第9回 メーカーとしての責任の所在
東京都港区で起こった、エレベータの急上昇による死亡事故は記憶に新しい。
メーカーは、スイスに本部を持ち、世界でのシェア獲得率2番目という「シンドラー社」。オートスロープなどでは日本でも相応のシェアを誇っている。
しかし、事故が起こってからのこの会社の対応に、苛立ちを感じていなかった人はいなかっただろう。
そもそも「製造上の不具合は認められない」と、最初からの完全無欠宣言。事故が起こったことは、保守の問題ではないかとすりかえる始末。しかし、各地で同様のトラブルが起こっていることが次々発覚。事故後、事故を起こした型とは別の機種で、メーカー側の責任者がドアが開いたまま作動する制御装置のプログラムミスがあったことを明らかにするといった決定的事象が現れてしまう。
事故現場に担当者が訪れたのも事故発生から10日もあと。国土交通省に事故報告に行ったのも、交通省側が呼びつけてはいないものの、かなり時間が経過してからのことだったと記憶している。
ほかのメーカーに比べてトラブル発生率が高いとされる同社のエレベータ。そういった情報が会社に届いていたとすれば、「製造上の不具合なし」と大見得を切って発表できるものではないと考える。つまり、幸か不幸か、自身の会社の製品の信頼性は高いという、間違った認識の上で、国内で営業していたことになる。実態は、安物買いの銭失いどころか、人命失いになってしまったわけで、製造上であれ、保守点検の過程であれ、責任の所在ははっきりしておかなくてはならないと思う。
しかし、対応が遅く、恐ろしく自社の製品にプライドを持っているこの会社が、補償問題や今後の対応にすばやく、真摯に行動するかといわれると疑問視せざるを得ない。本当に事故を収拾する気があるのかどうか?本当の危機管理能力が問われることになりそうである。
コーナートップへ