第11回:無節操な施策
「改革」を旗印に、ある種の主導力を示しながら、それでも抵抗勢力の顔色をうかがいながら、進めてきた小泉内閣。彼が首相になってからの2年余りを振り返っても、何か実のある改革なり、成果の上がったことがあるかな、と思い返したのだが、本当に思い浮かばないのである。既に世の評論家諸氏が同じような意見を述べられていると思うので、敢えてここではこのことについて言及しようとは思わない。しかし、改革とは名ばかりの、場当たり的なお役所仕事を立て続けに見せられて、私もとうとう一言いいたくなってきた。一つは、北朝鮮の貨客船・万景峰号の寄港問題、そしてもうひとつは銀行への巨額の資本投下である。
今回、この貨客船が寄港できなくなった表向きの理由は、新潟で仕入れるはずの帰り(もう少し正確に言えば、新潟−北朝鮮間往復分)の燃料が買えなくなったことが原因と伝えられている。もちろん、警察をはじめ、外務/国土交通など、関係省庁がそれこそ重箱の隅をつつくかのように徹底的な立ち入り検査を行われることを嫌った北側が出航自体を断念したのが本当のところだろう。
しかし、この船が、公式的に訪問している、「開かれた工作船」であるという風に考えるヒトが、政府のお偉いさんの中に誰一人いない、少なくとも、拉致問題が表面化し始めた90年代中盤ですら誰も疑念の声をあげていないというのは、いかに、島国・ニッポンが海外事情に疎いのかを浮き彫りにする結果になってしまっている。これまで、スパイ活動の温床/不正送金・精密機器の密輸/下手すると覚せい剤の陸揚げ基地になっていた可能性すらある、この船を、大々的に調べたことがないこと自体、日本の危機管理がいかに脆弱かを物語るものである。
そして今回の強力査察に、早速北側も反撃。「破滅的な結果」という中傷的ながら恫喝するようなそぶりを見せている。言い方に違いはあるけれど、北側の言い分も最もである。今まで何のおとがめも、仰々しい検査もなくやってこられたのにいきなりの変化。戸惑いがあってしかるべきである。何故今になって、という思いは、北側のみならず、日本側からも噴出していることは想像に難くない。
そして、「りそな」への資本注入である。最も最後に合併した、旧大和銀行と旧あさひ銀行。この取り合わせだけでも「あ、やばいかも」を想起させるのに十分である。旧あさひは、協和銀と埼玉銀が合併して出来たもの。大和は大阪では老舗クラスの銀行ではあるが、ニューヨークを舞台にした巨額の架空取引で一躍悪名をとどろかせた。これを機に大和は「リージョナル銀行」、つまり地域密着型経営に転換せざるを得なくなり、経営体質基盤も弱まっていた。
今回の直接の資本注入という結果に陥った背景には、会計制度の解釈の差が出ている。私も専門家ではないので出てくる単語を追いかけるだけで精一杯だが、「繰り延べ税金資産」の算定方法で監査法人との間で見解の相違があったらしいのである。この結果、多目に見積もった監査法人と、厳格に計算した監査法人との間で格差が生じ、厳格に計算した監査法人が財務省に告発して、りそなの経営危機が判明したのである。
財務省に進言した監査法人は、本当に「仕事をした」わけで、責められる筋合いではない。むしろ、そのことを隠そうとした旧経営陣やその言葉に翻弄される形で責務を全うしなかった監査法人は金融危機を起こしかねなかった張本人として罰せられてしかるべきであろう。そして、それにもまして、銀行の経営体質を見極められず、3度も資本注入しなくてはならなかった財務省と国は、この事態をどう受け止めているのか?「金融危機を起こす前に手を打った」と大見得を切る首相のリーダーシップとは、どれほどのものなのか、またしても疑問符がつく。
いつでもその場凌ぎ、いつでも出たとこ勝負。こんな簡単に国が治まると本気で思っているのだろうか?確実に、日本に崩落(ジャパン・クラッシュ)のときが刻一刻と迫っているような気がしてならない。
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