円盤発売記念
  「君の名は。」を深掘る
(16) 三葉の「眼」が映した矛盾

2013年10月4日 午後8時42分。

阪神淡路大震災の発災時刻も当方は覚えてしまっているわけだが、この日付・時間も当方が生きている間忘れることは無いと断言できる。
飛騨地方の山間の集落・糸守町にティアマト彗星の破片が隕石となって落下し、町の大半が破壊されるという前代未聞の大災害。死者を出さずに済んだことが功績とされた出来事だった。

「君の名は。」における、この隕石落下のイベントは、歴史的事実として存在したままにしてある。実際、飛騨探訪時の資料一式は、事故が起こったことをありのままに伝えている。
もちろん、町民の1/3が死ぬということを提示していたわけだが、最終的に彼らは死なないことになる。

とはいえ、どこかに齟齬があるのではないか…ちゃんとした歴史の事実はどこにあるのか…
そこにたどり着くときに、ひとつの描写が気になった。
2013年10月4日の「彗星が落下する直前」の三葉の瞳である。

仲良し2人組と天体ショーを見入っているときには、彗星が二つに割れていることを認めてはいるものの、それがよもや自分の近傍に落ちることなど想定もしないままでいる三葉が描かれている。そして、そこには、二つに割れた彗星の残像がくっきりと残っている。しかも、彗星が割れてから落下を示す暗転までの画面上の時間はほぼ10秒程度。だが、その時点では、落下に必要な時間はたっぷり残されている。
彗星が二つに割れた時間は、落下のほぼ1時間ほど前。ニュース映像では、19:50には割れていることが明らかになっている(後に発売された円盤では、避難誘導開始が1時間前とされるので、若干余分な時間が必要、ということで、19:20に割れたこと、に変更になっている)。
そして口噛み酒トリップ中の三葉の最後を示すシーン。これは実に興味深い。破片は一つではなかったのだ。町のあちこちに落ちていく破片たち。三葉の目の前には、まるで本体である彗星が落ちてくるかのような迫力で迫ってくるのである。神社付近・宮水家近傍)が本来の落下地点であるのに原っぱにいる三葉の真上にやってくる・それも比較的ゆっくりのスピードで迫り来る、という表現がふさわしい。

うはっっっっ
二つも描写されているのだ。一つの物理現象であるのに・・・
特に三葉の真上に落下してくるように書かれている隕石の正体は、彗星本体ではないか、とさえ思う。おかしい。

仮説:
オープニングでも、ラストの激突シーンでも、彗星の破片は「赤く」描かれている。赤くない破片の描写はこのストーリー上間違っている。つまり、口噛み酒トリップで紡がれた三葉の記憶は明らかに三葉の中の妄想か、きっちり覚えていないことが具現化しただけにとどまる。

実のところを言うと、初見の時点から、この「落ちてくる物体の相違点」は気になって仕方がなかった。特にあえて「赤く」表記した、落下してくる彗星の破片をことさらに強調して描いた序盤の書き方は、口噛み酒トリップでの「三葉の間違った記憶」を浮きだたせるための「前振り」なのではないか、との考えだ。当初は「ウワ、書き間違っているよ」なんて思ったりもしたものだが、あの描写は確信犯的であり、わざと間違って表現したのだ。

我々は、すでに2度、「隕石は落ちてくる」と思いこまされている(初見では、大災害を想起もさせない描写なのでこれはこれで困るところだが)。そして、口噛み酒トリップでも、「落ちてくるんだから仕方ない」と思わせつつ、大きな矛盾を内包させながら知らん顔をしてそのまま通り過ぎさせる。落下する場所も物体も、正解からはかけ離れている口噛み酒トリップの表現。これがあるからこそ、「三葉は本当は死んでいないのではないか」と考えられる一つの現象としてとらえることができたのである。

解析結果(自信あり):
口噛み酒トリップでの隕石落下シーンが現実と矛盾している。一つの物理現象に対して起きる結果が二つあるのはどう考えてもおかしい。このことから、三葉の死そのものがあったと考えにくくなる状況を想起させる。