円盤発売記念
  「君の名は。」を深掘る
(20) 総 集 編

名作には、とことんまで付き合う。一種のポリシーでもあるし、解析厨と自身で言い放てるほど、深く追及する姿勢をこの作品でとりもどした。私の文筆活動が思いっきりプラスに転じたきっかけを戴いたことにも、新海氏には感謝してもし足りないところだ。

スクリーンに対峙すること30回オーバー。実際のところ、「映像からでしか答えは見つからない」からこそ、スクリーンに座り続けたといっても過言ではない。すでに「何度見ても発見がある」と言ったのは大げさでも何でもない。

すでに円盤は発売され、いつでも「おかしな部分」にはアプローチできる。であるからこそ、結論をそろそろ出さないといけない時間帯に入ったと思っている。
何より、一番おかしいと言ってもいい、「夢を見とるな」で囲まれた部分の記述をどう解釈するかを披露することで、このストーリーが恐ろしく練られたものであることに今更ながら気が付くのである。

さて、「夢を見とるな」と一葉に問いかけられた時点の部分もすでに解析を終えている。しかし、ここからの瀧の日常は、いろいろとおかしなことだらけである(下線で示してある)。
1.10月3日のはずなのに、まるで学校は休みかのように10時過ぎに飛び起きる。
2.奥寺先輩のLINEを受け取る。三葉が翌日にデートを申し込んでいたことに気が付く。
3.家を飛び出す瀧。だが、扉の開き方が違う
4.明らかに休日っぽい四ツ谷駅前
5.「郷愁」写真展で、突然奥寺先輩がカーディガンを羽織る。セカンドバッグには入っている感じなし。
6.瀧、先輩と別れて三葉に連絡を入れる。もちろんつながらない
7.入れ替わりがなくなったことに気が付く瀧は、写真展で見た実物を探索せず、スケッチを描き起こす
8.授業中は、周囲と全く違う行動をしている。周りがノートを取っているときにはぼぅっと外を見たり。
9.高木と司とも距離を置き始める。
10.いよいよ飛騨探訪。だが、日程はともかく、出発時刻を指定・漏らしていないにもかかわらず司・奥寺先輩までもが瀧を待ち伏せ、飛騨探訪に同行する
11.新幹線車内の描写が全くの逆
12.新幹線車内アナウンスが、通り過ぎている品川/新横浜を案内している
13.名古屋駅。地下通路を9時台(それもかなり早い段階)に通過。11番線の出発案内に9:24発の中津川行の表示が認められるので、少なくとも9:20頃に通過しているのは間違いない。
だが乗ったワイドビューひだは10時台の列車
14.名古屋駅。9:46発の中津川行は金曜日なのに土日ダイヤの10番線から発車している
15.「ワイドビューひだ」車内。味噌カツ弁当の日付がありえない(15.10.9)※DVD/BDでは旅行日である16.10.21に修正される
16.飛騨古川駅。本来入線しない番線で客扱い
17.飛騨古川駅。排気ガスの出口は逆側。あの煙突状のものはマフラーではない(あの突起は、信号炎管)
18.飛騨古川駅。着ぐるみは常駐しておらず、当然動かない
19.スケッチを手に糸守捜索。だが、至近の特徴的な地形のはずなのに誰も言い当てられない
20.ラーメン店吉野。瀧だけなぜかTシャツでラーメンを食べている。
21.ラーメン店吉野。バックに流れる野球中継。応援があったことから国内の試合と断定。だが10/21金曜日に試合の設定はない(日本シリーズ自体が金曜日に試合を行わない)
22.アプリを開くまで保持されていた三葉の書いた記録。文字化けし、消えていくはずがない
23.古川図書館。検索画面が嘘サイト(cwf-search.jp?様の記載)
24.目録類の大仰ぶり/ページ数の多さ。
25.勅使河原と名取の並び=隣どおしって…
26.さやかの名前の表記。早耶香ではなく紗耶香と表記。公式資料なのに誤字はあり得ない。※DVD/BDでは、誤字は修正される。
27.「つい2,3週間か前に、「彗星が見えるね」ってこいつは俺に言ったんです。だから…」ここで一葉の問いかけ。「俺は…何を?」

よくもまあ、これだけ「間違い探し」をあの時間帯にぶち込んでくれたものだ。ここだから言うけど、私、大の間違い探し好き。しかし、だからこそ、私は声を大にして言える。

結論:
一葉の「夢を見とるな」で囲まれた部分は間違いなく瀧が起きながらにして夢を見ている時間帯。描写のあまりにもいい加減ぶりや周りの無関心ぶり、矛盾点がこれほど多いのは明らかに異常。

