第6回  「想定の範囲内」なんですか?すべて…。
 「ホリエモン」ことライブドア社長・堀江隆文氏の、最近の発言がどうも胡散臭いのである。
 ことあるごとに「予想していた」とか「想定の範囲内」とか、「考えられる手段」などなど、相手の手の内を見透かしたような発言ばかりなのである。
 以前の、プロ野球球団設立のときには、このような、相手を小ばかにしたような発言は殆ど見受けられなかった。そもそも、9月の時点で、楽天が名乗りを上げたときも、「早い者勝ちでしょ、(相手企業の)事業規模とかはともかくとして」と、本人が思っていたことは想像に難くない。自信の表れが、彼の場合、行動に出てしまう。渦中の三木谷氏が同じ放送局に入ると知るや、待ち伏せて、アポなし会談をあつられる始末。このときは、三木谷氏側のほうがナーバスになっていたようで、それほど言葉は交わされていなかった模様だ。

 ところが、ニッポン放送にM&Aのターゲットを絞り込むや、昼夜を分かたぬ攻撃。リーマン社に自社株を貸し出して資金捻出するという、意外な手法と、「時間外取引」で市場のニッポン放送株を掻っ攫ったまでは、なかなかの知れ物、と評する向きも多かった。しかし、そこから先がどうもいけない。親会社であるフジテレビを過剰に刺激してしまったからである。おりしもフジ側は、TOBという、「公開株式買い付け」方式でニッポン放送株の25%以上の所得を宣言(当初は50%といっていたが、ライブドアの買取攻勢でTOB失敗になるのを恐れハードルを下げた)、ライブドアは、あくまで市場で株を買い続けた。3月上旬、TOBそのものは成功するが、それより前に、ライブドアが子会社化に必要な、発行済み株式の過半数を握ることに成功する。「ライブドアの子会社化されれば、フジサンケイグループから外れてしまう、これだけは断固阻止しなくてはならない」と考えたフジは、「新株予約権」という、これまた株に詳しい人でもあまり使われない権利をニッポン放送が、フジ一社に対して行うという荒療治でライブドアの持ち株比率を実質上、下げてしまう手段を講じた。
 もちろんライブドアは、「特定の株主に対する新株予約権は、違法行為」と提訴。先ごろ、ライブドアの主張が認められ、新株予約権行使は認められなかった。もはや、ニッポン放送はライブドアの子会社になってしまうのか、と誰もが思ったに違いない。

 ここでなぜか登場するのがソフトバンクの子会社、「ソフトバンクインベストメント(SBI)」だ。ここから先は、本当に、堀江氏が「想定」していたかどうか、わかりかねる部分だ。ライブドアとリーマンが使った手法とはやや違うが、ニッポン放送からフジテレビ株をSBIに貸したというのだ。名義書換の伴わない、貸し出しがこのように行われること自体、一般投資家には無理な話で、正規の手段とは言いがたい。しかも、貸し出された株券の去就は、SBIだけにその権限が委譲され、貸した側の「返して」などの意見は通らないというのである。
 借りているだけなので、売却は無理とはなるが、ニッポン放送の親会社的存在のフジテレビが、ソフトバンク配下に収まってしまったことで、ニッポン放送を突破口に、本丸・フジテレビも傘下に収めようとしたライブドアのもくろみは、ここに来て急速にその目的を失いつつあるのが現状である。

 経済界、特に高度なM&A関連の手法が次々飛び出して、ニュースソースだけを拾い上げて記事にすることが、あまりに難しすぎる事案となった。企業買収で大きく業績を伸ばしてきたライブドアに立ちはだかる、これまたIT企業の雄、ソフトバンク。元はといえば、通商産業省の保護の下、それほど大きな企業買収の矛先にならなかった放送界が、15年ほど前に外資に牛耳られそうになって以来(メディア王・マードック氏と国内企業グループによる、テレビ朝日の株買占め問題)の一騒動。もはや、素人のわれわれの範疇を超える出来事の応酬で、「想定」などしていられないのが正直なところである。次に何か起こっても、たとえば、ライブドア自体が資金繰りに困ってあわや、というところまで追い詰められても「予想してました」といけしゃあしゃあと述べるのであろうか?
コーナートップへ