円盤発売記念
  「君の名は。」を深掘る
(12) 「てのひらの文字」の役割

クライマックスに至る直前。我々は、あえるはずのない、同い年の彼らがご神体のクレーターの一角で、一方はうれしさから泣きじゃくり、一方は、逢えた喜びから微笑む姿を見て、「ああ、これで何とかなる」と安堵しつつも、その感動的な実体を備えた"再会"に涙するのである。

だが、本当の涙腺崩壊ポイントはここではない。

  「目が覚めてもお互い忘れないようにさ」俺はポケットからサインペンを取り出す。(p.203)
そして瀧は「たき」とかかずに「すきだ」と書くわけだが(おいおい、三葉も確認しておけよなwwwwア、ソウイウツッコミハナシデスカ、ソウデスカ)、ペンを渡された三葉は、
  花が咲くみたいに、三葉がぱっと笑顔になる。俺の右手を持ち、ペン先をつける。(p.203)

そして手には「みつは」とはかかれずに夜になり、三葉との邂逅は幕を閉じる。

この物語が時空を超えたラブストーリーとして成立するためには、「過去から未来への意識の移譲/記憶の継承」は、行ってはいけないものである。それは「未来が作られていないものだから」である。未来である2016年の瀧が現在である2013年の三葉に文字をかけたり、もらった組紐を渡しているというのは、理論上不可能ではない(もちろんあくまで理論上であり、現実にできるかどうかは問題ではない)。「タイムスクープハンター」(NHK/要潤の当たり役?)が過去の事象に干渉せずに取材をしている体で番組が進められるのもこうした配慮によるところが大きい。

ではあの局面、三葉は、本当は何と書こうとしていたのか?
小説では「手のひらには、書きかけの細い線が一本だけ短く引かれている。」(p.204)という記述があるのだが、画面上は、かなり長めの線がかかれている。何度もみて確認したが、これは間違いないところだ。

二人は、油性ペンを使って、身体をメッセージボードかなんかと勘違いしているかのようにお互いの体に落書きしすぎである。そもそもは、入れ替わり初日に三葉が瀧の手のひらに「みつは」と書いたのがきっかけなわけだが(これが書けるのは実はちょっとした矛盾をはらんでいるが、物語の構成上仕方のない演出でもある)、瀧の体(左腕まるまる一本使うか、普通)に極太マジック(画面上は赤でしたな)で書くは、「前前前世」が流れている画面上では、お互いの「顔」にまで落書きし始める始末。

そして何よりも、瀧に自分の名前を知らせる最初に書いた文字がひらがなの「みつは」である。わざわざ、「お前は誰だ?」のノートをフラッシュバックさせておいてから、三葉の筆跡で書いている。その時なぜ執拗にアップにしておいたのか…それはただ単に「書きました」ではなく、すごい伏線だからである。
あの時の彼女の筆跡から考えて、みつはの「み」の一画目、とするには明らかに長い。そして、何度も見て気が付いたのが「書きだした場所」である。いくら男の瀧の手のひらに書くとはいえ「みつは」の一文字目の書き出しとするには、あまりにバランスが悪い。三葉の「三」の一画目?画数の多い漢字にする意味は考えにくい。実際瀧は漢字で書かず、全てひらがなにしている(たきなら二文字なのにあえてこれを書いたところが当方の涙腺崩壊ポイントだったりする)。


では当方の結論を書かせていただく。

 三葉も「すき(スキ)」と書きたかったに違いない!!!!

「ええ、名前書いておこうぜって言ったのを聞いたんだから、名前に決まってるじゃん、なんで感情になるんだよ」

そういう意見も取りざたされるのはわかっている。
しかし、だ・・・・・・・
彼女も気が付いていたはずだ。「名前よりも大事なものがある」ことに。

彼らは、それまでお互い、異性との交流のほぼない生活をしていく中で、都会にあこがれる女子高校生が都会育ちの男子高校生と入れ替わりのつかの間の青春を演じる。意見として表明したことがお互いなかった中で、もし再び会えるのなら、その時必要なのは、名前ではなく、「気持ち」だったのだ。だから瀧は名前を書かずにストレートに気持ちをぶつけたのだ。
「名前書いとこうぜ」といったのは、単なる照れ隠し。名前よりも伝えたい気持ちの方が先走ってしまい、書いてから「あ、やべ。すきだって書いちゃった。ここは名前を書いた体にしておくか」となるので、ああ言ったのだ。
画面上でも、さらさらと手のひらに書いてから「名前書いとこうぜ」と言っている。瀧の気持ちを想像してみたわけだが、これでほぼ間違いなかろう。

二人はあれだけの熱情を帯びたお互いがお互いを求めあうかのような恋愛をしていると認識している。画面上ではそう言った意見の発露が全くない。ところが…「言おうと思ったんだ」からの瀧の独白/三葉が右手を握りしめ泣く姿は彼らになってしまったかのような錯覚すら覚えさせてしまう。

彼らは確かに名前は忘れる。いや、覚えておくことは時間の流れがそれを許さない。だが、二人の間に流れた感情というものは時の流れであっても止めることはできない。名前を忘れる/知らなくても、「二人は会えば、絶対にわかる」。
そう考えると、三葉は、瀧が忽然と姿を消した(元の時間軸に戻った)直後、どういった感情を爆発させていたのかは知りたいところである。ただ彼女も書きたかったのは瀧に対する気持ち・・・「すき」あるいはカタカナの「スキ」という二文字だとするのは考え過ぎだろうか?

            い や、絶 対 そ う だ と 確 信 す る。
解析結果:
「名前書いておこうぜ」に対する瀧の描いた文字は「すきだ」。三葉が書こうとしていた文字も、瀧の描いたそれと同じ意味の言葉だろうと思う。もしかするとカタカナの「スキ」かもしれないが、ひらがな「すき」でもあり得る。もちろん「みつは」のみの書き出しの位置も横棒の長さも釣り合わないので、彼女が自分の名前を書こうとしたとは考えられない。