆・某所の2ビーチ」である。ボートより高いビーチ、と言うよりも、安すぎるボートの価格に驚きなのである。それもこれも、スケールメリットを生かせる大型クルーザーによる運行がなせる業であり、通年忙しい沖縄だからこその価格といっても過言ではない。
また、地域差も歴然としている。来客が多く見込まれる首都圏に近いところが安いかと言うとそうではなく、むしろ、地区の物価がダイビングフィーを決める要素とみたほうがすっきりするようにも感じている。
(3)すべての差異は、ガイド代しかない
料金を個々の要素に分解してみると、ガイド代(正確には店舗の実入り/実際のガイドの手取りではない)が浮かび上がってくる。タンクやウエイトのレンタル料金が提示されているところは、自ずと分かってしまうことになってしまう。
たとえば2ビーチ1万/タンク1本2000円、ウェイト一回500円とすると、10000−2000*2−500=5500円が店に実際に入るお金である(タンク充填の料金はよく分からないが、ウェイト500円は、確実に利益の源泉だといってもいい)。
そのお店で2ボート1万5000円とするならば、ボートの料金が5000円と解析できる。1本当たり2500円。それを高いと見るか安いと見るかは場所柄やボートそのものの設備などにも寄るところである。
ところが「マリンハウスシーサー那覇店」の2ボートは、10500円なのである(税別表記になっている)。1ボートなら8500円なので、乗船料を1本2000円と考えると、店の見入りは、恐ろしくないに等しいものになる。それでもやっていけるのは、
先にも書いたように・自社ボート ・薄利多売できるシステム ・3ボートなら15500円にしてあるが、この割高感があっても「一航海で3本できる/1本あたり5000円強で慶良間にいける」ことで満足感を得させることができる からである。
実際、大規模経営していないほかの沖縄のショップでは、「レンタル器材無料」で1.3万程度に収めるのがやっとである(シーサーはレンタル代はかかる)。その場合でもかなり無理していると感じずにはいられない。
見てきたように、「店が一回の来客でどの程度利益<店に入る金額>を得ようとするか」で、料金と言うものは変わってくる。料金内訳には「ガイド代」と書かれているが、その代金全額がガイド氏に支払われるはずがない。店の運営資金も含まれているからである。
ここが料金攻略/からくりに迫る部分といってもいい。
(4)料金が安いお店を見つけるポイント
料金の高低を決める要素がガイド代=店舗が必要としている一回(2本)のダイビングに対する対価 であることが分かった以上、それが少なくて済むお店が相対的にダイビングフィーが安くなる、と言うことの現れである。
では、そういうお店は存在するのか?だが、意外と見つかるものである。
・ダイビング「専業」でないショップ
大瀬崎はダイビングのメッカであるが、海水浴場も備えている。盛夏の時期には、泊まりで海水浴、と言う客を拾うことがある、旅館併設のダイビングショップは、旅館を兼ねていないショップよりはリーズナブルである。また、佐津の香住DSは、冬場のカニがメインの
温泉宿から派生したショップであり(夏場の海水浴客を拾う点では大瀬と同じ)、宿の施設をショップに転用することで費用もかけていないこともあって、安く利用できている。
・競合が林立するエリアで見つける
どんな場所でも料金が異様に安いところを見つけることもある。客足が遠のいているところや、ちょっとメインの場所から離れているところ、新規オープンで客を取り込まないといけないところなどは利益は二の次。うまくガイドできれば、客が付いてくれる。それを狙った
廉価販売を捕らえるというのもひとつの手である。
・リピーター育成に躍起になっているショップ
以前のコラムでも、「ショップ側も身銭を切る覚悟は無いとこの先存続は難しい」と書いたことがある。また、本数潜ってもらうことが正しい知識の蓄積につながる、と主張しているショップもある。こういうところは、当然のことながら、諸経費そっちのけで薄利多売を旨としている。
