第3回:主体性のない首相
 何度目かを迎える党首討論。イギリスのものに範を取ったといわれているが、その内容はいつ見てもお粗末極まりないものである。それは攻める側の野党のだらしなさと、受ける側の与党(政府/首相)ののらりくらり度によるところが大きい。
 2月12日に行われた、民主党の管代表と、小泉首相のやり取りは、その典型的なものといっても過言ではないだろう。

 ただ、今日の管氏は、論点をずらすことなく、また想定問答がぴったりはまったかのような攻めぶりを発揮していたのが目にとまった。それだから、余計に首相の、「はっきりものを言っている」という言葉がむなしく聞こえるかのような答弁が多く感じられたのである。
 はっきりものを言っている、という人が、イラク問題を聞かれて、「査察結果が出るまで態度を表明しない」とか、北朝鮮問題に至っては、「粘り強く」とまだ言っている。言ってはまずい問題があることを承知の上で私も書くが、今回の答弁は、単なる「オウム返し」としか受け取れない内容である。そもそもイラク問題に関しては、日本だからこそ力強く発言すべきであり(もちろん、平和裏な解決/査察延長で国連の手続きを踏む)、「査察結果がどうあれ動く」といっていて、かなり準備を進めているアメリカを諌めるなり、会議のテーブルにつかせるなりの「目に見える行動」をすべきなのである。又、それができるのはもはや日本以外には考えられないのである。ところが、いつまでたってもこの問題については「態度保留」。武力行使に賛成とも反対ともしめしていない。当然、外交ルートを使ってアメリカ側に何らかのメッセージを発したとか、電話でブッシュ氏に直接話したといったことも聞こえてこない。「うちも内情ヤバイから、勝手にやったら」と、全く無関心を装っているかのようである。
 北朝鮮の問題についても依然進展が見られない。拉致されたとされる被害者は増える一方。それも今ほど治安の乱れた時期ではなく、高度成長期の安定した時期にその大多数が行方不明になっている。ここまで規模が大きくなると、今までのような、ボランティア的な人たちで運営することはほぼ困難である。「もっと早くからこの運動が起こっていれば」と思わずにはいられないが、この件に関しても政府はほぼ知らん振り。「あ、増えたの」程度の認識しかないものと思われる。というのも、拉致された5人が帰ってきたことだけで精一杯になっている政府/外務省が、その数十倍に及ぶ被害者全員にフォローすることは物理的に可能でも、「できるわけがない」からである。だから政府としては自分達が認定したものだけが「被害者」だと言い放つのである。

 自国がテロの標的に合うことはほぼ皆無と決めてかかり、行方不明者もろくに調査できず、「石油の値段が上がるくらいが影響だろう」と戦争を軽視しているかのような首相。確かに不況時にビッグな経済施策もないくせに未だに過半数の支持を得られていることそのものが奇跡に近いのだが、対外的にはほとんど信頼を得られていないのは明らかである。つまり、日本も世界の中の一員である、ということの配慮が欠けているかのような行動が多すぎるのである。そんな人が、北朝鮮に、「世界の一員になって利益を享受したほうが得である」と説教したって聴いてくれるはずがない。
 それに比べて、他の国の首相は良しにつけ悪しきにつけ立派である。国民から嫌われてでも「米英は一致団結」と早くから意思統一を図ってきたブレア首相も、「時期尚早」とこれも早くから武力行使に嫌悪感を抱いていたシラクさんも、それはそれでちゃあんと意見を言っている。「はっきりものを言っている」人がこの程度では、主体性のない、ただのお飾りか、と思えてしまう。
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