第8回  急に「ウン」と言ったのはなぜ?
 バブル崩壊は、幾多の企業の歩みを狂わせてきた。「土地本位主義」を地で行き、店舗のスクラップ&ビルドはほとんど行わず、拡大路線をまい進していたダイエーもご多分に漏れず巨額の不良債権を抱えてしまう。もしどこかでブレーキがかかっていたら、と思わずにはいられないが、後の祭りである。創業者でもある、中内功氏(人名は正確に、がモットーなので、注釈を。功氏の「功」は、「力」ではなく、「刀」。当用漢字にないためあえてこの字(功)を使うマスコミも多い。私も外字でやってしまうと訳がわからなくなるのでこの字を使わせていただく)の『売り上げはすべてを癒す』と言う言葉がすべてを物語っている。

 中内氏を始めとする幹部連中は、「土地は値下がりする」と言うことはまったく考えに入れていなかったと思うし、もちろん大不況も起こらないと考えていたに違いない。しかし、それらの、当時としては考えられないことが次々に起こった。しかも悪いことに、拡大規模をMAXにした直後の95年に、阪神大震災で創業の地が大打撃を受け、数百億の店舗損失損を計上せざるを得なくなった。ここらあたりからダイエーに吹く風は逆風ばかりとなっていく。有利子負債はグループの売上高に匹敵するまでに膨張し、営業力の回復もほとんど進まない中、借金だけが増えていく最悪のパターン。新業態もことごとく失敗し、抜き差しならない状況に追い込まれていく。度重なる借金の棒引き提案。具体的には再生ファンドへの出資やそのものずばりの債権放棄。銀行はそれぞれに応じた。それは、「倒れられるとこっちも大迷惑」だからである。何しろ、どちらも体力を大幅に上回る貸し借りをしてしまっていたのである。

 しかし、世の中の不良債権の一括処理を目的に設立された、「産業再生機構」にとって見れば、一部上場で、借金にあえいではいるものの、日銭が稼げるスーパーのダイエーの機構入り→立て直しは願ってもないチャンスと映っただろう。それまでにもいろいろな会社の建て直し(最近ではカネボウの例)を手がけようとしている機構側。小粒な案件ばかりで巨大なターゲットに触手を張り巡らせていた。ところが「自立」を目指すダイエー側は、球団保有が、機構入りで不可能になるのではないか、というところに固執するあまり、回答を先送りしてしまう。両者のつばぜり合いは、今年に入って何度となく繰り返され、そのたびに、ダイエー側は、機構の支援を拒否する態度を貫き通してきた。そして、中間決算を前に、銀行側が、「機構入りしないと融資を引き上げる」と恫喝、結局それで折れてしまったことになる。

 私は、ダイエーという企業は、決して「官」には折れない、気概を持っていると信じてきた。阪神大震災当時、対応の遅い政府を痛烈に批判、当時グループ企業だったローソンの各オーナーには、「電気を絶対切らせるな」と号令、全国チェーンのスーパー、それも創業の地での惨事に一丸となって立ち上がり、マスメリットを利用して大量の救援物資を送りつけてきた。ヘリコプターで当時のオーナー自らおにぎりをもって被災地入りするなど、「さすが」と思わせる部分が多く見られた。しかし、今の店舗はどうだろうか?すでに社員は主力組は震災以後に入ってきている面々ばかり。危機感いっぱいで仕事している人がどれほどいるか、微妙である。
 最盛期には400店舗近くあったダイエーも今ではその6割に減少。今回の機構入りで、店舗の閉鎖は加速がつくことも予想され、又あるいは食品スーパーの一部はグループ企業のマルエツに譲渡される可能性もある。機構側が考える再生プランが一向に見えない現在、果たして、今までそっぽを向いていた同士が急に仲直りしたところで、どれほどの効果が期待できるのか。そして、シンパとしてずっと見続けてきたこの巨大スーパーの行く末を案じずには居られない。
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