第9回 昨今の話題の人物 その一
今、良くも悪くも話題になっている人物が二人いる。ひとりは、「韓(はん)流」ドラマを日本に定着させたのみならず、日本中の中年女性をとりこにしたペ・ヨンジュン氏であり、もうひとりは歯に衣着せぬ物言いで世間を圧倒、占い師という肩書きより六星占術を駆使した人生相談がメインになりつつある細木数子氏である。
もう報道などで食傷気味の観がある半面、第三者的な見方をすれば、どちらの現象も不可解極まりない出来事なのである。まずは、けが人まで出してしまった前者の方の例を見てみたい。
いまや押しも押されぬ「日本での」大スターになってしまったヨンジュン氏。すでに承知のとおり、韓国本国での人気はそれほどでもない。しかし、「冬のソナタ」というドラマでの好演、そして「笑顔の貴公子」という、韓国でのあだなそのままのさわやかな笑顔が、ワンクールドラマに飽き飽きし、さほど新鮮味のないストーリー立てにそっぽを向いていた、メロドラマ大好きの中年女性のハートをがっちりとつかんでしまったのである。当初の放送は衛星での細々としたもの。しかし、いったん火がつくと、再放送に当たる昨年年末あたりから一気にヒートアップ。今年夏ごろに放送された地上波での一挙放送でその人気は不動のものになってしまった。
韓国での人気がそうであるように、私は、彼が日本で「様」付けされるほど、崇高で近寄りがたいオーラを放っているとは到底思えない。むしろ、背もそれほど高くなく、ほかの人気とされる韓国俳優から見れば、「何で彼だけが・・・」といぶかっている姿も見て取れる。日本での過熱ぶりは、確かにドラマでの彼の熱演もあるのだろうが、彼に乗っかって一儲けしようとする一部企業と、その戦略にまんまと乗せられている日本人女性の存在がある。すでに韓国が発祥の製菓メーカー・ロッテは、ガムのコマーシャルに彼と、共演したチェ・ジウ氏をキャラクターに採用。ほかにも数社が彼とCM契約を結んでいる。女性向け週刊誌は毎週「ヨン様」で埋め尽くされ、彼をねたにして詐欺事件まで起こる始末。また事務所側も露出を極力抑える戦略をとっているのも渇望感を与えるのに十分だった。
成田にはせ参じたファンの数5000人は、すべての来日スターの記録を塗り替えてしまった。そして事件は翌日の昼過ぎ、メイン行事である、写真展のテープカットに向かう際、ホテルで起こった。数人が将棋倒し状態になって怪我をしたというのである。記者会見場で彼がとった行動は、沈痛な面持ちで、ファンを気遣う謝罪会見だった。
「笑顔」が売りの彼に悲しい顔を見させてしまった日本の熱狂的ファンたち。私は、一言、「恥を知れ!」といいたい。彼が日本に来た本当の目的はこの写真展を成功させるためにあったはずである。一部のファンの節操のない行動ですべてが御破算になってしまったばかりでなく、彼にいらぬ気遣いまでさせてしまっている。みんなが行くから、時代におくれたくないから、ひと目みたいから・・・。理由はともかく、彼の自由な行動を邪魔し、ぶち壊した罪は大きい。もっと秩序ある行動をお願いしたい。
それにしても、あの記者会見は、彼が役者としての格を一気に引き上げた、名会見といえる。にこりともせず、ただ淡々と「自らの不手際」に謝罪するぺ氏。彼のファン思いの性格がにじみ出ているし、仮にそれが演技だったとしても、その迫真の演技で女性のみならず男性からも好感を得ていることは間違いない。大きな目的である、写真展のテープカットやファンとの集いといったことはかなわなかったものの、彼はこの来日で多くのものを持ち帰ったに違いない。
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