もしそういう都市型がおそばにあったら、それはそれで「よくできたショップ」といっても過言ではない。
・スケールメリットを享受できるショップ
既に紹介した「マリンハウスシーサー」の2ポート価格は、単に乗船料だけを取ってみても、異様といえる安さである(那覇−慶良間は単純に40分近くかかった。船も大きいので燃料代も半端ないはず。それでも会社がうまく行っているのは、そういうことなのだろう)。
一度に数十人乗り込めるのなら、経費を頭割りしても、あの価格で利益が取れる。そういうお店が見つかるとほかに行きづらくなる。
・多人数で運営していないショップ
それほど規模が大きくないのに10人程度の職員がいるショップは、その人たちの食い扶持をダイビングフィーで支えていると解釈したほうが無難である。現地サービスなら3人程度まで。それ以上になると確実に人件費が大きくのしかかってくる。
(5)料金の理想像を描く
ダイビングフィーそのものは、店が自由に設定できるものである。既に書いたが、2ボート10000円強(税別)でいけるところも探せば見つかるのである。
総額で考えたときに、このトータルで安く感じる料金を提示したからといって、ガイドがむちゃくちゃだったり、安全意識がおろそかだったり、という、典型的な「安かろう悪かろう」と言うショップに出会ったことは今まで無い。
むしろ、そこそこの料金を出しながら、あんまりだった記憶のあるショップが思い出されるほどであり、料金の高低でショップの優劣を決めることは早計である。
では、ダイビングフィーのあるべき姿とはどういうものだろうか?
1.赤字はダメだが、暴利もお断り
経営者として「損してまで運営する」ことは避けるべきであり、寿命を縮めているだけに他ならない。かといって、利益を乗せすぎるのもいかがなものか、と思う。
2.閑散期/繁忙期の価格変更ができないショップがまだある
いつでも同じ価格で、カッコをつけているのだろうが、いまやパックツアーでも閑散期は激安価格で同じ内容で行けたりする。黙って客が来るときに上乗せ、は基本。
3.「○○割」は導入するべし
「早期予約割引」「団体割」「U−25割」・・・。理由は何でもいい。ぶっちゃけウェルカムドリンク程度でもいいだろう。何かしらのサービスがあると心が揺らぐ人がでてきてもおかしくない。
4.今の限界価格は2ビーチ10500円/2ボート15000円(税別)
まずビーチはガイドの体ひとつだけ。ガイディング2本6000円のうち、店が半分とすると、時給換算で考えても大いに妥当。まあ、マンツーマンなら大赤ですがww実入りが無いよりはマシ。ボートは、さすがに燃料代の高騰もあるのでこれを下回ることは難しいと見る。
5.価格だけがすべてではない!!
ここまで料金面ばかりを強調してきたが、結局は「安くても満足度が高くないとリピーターにはならない」と言うこと。そこは大事である。一度白浜でほぼ放置にさせられたところとは、時期が繁忙期であったにせよ、「もうコネーよ」な唯一のサービスだ。
結論としては、「適正な価格ですばらしいガイドができているお店がベスト」と言うことになる。先ほども書いたが、あえて赤字になるような運営をしてまで客を取らないといけないということは、かえって客が不安になってしまう。もちろん理由がわかっての低価格なら、
安心して通うこともできる。現地サービスを渡り歩いている小生としては、2ビーチ総額12000円越えは「正直高いな」と思わずにはいられない金額である。だが、高い=ダメ、と一刀両断できるものでもない。価値に見合うものがあればそれでいいのだ。
利用者サイドからの料金論は、正直無謀でもあるように思う。だが、いったんカードを取ったあとにかかる費用は実質これだけなのである。確かにもっとスキルを磨いて、セルフダイビングへ突き進む、と言う選択肢もあるが(ガイド無しなので一気に安くなる)、
ほとんどのユーザーが抱える、そして一番の課題はこのダイビングフィーの問題である。今回はここまで。