第4回  一太郎、危機一髪!
 パーソナルコンピュータが世に出てきてはや25年余り(当初、「20年余り」とあやふやに書いて、資料を見てびっくり!ちなみに参照したのはこちら)。いろいろなパソコンが現れては消えていった。そんな栄枯盛衰をほぼリアルタイムで見てきている私にとって、ソフトウェアの世代交代もいたし方のない事実として受け止めている。「BASIC」に熱い血を注いでプログラミングしたあの日、「C」に挫折感を覚え、プログラミングから遠のいていった10代後半。そして今では、完全なるアプリケーション利用者としてのみ存在しているに過ぎない。
 しかし、そのアプリケーションにしても、どこからともなく沸いて出てくるわけではない。ちゃんと開発者がいるわけであり、それを作って利益を得ている会社もいる。彼らの存在がなくては、われわれのパソコンライフは行き詰ってしまうことにもなりかねない。そんな状況になりそうな判決が出されて、一部ユーザーの間では動揺が広がっている。

 事の発端は、ソフトウェアとは何の関係もないと思われるところの松下電器が、「一太郎」の開発元であるジャストシステムを訴えたことによるものである。ヘルプ機能をめぐる特許権の侵害が争点のようだがそれが何かというと、『ワープロ・ソフトなどでヘルプ・アイコンを指定し、別のアイコンを指し示すと、そのアイコンの機能の説明を表示するというもの。1989年10月に特許出願し、91年6月に公開された(特開平3-144719)。98年7月に成立している(特許番号2803236)。松下電器は「過去に行った事業の中で取得した特許の一つ。特許は重要な資産と考えており、知財保護の観点から訴訟した」(同社広報)。』(『』内は、日経コンピュータ ITpro ニュース05/02/01より抜粋)。
 ところがこの特許、ワープロ専用機に関して適用されているものだと、ジャストシステム側は言っている(ジャスト側の記者会見の骨子もIT Pro 05/02/01号にて)。しかも、よくよく内容を見てみると、WINDOWSの「バルーン・ヘルプ」のことを言っているようなのである。こうなってくると、日本で売り出されているWindowsソフトのうち、ツールバーがアイコン化されていて、なおかつ「ヘルプ」に当たるボタンがアイコン化されているものは、殆ど、この特許に抵触してしまうことになり、大変なことになってしまう。

 しかし、訴えられたのは、ジャスト社の「一太郎」と「花子」だけ。別にいじめるつもりは松下側にはないだろうが、ややお門違いな訴えのようにも感じられる。何より、一太郎ユーザーに不便を与える可能性が大なのである。判決の内容は、ジャスト側に不利すぎるからである。当該ソフトの販売差し止め/回収などはどう考えても行き過ぎである。ソフトの表示の一部を修正するだけでいいのだから、全ユーザーに修正ファイルを送りつけるだけで事足りるはずで、これから販売されるソフトについてどうこう言うのは変な話である。それにも増して、裁判官側も基本ソフトによる機能なのかどうかの見極めができていないといわざるを得ず、しかも約7年前の特許が動作していた時期と現在とでは何もかもが異なっているコンピュータ業界において、特許自体が有効なのかどうかもきっちり審理していただきたいものである。

 私は、「一太郎」には殆どお世話になっていない。98を使っていた時代にも、「ハードディスクに頼るソフトは要らない」とばかりに、フロッピーベースで動くソフトばかりをチョイスして使っていた。今でこそ、ソフト自体がすべて肥大化してしまい、ハードディスク無しでは済まされなくなってきているが、一太郎は、その98と命運を共にしようとしていた時期すらあった。98に依存し、Windowsに乗り遅れて国内シェアを減らし、さらにバグフィックス目的のバージョンアップばかりが目だった時期もあり、急速にユーザー離れを起こしてしまった。その間にバンドルソフトの定番の座まで追われ、店頭で指南書が軒を連ねることもなくなってしまった。そこへ追い討ちをかける今回の訴訟。仮に控訴して裁判が長引くことになれば(おそらく最高裁まで行くだろう。想定係争年月:2〜3年)、ソフトだけでなく、会社の存亡までかかってくる一大事になりかねない。
 「一太郎の危機」は、「ジャパン・オリジナルワープロソフトの危機」と読み替えてもいいだろう。和解にせよなんにせよ、早期の解決が望まれる案件である。
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