解析厨の諸氏は、「ウワ、間違っているよ」という指摘ばかり。例えば立花家の扉(3)や、新幹線の座席配置の妙(11)は有名なところだが、もし瀧の夢の中の出来事で、あやふやに書かれたとするならば、全て納得のいく回答が得られる。
新幹線の車内も、列車の描写にまで定評のある氏が「逆に描いちゃったね、テヘペロ」なんて言うイージーミスを犯すとは思えない。列車絡みの記述もおかしなところだらけ。もちろん普通に鑑賞している分には、11~18の内容は、気が付きにくい。それであるがゆえに、「ほらほら、間違えて書いてますよ」とドヤ顔で我々に挑戦をしかける監督氏の顔が目に浮かぶ。

では本当に夢だったのか…
私はここで廃墟の糸守高校のシーンに立ち返る。あのとき、瀧は、司たちに説明しようと日記アプリを開こうとした。だが、その刹那、文字化けして消えていく日記たち。本来なら(三葉の生死関係なく)残っていてはおかしい日記。それがあのときまで残っていた…
これで私は確信した。アプリを開くまでもなく、本当は消滅していたはずだった。それが都合よく残っていた。そしてこれ見よがしに、瀧に消失を見せつける。あんな消え方をするのは、夢の中の出来事だと解釈できるのだ。瀧が意外に感情を表に出さず「消えてく…」とぼそっと言っただけにとどまっているのも怪しい。

でも我々の目には、「すべて現実に起こっていること」としか思えない。特にラーメン屋の親父という第三者がからんでいることは、夢と思わせるには少し力技すぎる。10/22にご神体のふもとまで送ってくれたこともあるので、前日の白昼夢で出会った、とするのも難しいし、連絡先を知っていることから実際に出会っていることも疑いようがない。
だが…ラーメン店店主には糸守出身という"ムスビ"が存在する。瀧と店主がムスバレテいると何が起こるのか…それはムスバレテいない町の人々がスケッチに無関心すぎるところからも明らかである。糸守を知っているのみならず、スケッチに心をひかれ、ムスビつく。この結果、瀧のゾーンに店主も入り込んだとすると、無理やりのような瀧の夢の中に登場する人物という意識が出てくる。

苦しい説明なのは百も承知である。だが、それまでの瀧とその周りの描写は矛盾だらけで整合性の取れない事柄ばかり。これが練り込まれたことで、何が起こったのかというと、あのデートからの中盤、見れば見るほど深みにはまるかのような記述が軒を連ね、遂には、本当に夢を見て突如現実に引き戻されたかのような、「俺は…何を…」という嘆息をも導き出すのである。

実際、このストーリーの中で、意味や発言の趣旨がつかめない言葉は意外に少ない。だが、このときの瀧の発言は、唐突過ぎるし、のちのシーンともつながらない。シークエンスとして独立した、一種の「切った」発言とするのが妥当であり、であるからこそ、それまでの行動すべてが現実と違うものという見方もできる、ということである。
その中に三葉の二つに割れた彗星の残像が含まれている。これも夢と見ることもできるし、一方同じ物理現象であるのにまったく違う書かれ方をした口噛み酒トリップ内の三葉が隕石(というより彗星本体?)に直撃を食らうかのような描写も間違っている。最後に宮水家近傍に落下した隕石の引き起こした災害が「正解」であり、それがすべてである。

当初の私は、「瀧にタイムワープする能力が備わった」という幼稚な結論で解析を進めていた。だがそれも回数見ていくことで間違いに気づかされる。二人が入れ替わることになったのは確かに原因は不明だが、彼らがムスビツイテいたからに他ならない。そしてそれを具現化したのが、2013.10.3の組紐の受け渡し、とした。
3年間のタイムラグ。本人たちがそこに気が付くのは、瀧が自らでご神体を訪問したとき。それまで一切の矛盾を感じずにいられたのは、夢と現実/翌日には現実に戻っているというずぅっと入れ替わったままでないところが影響していたと思われる。

彼らには、本当なら強烈に覚えていてもおかしくない、それまでの入れ替わりや隕石災害で人的被害を回避させる立役者的存在になったことすら記憶から消えている。もちろん、お互いがお互いを求めあうかのような熱情を帯びた恋愛に発展していたことも。喪失、記憶の忘却がこの作品のテーマにあるから、過去を思い出したり、そう言った恋愛をできなかった層にも強くメッセージとして届いたんだと思う。そうでなければ、ほぼ全世代を巻き込んだといえる1900万人超の観客動員は説明のしようがない。

草稿段階から含めて、ブログに上梓した解析記事は、実に80タイトル近くに及ぶ。それでも完全に丸裸にできた、とは思っていない。ぶっちゃけ7割くらいしか読み解けていないと考えている。しかも自身の中でまとまったというレベルであり、原作者たる新海氏と意見が同一な部分ってほぼないのではないか、とさえ思う。
それでもここまで一タイトルに関われたこと・解析できたことは自身の文筆活動に新たな一石を投じてくれたことは間違いない。