第10回 昨今の話題の人物 その二
今、良くも悪くも話題になっている人物が二人いる。ひとりは、「韓(はん)流」ドラマを日本に定着させたのみならず、日本中の中年女性をとりこにしたペ・ヨンジュン氏であり、もうひとりは歯に衣着せぬ物言いで世間を圧倒、占い師という肩書きより六星占術を駆使した人生相談がメインになりつつある細木数子氏である。
前回では、「ぺ様」ブーム(「ヨン様」は変でしょう)での、日本人ファンの馬鹿さぶりを一刀両断したわけだが、この一件も呆れ返るばかりである。
事件は、「ずばり言うわよ!」という、細木氏がメインを務める番組の中で起こった。ゲストの南野陽子さんが、自分が出演し、公開を控えている劇場用映画「ゴースト・ネゴシエーター」について意見を求めたところ、「タイトルを替えなさい。そうしないとヒットしないわよ」といわれたというのである。どう替えたら、という問いに、彼女は「『ゴースト・シャウト』にしなさい」と言い放ったのだ。
実はこの番組、録画ではなかったようなのだ。なんとなれば、放送があった翌日に、製作者サイドが急遽タイトル変更の協議に入っているからである。もし前撮りでこの事実が明らかになっていれば、製作者サイドもあんなふうに慌てふためいてタイトルを変更するところまでは行かないはず。つまり、本当に急に飛び出した話なのである。そして結局彼女のご託宣どおり、タイトルは変更。1000万近くをタイトルやポスターの変更にかけたというのである。
この話を聞いて、私は思ったことが二つある。ひとつは、細木氏の無責任な発言であちこちが振り回されていること、そして、日本映画界が、占い師ごときの言葉を信じてタイトルを変えるという一大失態を演じたことについてである。一時期、「大殺界」理論を引っさげて一躍文壇にデビューし、巨万の富を蓄えた細木氏。ここ数年で再びテレビ出演が急増し、この「ずばり言うわよ!」でも歯に衣着せぬ発言があちこちで物議をかもしている。また、改名という部分では初めてではない。タレントといっていいかどうかわからないが、「おさる」さんは、彼女の占いによって「モンキッキー」に改名した。もちろんこの名の方が仕事が増えるということらしいのだが、ブラウン管での露出度は従前と大して変わっているとは思えない。
すべては占いによる結果。神の思し召し・・・。それで彼女は逃げることができる。こんな楽な商売、できるものなら今すぐにでもしてみたい。確かに「当たっている」部分はあるにしても、占いの結果通りに人生が、生活が、仕事がうまくいくとは思えない。仮に本のいうとおりだとすれば、全世界の人間は数タイプに分類され、分類された人間はどれも同じような軌跡をたどることになってしまう。そんなことは到底ありえない話で、占いの限界でもある。
それにも増してばかげているのは、映画製作に何の関係もない占い師に言われたからといって、映画タイトルを替えるという愚挙を起こしたこの映画の製作担当者たちである。赤の他人に言われたから、そして替えればヒットするからといって、簡単にタイトルを替えるほど、『映画のタイトルってどうでもいい』と彼らが思っていることが信じられないのである。もちろん、私は、こんな製作者サイドが、タイトルをどうでもいいと感じている映画など、見たいとも思わないし、仮に旧タイトルでも見ることはない。わざわざお金までかけて、「話題性になればいい」と言ってはいるが、作品力で勝負せず、こんな小手先のことばかりでお茶を濁しているから、いつまでたっても日本映画は一定のレベルから上が目指せないのである。
もし仮に改名によって、想定していた興行収入より増えていればそれはそれでよかったということになる。しかし、もし、改名が原因でこけようものなら・・・。それ見たことか、と私はほくそえむことになるであろう。まあ、そんなことでヒットするなら、誰も苦労はしないんですけどね・・・。
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